1494 ジュニアの冒険:プロメテウスの比
『まあまあ、それよりももっといい話をしようではないかパパよ』
間に入ってとりなすポセイドス神。
フォローできるなんて意外だな、失礼だけれど。
『せっかくこの世界に来てくれたんだから、それこそ観光案内でもしてあげたらどうかな。何しろ人の子におけるお客様第一号といったところゆえ!』
『おお、言われてみればその通り! よくぞやってきたジュニアよ! ウェルカムトゥアトランティス!!』
旧神ティターン族が築き上げし新たな神界アトランティス。
ここは……オケアネスから渡ってきたから海の神界の一部に入るんですか?
『いいや、まったく別の世界だな』
『オケアネスは“海”の性質上様々な異界へと続く懸け橋になるのだよ。海の向こうはどこにでも繋がっている……というわけだな』
得意げなポセイドス神の説明。
『最初はどこに新しい世界を作ろうか迷ったのだがな。元の世界に作ったらスペースを圧迫するし、元からいる者たちとの軋轢が生まれかねないだろ。それならばまったく違うところに一から作るのがもっとも角が立たないかなと』
配慮ができる神クロノス。
それならば世代交代についても配慮をお願いしたいのだが、経験からくる持論はなかなか修正できないのであった。
『それがここアトランティス! ただの神界ではなくて、生物が住める環境でな。ゆくゆくは鳥獣草木諸々を創造して住まわせ。我々神は天空かそこらから見守りたいと思っている』
『海からはどうっすか? 住みやすいですよぉ』
『湿気がなー』
楽しげにここからの予定を語るクロノス神。
彼はこの世界を、僕たちが済む世界のように賑やかに彩りたいらしい。
数万年単位で封印されてきた神が解放され、自由を得て何をするかとしたら、新しい世界と生態系をゼロから構築する。
まこと平和で好ましい。
『見ての通りハコ作りは一段落ついたから、次はそこに住む生き物の創造をな、急ピッチでやってこうと思っているところだ』
『いいですねパパ! 魚から作りましょうよ魚から!!』
『息子の海推しが圧い』
まだ小鳥のさえずりすら聞こえないこの無限大陸。
ここに少しずつ生き物が増えていって、いずれは数億もの命が営み、文明を築いていくのか。
……壮大なタイミングに立ち会えた気がする。
『まあでも、最初に作るとしたらやっぱり植物からかなー。我、農耕神だから自分の担当物にはこだわりたい』
『わかるー、私も魚類や軟体動物に拘りあるし』
神の好きな生物創造トークが炸裂している。
僕もあの会話に……交ざらない方が無難かな。
『あ、ジュニアくんはどんな生物作りたいー?』
だから僕を交ぜこもうとするな!!
僕は人間! 人の子!
生命を管理監督するような偉い立場にはおりません!!
むしろ日々変化する自然の濁流の中で、賢明に作物を育てて日々の生活を支えていく父さんのように僕はなりたい!!
『己の生き方をしっかり定めていてジュニアくんは偉いなあ。ウチの子らもこれぐらいしっかりしてくれればいいんだが……』
『ひゅー、ちゅー、てゅー♪』
『口笛吹けてないぞ』
いやクロノスさん、アナタのお子さんのオリュンポス神族もちゃんときっちり仕事していますよ。
……………………ハデス神、とか?
『そうだ聖者の息子よ! せっかくだから見学していこう生命を創造しているところを!』
何ですかいきなり急激な話題転換!?
急激すぎて話の腰と一緒に自分の腰も折れそうだ!
『生命創造なんてそう簡単に見れるものじゃないぞ! 大抵の場合最初の最初に作って、あとは殖えると栄えるに任せるものだからな!』
『まあ、キミが元住んでる世界ではまずお目にかかれるものでもないだろうな。既にある程度完成されてる世界に新生物とか投入されたら困るだろう』
言われればたしかに。
物珍しいとわかれば一目見たくなるのが人情というもの野次馬根性というもの。
しかもこれを逃したら生涯二度とチャンスがないと言われたら、別に望んでいなくても見てみたい気持ちが起きてしまう。
「ハイ! 見たいです!!」
『よい返事だ、では現場へ案内しよう!!』
意気揚々と僕を連れて進み出るクロノス神。
一方でその息子は……。
『じゃあ、聖者の息子はパパに任せるんで私は海に還ります』
ポセイドス神は早々に早引き宣言。
『あ、ケートスは置いとくんで帰りは心配しなくていいぞ聖者の息子よ。心行くまでクロノスパパ謹製ニューワールドをご堪能あれ! それでは私は帰ってパラセーリングでも楽しむかなー!』
と黒潮のごとき迅速さで駆け去っていくのだった。
……やっぱあの神も仕事してなくない?
