1512 ジュニアの冒険:魔島に温泉を
こうしてとんぼ返りで魔島に戻ってきた僕ジュニア。
ジュニアです。
温泉に入ってのんびりできたはずが、まったくのんびりできてない。
僕にスローライフはあるのか。
「さあ、今こそ温泉が噴き出す時じゃあッッ!!」
ずっとテンション高めなアゼルさん。
温泉というよりはルキフ・フォカレさんの生涯現役力に脳を焼かれている。
「温泉があれば魔島にも観光客がガッポガポ! 魔国宰相が協力してくれるとあれば成功は約束された! これで頑張らないでいつ頑張ると言うんじゃあああッ!?」
いや、ルキフ・フォカレさんが協力してくれるのは魔国宰相を引退してから、一執筆者としてですからね。
魔国宰相としての権力は一切動かせないと認識しておいた方がよいかと。
「なぁに、そんな細かいことを気にせずとも、温泉さえ湧けば万事解決よ! 温泉はなあ、あらゆる病を完治するんじゃあ! カッカッカッカッカ!」
あらゆる意味で温泉に過剰な期待をかけている。
そんな温泉は、村おこし的にも人体的にもすべてを解決するエリクシル的存在にはなりえない……いや、なるか?
どちらにして温泉を掘り当てないことには話にならない。
そこで……ちょっとすべてを冷静に立ち返ってはみませんか。
そもそも温泉って、どこでも掘れば出てくるというものでもなく。
アタリハズレは必ず出てしまうものだということを心得いただきたい。
ルキフ・フォカレさんも言っていた。
ここ十年、父さんの真似をして色んな町村が温泉掘削に挑戦してみたが、成功したのは一割にも満たなかったと。
温泉というのは、地熱に温められた地下水脈を掘り当てられるかどうかで成否のすべてが決まる。
掘り当てられなかったら永遠に掘り続けることになってしまう。
やみくもに掘ればいいというわけじゃないんだ。
「ほうほう! さすがプロは的確なことを言うのう!」
プロじゃないです。
実際、具体的にどう掘れば温泉が出てくるのかも知らんし。これ以上は俄か知識の僕ではどうしようもない段階です。
そこで僕は……助っ人を呼ぶことにいたしました。
「スケットダンス!?」
いやダンスではないが……。
温泉街へ繰り出した時、のちの展開を読んで連絡を出しておいたのです。
さすが僕、有能。
そんな僕の願いが集って光差す道を通って召喚されてきたのは……。
ホルコスフォンおねえさん!
レタスレートおばさん!
「だから、おばさんじゃねえって!!」
へぶしッ!?
世界を牛耳るレタスレート&ホルコスフォン社、またの名を豆カンパニーの共同代表たる両名。
経済面で世界をまとまる黒幕といってもいいお二人さんだ。
「おお、こんな別嬪さんがようこそ魔島へ! 幸先のいい訪問客を歓迎しますぞ!!」
「あらお世辞の上手な人、嫌いじゃないわ。お礼にウェルカム豆を振る舞ってあげましょう」
ウェルカムって迎える側が言うものでは?
まあ、そんな常識も通じないから世界一の巨大企業を経営するまでになったのだろうが。
「で、そっちのバカ息子」
バカ息子!?
僕のこと!?
「そうよアンタ以外に誰がいるのよ。まったくオヤジの権力で呼びつけてくるなんて、アンタの弟の方は絶対にやらないわよ。まったく私の時間は安くないんだから」
ずむっぐッ!?
あの、胸に深く突き刺さる一言を簡単に放たないでおくれでないですか?
それでも呼べば来てくれるレタスレートおねえさん、優しい。
「知らないのですかジュニアさん。レタスレートは優しいのですよ」
はい。
ホルコスフォンおねえさんの言う通りです。
「で、今日はこんな海の果てまで何用で呼び出してきたの? ただ豆が食いたいから持ってきて、なんて理由だったら麻袋いっぱい口内に流し込むわよ?」
さすがにそんな理由で呼び出したりはしませんよ。
詳細は……そうだな、アゼルさんに語っていただきましょう。
「うむ、実はな、この魔島に温泉を作りたくてのう!」
「「温泉?」」
アゼルさんの語りに、ひとまず耳を傾けるレタスレート&ホルコスフォン両おねえさん。
「そうじゃ! 大陸の温泉に浸からせてもらったが、アレは実に気持ちいいし健康にいいしで、長年患っていた腰痛がピタリと収まったわい!」
え? そんな健康的改善が水面下で起こっていたんですか? 温泉だけに?
