1504 ジュニアの冒険:魔島見学
魔島に流れ着きし僕ジュニア。
この島は相当に由緒ある場所らしい。
かつて大陸の魔族から枝分かれして独特の発展を遂げた。
それがこの魔島。
海の果てにある忘れられし楽園……。
「忘れられてねーわ!」
しかし楽園たくさんあるな海。
人魚族の楽園島あり、海の神界オケアネスあり、そしてこの魔島あり……。
それだけ複数の楽園を内包するほど海は広いな大きいなってことか。
「無視かよ……まあいい、遭難者って言うなら保護して、本土への帰りの便を手配してやろう。それも当主の務めだからな」
本当ですか、やったあ!
このアゼルという小さなオジサン。なんともとっつきにくい態度かと思われたが、よくよく話してみると親切でいい人だ。
さすが島全体の指導者と感服する。
「でもよぉ、島主様も本土の魔王様と出会うまでは“真魔王”とか名乗って得意げだったべぇ。イキッててダッセェなと思うとったべよぉ」
「煩えな! いいだろあの頃は自分らだけが魔族の生き残りだと思ってたんだから魔王名乗ってもよ!」
島民とも親しげに接してくれる。
理想形の為政者だった。
「あの……ちょっといいでしょうか?」
「んあ? ああ悪いなそっちのけにして。漂流していたのなら飲まず食わずであっただろう。まずはメシでも食らうがいい」
いえ、さっきも言いましたが食料なら漂流中も豊富に摂取しておりましたので。
それよりも今は重要なことがあります!
お願いですから、この魔島を見学させてもらいませんか!
「見学じゃと?」
左様です!
この魔島、大陸の各国とも違う独自の発展を遂げ、見るべきものが多いように思えます。
漂流の結果、そんな魔島に流れ着いたのも何かの縁、ディスティニー!
多くを学んで故郷に帰るために、是非とも魔島を隅から隅まで見て聞いて記憶に刻ませてください!
「ううむ……要するに勉強熱心な子だの。よかろう、そういうことならこの魔島の主アゼル様が島案内してくれようではないか!」
ええ、島主みずから!?
なんて手厚い歓迎なんだ!
「違うよぉ、島主様やることがないからって、いい暇潰しを見つけたんだと思ってるんだべぇ。いかんべよ、いい若者を、年寄りの余生過ごしに付き合わせちゃよぉ」
「暇じゃないわい! ワシは日々魔島の主としての務めをなあ! 魔島のよさを外へ広めるのも島主の義務! それにワシは余生を気にするほど老いぼれてもおらんわ!」
島民と激しくしゃべり散らかす島主。
こうして僕は思わぬところでまた学びの機会を得る。修行の旅なんだからちゃんと最大限のことを学んでいかないとね。
* * *
島主アゼルさんに連れられて、僕は外……魔島の人里部へと繰り出した。
島内は人の手によって整えられており、踏み固められた道、整然と並ぶ段々畑、遠くには海に沿って建設された港の景色が見える。
道を歩いているとすれ違う人も多いし、長閑ながら同時に賑やかな雰囲気だ。
上陸した時は無人島かと思うほど何もなかったんだが、同じ島内でもこんなに様変わりするとは。
「居住エリアは南側に集中しておるからの。小さい島だからっていたるところに人が住んどるわけではないが……、そうか、おぬし北側に漂着したのか。そりゃまた大変じゃったのう」
はい……、まあ初上陸だからどこから上がるのが効率いいかとかわかりませんしね。
遭難・漂流に効率も何もないですし。
それは置いておいて、いざ魔島の人里部を見て回る。
さすがに魔都や王都に比べると人家も少なく未発展ではあるが、その分長閑で時間がゆっくり過ぎていく感覚がある。
「魔島は比較的温暖な気候で、年中温かく夏冬の気温差も少ない。おかげで農業も漁業もやりやすく、我ら島の民は飢えや寒さに怯えることなく穏やかに過ごしてきた。まあ、そんな気候だからこそ祖先もここを新天地に選んだのだろうがの」
混乱に追われて大陸本土を脱出した、百年前の人々か。
「そんなわけでここ魔島も、本土との交流が復活するまでの間、戦乱らしい戦乱が起こったこともない。おかげで島の連中も平和ボケしおって気概も感じられん」
いいことじゃないですか、それは?
いずれは世界中すべての人々が平和に慣れてほしいものです。
「ふむ、てな感じで我が魔島の主要産業は農業と漁業。……その中でも特筆すべき生産品が……これ!」
いつの間にやら広大な畑に案内されていた。
その畑地には背の低い木が整然と並べられていて……あの木は何? 気になる木?