神の仕事って何なのだろうなあ?
『それでは神への不信感が高まっているジュニアくんのためにも、真面目な神の仕事場にご案内するか』
こうしてクロノス神に導かれてたどり着いた場所は……。
生命創造の工房だった。
『うーん、うーん……インスピレーションが湧かない……!!』
ド真ん中で、何やらアーティストめいた独り言をつぶやいているのは誰か。
見た感じ気難しい顔の男神のようだが……?
『あれはプロメテウスだな。我らティターン神族に属する神だ』
そこへクロノス神がすかさず解説。
痒いところに手が届く。
『ティターン神族ではあるがかつての神代戦争には参加していなくてな。最後まで中立を貫いたので戦後もタルタロスに幽閉されなかった。そして何よりヤツこそが、人類を創造した神でもある』
えッ? あの神が?
でも人類は、オリュンポスのそれぞれの神が……人族は天界神、魔族は冥界神、人魚族は海神族が生み出したのだと聞いていますが。
『その大元を作ったのがプロメテウスだ。アイツは人間の大元の形を作り出したあと、それらを天地海それぞれの神へ出荷した。そして最後の仕上げにオリュンポスの神々が魂を吹き込んで、各々の人類が生まれたってわけだ』
そういうプロセスで生まれたのか人類。
ということはあのプロメテウス神が真なる人類の祖!?
『いやー、そういうことになるのかなー。だからな、この世界でも人類創造するなら実績を積んだプロに任せるのがいいと思って呼んでみた』
餅は餅屋。
最初から専門家に依頼する合理的な判断のクロノス神。
『断られるかと最初は思ったんだが、意外にもスンナリ引き受けてもらえた。やっぱり同族のよしみってことかなーッ!?』
『違うぞ。ちゃんと条件が正当であれば選り好みせず依頼は受ける。それだけだ』
『聞こえてたッ!?』
うんうん唸っていたプロメテウス神が急に話に入ってきたのでビビる。
クロノス神もビビる。
『なんだ、聞こえていたのか……!?』
『そりゃーこの距離ならな。オレは種族とかには拘りがない。だからティタノマキアでも中立だったし、そもそも自族を贔屓にするならオリュンポスどもの依頼なんて受けないだろ』
『た、たしかに……!』
芸術家肌の気難しい神様のようだ。
『このプロメテウスは始原の神。あらゆる物事の始まりを司る。だからこそこうした「最初の生物」を生み出すことも得意としていて、この点にかけては造形神ヘパイストスをも凌駕すると自負しているよ』
『さすがプロメテウス! 自信ある一言に憧れる!!』
『ヘパイストスは完全無欠の一点ものを生み出すのに秀でているからな。だからこそ無限に繁殖し、数多く増えていく生物の創造には向いてないし、アイツ自身創作意欲が湧かないんだと』
たしかにそんな感じがする。
過去、実際にヘパイストス神と対面した時も、自身制作の『至高の担い手』から派生した『究極の担い手』が気に入らないっぽかったもんな。
自分の仕事が制御下を離れていくことを不快に感じるタイプなのだろう。
『オレにはそういうこだわりはないからなー。生み出されたものが我が手を離れて、どう発展していくかも楽しみのうちだ。そういう意味では今オリュンポスどもの世界にいる人族、魔族、人魚族も大いに満足を与えてくれる』
『そのプロメテウスの職人気質! 素晴らしい!』
どうしてクロノス神はさっきから相手を持ち上げまくっているのか?
一応ティターン神族の長なのだろうに。相手はそういうの気にしていなさそうだが。
『……実はな、プロメテウスくんの作業進捗が芳しくないのだよ』
僕の耳元で囁きかける。
あの、あんまり近づくのやめてください怖いので。
『依頼を受けてくれたまではよかったんだが、いざ工房に入って仕事を始めようとすると途端に手が止まってな。そのまま約一年進捗なし』
一年!?
そこまで作業が進まなかったら人類だったら契約切るところじゃないですか!?
これ許されるってさすが神のスパン!?
『彼以外に頼める者がいないってのが大きいなあ。彼が動いてくれない限り全体の作業も滞るし、なんとかやる気を出してほしいんだが……』
……。
なんです? 神よ?
この人の子に過ぎない僕にジットリ視線を向けて。
『頼む! キミの起点でどうにかできないだろうか!? ホラ聖者ってそういう無理難題を解決するのが得意だろう!? その血を引き継いだキミならばなんとかできるんじゃないかと!!』
そんな無茶ぶりやめてくださいよ!
父さんは父さん! 僕は僕!
父さんにできることが僕にも必ずできるわけではないですって!
……努力はさせていただきます!