「そういうわけで我が故郷、魔島にも是非とも温泉を作りたい。島民の健康にもよいし、温泉目当てに観光客が押し寄せてくる余禄もあるでなあ!」
そっちの方がメインだったでしょう確実に。
「そこで本格的な温泉作りを、このジュニア大師匠にお頼みしているのが今の状況じゃな!! ジュニア殿ならきっと立派な温泉街をおっ建ててくれることじゃろうて!!」
「ふーん……コイツが……ねぇ……?」
そんな胡乱げな視線を向けないでくださいますか?
「なるほどバカ息子が私たちを呼び出した理由は察せたわ。要するにホルコスちゃんをアテにしてきたわけね」
そうでございます!
さすがレタスレート大社長の御慧眼!
何が慧眼なのかと言うと、これまでいくつもの温泉を掘り当ててきたのは、ここにいる大権能力主座智熾天使ホルコスフォンおねえさんによる功績だったのだッ!
どういうことかと言うと……。
「ちょっと一調べして見ますか」
そう言って小鉢の中の納豆をかき混ぜ始める。
常時携帯しているのか納豆。
そうやってグルグルかき混ぜていると当然、納豆なのだから糸を引き始まる。
そのまま箸を上げると、糸を引いた先に納豆の豆一粒もついてきちゃったりする。
よくかき混ざった納豆であれば豆の一粒ぐらい持ち上げられるほどの丈夫な粘糸が形成されるものだ。
粘糸に垂れ下がる納豆その姿は、さながら鎖に繋がれたペンデュラムのようで……。
「何をしとるんじゃ? あのおねえさんは?」
アゼルさんが疑問に思うのも当然。
しかし、今は静かに見守っていきましょう。彼女たちの革新を信じて。
「納豆の教え導くままに……」
粘糸にぶら下がった納豆一粒が、静かに揺れる。
風に揺れるのか、地面からの振動に揺れるのか。
それも定まらず、ただ納豆の神が啓示を下すかのごときペンデュラムの揺れが一層激しくなったところで……!
「ここです、ここに温泉の水脈があります」
「マジで!?」
これがホルコスフォンおねえさんによる納豆ダウジング!
彼女はこれでいくつもの温泉水脈を発見してきた!
農場の温泉も、温泉街も、すべてホルコスフォンおねえさんが掘り当てたもの。
要するにホルコスフォンおねえさんは納豆天使であると同時に、地中から温泉をもたらす温泉天使でもあったのだ。
温泉を求める魔島に、彼女を招致した理由。
おわかりいただけただろうか!?
「マジかの! さすが我らが魔島、温泉だって地下深くに眠っておる!」
アゼルさんも良好な結果にご満悦。
そりゃそうだ、出てくるかどうかわからない温泉水脈をギャンブル感覚で掘り進めるより、あらかじめダウジングで調査して確率の高いところを掘る方が、精神的にも低負担ゆえにな。
よし、こうなったらあとはあとは掘り進めるのみ!
そこも温泉天使ホルコスフォンおねえさんの剛腕は保証されている!
どんなに地下深くに潜む水脈も、天使であるホルコスフォンおねえさんのドリル機能があれば近何百メートルだって掘り進める。
さあ、ホルコスフォンおねえさんよろしくお願いいたします!
「お断りいたします」
あれッ!?
「ジュニアくん? アナタは認識を改める必要があるわね。たしかにアナタのお父さんは色んな人に助けを求めて助けてもらっているけど、誰もがそうできるわけじゃないのよ」
と言うレタスレートおねえさん。
「ホルコスちゃんは、数万年地中に埋まっていたのをセージャが掘り起こして、復活させてくれた恩がある。私だって人間国が滅びて処刑されかけたところをかくまってもらった恩があるしね」
そんなことが!?
レタスレートおねえさんもハードな人生を歩んでいらっしゃった。
「この世界の多くの人間が、セージャに大なり小なり特大なりの恩があって、その恩情に報いるアイツのことを助けているのよ。そしてその恩は、息子であれどもアナタへ無条件に引き継がれるわけじゃないの」
「アナタのお父上が、世界中の色んな要人を呼べるからと言って自分も同じことができるなどと思わぬことです。その偉業は、マスターがマスターであるからこそ実現できることなのですよ」
たしかにその通りだ。
父さんがあまりに簡単に周囲の人々に声掛けしているから自然のことだと思いきや、それは聖者と謳われた父さんだからこそ可能なバケモノ所業であったのだ!
その父さんのバケモノ能力を、息子の僕が引き継げるかは別の話!
そんな簡単なことにも今まで気づけなかったのか僕は!?
「それを置いておいても、協力できない理由はあるのだけれどね」
ええッ、まだ何か!?
何があるんですか!?
「それは……ここが有名なコーヒーの産地だからよ!!」
何故そこでコーヒーが出てくる!?







