1515 ジュニアの冒険:さらば魔島
うわぁあああああ、温泉だぁあああああ。
僕ジュニア。
この絶えず地中から噴き上がるお湯。
まるで滝を逆さまにしたかのごとく雄大だ。
この温泉を掘り当てたのが僕だとは。
改めて実感が凄いなあ。
「温泉ッ!? 温泉じゃあああああッッ! 大陸で入ったのと同じじゃああああッ!」
「ちょっとホルコスちゃん!? 結局掘り出しちゃったの温泉を!? え、違う!? ジュニアがやった!?」
アゼルさんもレタスレートおねえさんも、唐突な展開過ぎて目をまん丸くしている。
当の僕だって状況を飲み込み切れていないんだ。
ホルコスフォンおねえさんだけがいつものマイペースで落ち着きを払っていた。
「はい、ジュニアが見事にやってのけました。わたくしも指導者として鼻が高いです」
「指導したの!? 何やらかしたのホルコスちゃん!?」
さすがのレタスレートおねえさんもツッコミに回らざるを得ない急展開。
「まあ、まずはこの垂れ流しの温泉をどうにかしましょうか。なんだかもったいないものね」
「相変わらずの貧乏性ですねレタスレート」
「うっさいわね! こちとら苦労した期間が長いのよ!」
などと軽口を飛ばし合いながら、なんかチャチャッとどこから出したかわからないパイプを繋げて、恐らく簡易的な温泉配布施設を造り上げた。
何この手際のよさ?
「バルブも付けたから噴出を止めようと思えば止められるし、パイプを継ぎ足せば望んだ場所へ温泉を注ぐこともできるわ。まあそこは地元民であるアンタたちが色々工夫してみなさい」
「おお! 親切に有難いのう!」
「……まあ、行きがかったからにはね」
見て見ぬ振りができないのがレタスレートおねえさんの人情だった。
「レタスレート」
「なによ!?」
「懸念であった温泉配備がこれで現実的になりました。この上は出資も困難ではないと推測いたします」
「うう……!」
ホルコスフォンおねえさんが押し切ろうとする珍しい図?
レタスレートおねえさんはしばらくウンウン唸っていたが……。
「……もう、わかったわよ! 儲ける要素があれば突っ込むのがお金の流れ! その代わり倍にして返しなさいよ! 十年以内に!」
「やったー!」
アイデアがまとまり、人材が集い、資金を得る。
これでもう魔島観光再整備プロジェクトを阻むものは何もなくなった。
「やるからには手抜きはナシよ! この豆アイランドを世界一の観光地に仕立て上げるわ!」
「そんな名前じゃねーよ、魔島だよ!」
ヘタしたらレタスレートおねえさんに乗っ取られかねないリスクだった。
やはりこの経済人、危険すぎる。
「ありがとうジュニア殿! これもすべてキミのお陰じゃあ!」
アゼルさんがトコトコ駆け寄ってきて、僕の両手を掴んでブンブンとシェイクする。
喜びの意が全身から漏れ出ている。
「これまでまったく進まなかった魔島の観光地化が、キミが訪れた途端にすべてがトントントントントントン拍子じゃあ! キミこそまさにマレビトじゃあ!!」
うむ、僕も最初この島に流れ着いた時、こんなことになるなど思いもよらなかった。
そもそも魔島という存在自体知らなかったのだから。
しかしこの島でのあれやこれやは、僕に他ない貴重な学びを与えてくれたように思える。
アゼルさんの指導者としての熱い意識。
観光地を創り上げんとする様々な方策。
実地で得難い経験となった。
「あとはルキフ・フォカレ殿がいつまでに引退してこちらに移り住んでくれるかじゃのう! あの方の各歴史小説は、きっと大作になるわい!」
そういやそんな話もあった。
本当にあの人引退できるのかなあ? これまでも散々辞めろ辞めろと言われて辞めなかったのだから。
最後にまだまだ粘るんじゃないだろうかと心配ではある。
ともかく……。
僕がここでできることはすべてやり終えたように思える。
それが、この場所を去る時だ。
今まで、この旅で巡ってきたすべての土地で、そうだった。
「ええ~、行ってしまうのかジュニアくん? 何ならこの土地に永住してくれてもいいんじゃぞ?」
かなり突っ込んだ提案!?