「コーヒーだ!!」
「おッ、コーヒー畑を知っておるのか? なかなか博識じゃのう」
アゼルさんが賞賛してくる。
「ここに伸びておるのは、コーヒー豆を実らせるコーヒーノキじゃな! どうじゃ、そのまんまじゃろ!」
ええ、まあ……はい。
あの黒くて苦くてコクの深い飲み物のコーヒーですよね。
そのコーヒーの豆を実らせるコーヒーノキのことは知っていますし、何なら見たこともあります。
農場で生産されていますので。
父さんがコーヒー好きだから、特にコーヒー栽培に力を入れていてヴィールから『苦いものより甘いもいのを育てろー!』とか、エルフたちから『コーヒー豆より茶葉を育てろー!』とか言われながらも頑なにコーヒーを育て、収穫からコーヒーとして飲むための処理までキッチリ行っている。
『そこまでして飲みたいものなのか……?』などと息子の僕は訝しんでいたが、最近はノリトまで好んでコーヒーを飲むようになって、男家族としては益々肩身が狭い。
だって苦いの苦手なんだもん!
だから魔都のグレイシルバさんの喫茶店で克服を試みたが結局できなかったなあ。
カフェオレに救われた。
しかし、農場の他にもコーヒーの栽培地があったとは。
早速見聞が広まってしまった。
「コーヒーの栽培地は他にもあるが、生産量では我が魔島がナンバーワン! 本土にある『サミダ珈琲店』や『スターシャクス』でもここで育てたコーヒー豆が卸されておる! 凄いじゃろう!? 驚いたじゃろう!?」
はあ……はい。
多分、喫茶店の名前なんだろうけれどゴメンナサイ知らない……。
喫茶店はグレイシルバさんのお店にしか言ったことがないので。
「コーヒー豆は間違いなく魔島の主要産業! 世界各国へと輸出されて外貨でウハウハよ! コーヒーある限り魔島は沈まぬ、永遠になあああああッッ!!」
なんか異様に息巻きだした。
どうしたんですかいきなり天下統一を担う野心家みたいに。
「輸出量を支えるためにも開墾を進めてな。今では魔島の東側一帯がコーヒー畑じゃ! 今年も豊作が見込めるぞ!」
東側がコーヒー畑。
土地柄については、さっき言ってたな。
南側に人の居住区が集中していて、北側が手つかずの未開地。
そこまで言われると気になってくる。
北南東ときて、残り一つのエリア……。
「西側には、何があるんですか?」
「うぐッ!?」
おや?
なんだかアゼルさんの肩がビクッとしたあと、すべてが止まった。
あんなに得意満面にコーヒー自慢していたのも、ピタリとやんでしまった。
……どうしたんだ? この沈黙にいかなる意味が?
「行ってみたいか、魔島の西側?」
えッ、何ですそんなにいわくありげに?
そんな念押しされたら却って怖くなってくるんですけれど……。
「行きます!」
「いい返事だなあ」
* * *
そして現地に到着して、すぐ視界に入ってきたもので理解した。
何故アゼルさんが、ああもモゴモゴしだしたのか。
廃墟だ。
魔島の西側にあったのは、誰も住まなくなった家屋が数年放置され、雑草で覆われて無残な姿となっている。
つまり廃墟であった。
何故こんな荒涼としたものが魔島の一角に?
牧歌的ながらも賑わいのある南側とはあまりにも違う。
その廃墟を目の前にして、アゼルさんはしょんぼりしながら話す。
「本土との交流ができた時にな……」
十年以上前の話。
「島の外から人が入るようになって『よし! これで観光産業狙える!』って盛り上がったんだよな。それでその勢いのままホテルやら観光名所になりそうな建物をズバズバ建築していったんだが……」
しかし思ったよりも振るわず。
「島に訪れる人はいたけれど、コーヒー買い付けのための商人とかがほとんどで、南側にある旅籠で充分賄えちゃったんだよな。観光エリアとして拓いた西地区じゃ都市部である南側は遠いし……、それでいい手も浮かばずに時間だけが過ぎていった結果……」
やがて多くの人々が観光業からは手を引き、土地から動かせない建物だけが残って、そして廃墟となっていった。
ここが、兵どものの夢のあと……ということか。
「うぉおおおおおおおおんッッ! この観光業の失敗でエグイ負債が積み上がって、コーヒー産業で上げた利益とトントンになっちゃうんだよぉおおおおおッ! だから外との交流ができたのに思うほど発展しなくてぇえええッッ!!」
と言って泣き伏すアゼルさんだった。
理屈としてはわかるが、実際にこの目で見ると事業失敗による損害ってエグすぎる。
後々父さんのあとを継ぐ僕も、将来はこういうリスクを背負っていくんだろうなあ。
そんなリスクを実感できただけでも、魔島を訪れた甲斐はあった?