さすがに永住を打診されることはなかった!?
有難い申し出(社交辞令)ではありますが、僕は行かねばなりません。
僕には帰る場所がりますので。
「そっかー、残念じゃのう。しかしこの魔島はもう既にキミの第二の故郷! いつでも気が向いた時に訪ねてくるがよい!」
いつの間にかセカンドカントリーにされている!?
この押しの強さが指導者に必要たるもの!?
「おッ、ジュニアついに農場に帰るの?」
「だったらついでです、送ってさし上げましょう」
とレタスレートおねえさんとホルコスフォンおねえさんが親切してくれる。
しかし……はて?
僕はまだ農場には戻りませんが?
「えッ、じゃあどこに行くっているのよアンタ?」
どこに行くとは?
人はどこから来て、どこへ向かうのか……とかそんな話?
「いやッ、そういう哲学的な議題ではなく」
「我々の推測が正しければ、アナタはもう既に人間国から魔国、そして人魚国をも回り終えたはずです」
はい、その通りです。
どの国も見応えがあって勉強になりました。
間違いなく我が身に血肉となったと思えます。
「これ以上どこ回るって言うのよ? この世界で主要な国はこの三つよ?」
「新興ながら農場国もありますが」
「地元回ってどうするのよ?……まさか、まさかの二周目!?」
そんなよくわからないことはしませんよ!
……そうですね、自分でもわかっています。
この旅の終わりが近いことを。
僕はいずれ父さんのあとを継ぎ、農場国を背負う立場。
その運命に耐えられるように、みずからを鍛え上げるために世界各地を回った。
どれほどのものか自分ではわかりにくいが、世界各地で得た経験が少なからず族を成長させてくれたと思っています。
「だったらなおさら、修行の旅を完了して農場に戻るべきじゃない?」
「そうです、これ以上回るべき場所はもうないと推測いたしますが」
いや、ある。
少なくともあと一つ。
実は最初の方で、あの場所に立ち寄る機会はあったのだが、あえて僕は避けた。
時期尚早だと思って。
旅を始めたばかりで、それほどレベルアップしていない僕では、あの場所を踏破するのは難しいと感じていた。
だからこそあえてスルーし、この旅の締めくくりにすべしととっておいた。
「そんな、好きなおかずを最後に食べる、みたいな……!?」
この旅で、自分がどれだけ成長できたか。
父さんのあとを継ぐに足るだけの力が備わったか。
それを確かめるためにもあの場所は最適だと思う。
レタスレートおねえさんたちの言う通り三大国家を回り、それだけでなくエルフの森やドワーフの集会。
ドラゴンの国にも訪問し、神界まで巡って。
様々な経験を積んだ僕にとって、その蓄積がいかほどのものかを試すのに打ってつけの場所だと思えるからだ。
「もったいぶるわねえ、結局どこなのよ、そこ?」
気になりますか。では答えましょう。
その場所の名は……。
――『聖なる白乙女の山』。
「なるほど、そこですか」
「あー、はいはい」
得心顔する二人に、アゼルさんだけが心当たりなく当惑する。
「なんじゃ? 有名なのか? 自分らだけで納得せんと教えてくれい!」
「まあ、こんな海を隔てた孤島じゃ知らないのも無理ないわね」
そう、『聖なる白乙女の山』は、人間国の領内にある山型ダンジョン。
その主であるアレキサンダーさんは世界最強の竜と言われ、彼以外の誰であろうと……同族のドラゴンだろうと……追随すら許さない。
そんな最大最強ドラゴンであるアレキサンダーさんが支配するダンジョンもまた、世界最大、攻略最困難といわれていて多くの冒険者を魅了してきた。
僕もまた、挑戦するとなったらこれまででもっとも大変なことになるのは間違いない。
だからこそこの旅の集大成……卒業試験に相応しい場ともいえる。
僕のこれまでを懸けて……。
いざ行かん、最強ドラゴンの住む山へ!!







