1493 ジュニアの冒険:新界の旧神
かつて戦いがあった。
覇権の交代を巡る神々の争いだ。
一方はかつて栄えた神……ティターン神族。
もう一方はこれから栄える神……オリュンポス神族。
旧き神と新しき神は正面からぶつかり合い、長く熾烈な激突の果てついに決着がついた。
勝ったのは新しい方、そして古い側の敗北。
負けたティターン神族は地の底へ封印されることになり、地上は勝者の楽園となった。
敵なしとなったオリュンポス神族は奪い取った領域で勝手気ままに振る舞い、無抵抗な者どもに暴虐非道の限りを尽くして……。
『待った待った待った……!』
ポセイドス神が物言いに入る。
『脚色ついてる、脚色ついてるよ父上。いくら負けたのが悔しいからって一方的な知見は公平性を欠くよ?』
『歴史は敗者が作る!』
語りを乗っ取られた。
ティターン神族の王クロノス神の視点から見た旧神界戦争でした。
『もー、パパったら戦争で負けたのまだ根に持ってるの? 何万年前だと思ってるの? 歴史の捏造までして……!』
『お前らが勝ったあとに好き放題やりだしたのは事実だろう』
『………………………………はい』
一発論破される神、悲しい。
そんな敗北者ティターン神族であったが、冥界より遥か下の地底タルタロスに幽閉されて幾星霜。
もうどれくらい経ったか忘れてしまうほどの悠久の時間が過ぎ去り、もう恨みもわだかまりも朽ちて風化し跡形の陰すら残さずなくなったところで。
もうこれ以上は意味がないと敗者の幽閉も打ち切られて地上へと解放された。
それがつい十数年ほど前の話だ。
『解けた割にはいまだに恨みがましいんですけれど……』
『永遠はそこにあったな!』
おどおど及び腰のポセイドス神に、どこか捨て鉢気味のクロノス神。
これが勝者と敗者の構図か……?
まあ数万年と経って発酵が進めばこんな予期せぬ形になるのかなあ。
『そんなプリズンブレイク・ティターン神族だが、解放直後は落ち着く場所もなくて三つの神界を転々としていてなあ。それはそれで各オリュンポスの神々どもから至れり尽くせりしてもらえるのは心地よかったが……』
『あの頃は生きた心地がしなかった……!』
当時を思い出したのか目に見えてゲッソリするポセイドス神。
そりゃかつてボコボコに滅ぼした先代の神が同居してきたらやりにくいことこの上ないだろうが。
『しかしいつまでも居候生活もよくないのでな。改めて自分たちの世界を作って独立することにしたのだ』
おお! 見事な良識!
現役のオリュンポス神族はないものだ!
『エライ言われよう』
すみませんオリュンポス神族にも一部良識持ち合わせた方はいますよね。
ハデス神とか。
『そこで築き上げたのかこの世界だ!』
とクロノス神は果てなき地平を指さし言った。
『富! 名声! 力! それらすべてが詰まったティターン神族の新たなる希望! その名もアトランティス!! 世界のすべてがここにある!』
ババーンとこの新しい世界の名を示す。
アトランティス。
それがこの新世界の名前。
『世はまさに大創世時代!!』
『カチ盛り上がってるところすみませんが……しかしまだ完成してないでしょうこの世界。まだ野っ原が広がってるだけだし……』
『む、そういうこと言うなよ』
世界の未完成をしてくするポセイドス神と、それに対して不機嫌になるクロノス神。
『土台作りが何より重要なのだから、そこに時間をかけるのは当然だろう。細部まで作り終わって「異常が発見されました」じゃ遅いんだぞ。全部作り直しだぞ』
『そんな深刻に捉えなくてもワーッてやってガーッと仕上げればいいじゃないですか。多少の手違いならそのまま押し通せますって!』
『これだからオリュンポス神族は……!』
これが旧神族と新神族の性格の違い。
『それがために地質調査から近隣状況も精査して十年も時間をかけるなんて。もうこのまま永遠に始まらないかと思いましたよ。ゲーム開発みたいに』
『始動したからいいんだろうが! 現場は段取り八分、仕事二分!!』
ティターン神族の方が随分もっともらしい言い分をする。
なんでこっちが戦争に負けたんだろう。勝敗が変わっていれば今頃もっといい世の中になっていたりしない?
『で、今日は何の用なのだ不肖の息子の一人よ。見ての通り私は新世界の作製で日々忙しいのだが』
『そんな素っ気ない対応でいいんですかねえ。せっかくこっちは極上のお客様を連れてきてあげたというのに』
極上のお客様?
誰だ?
そんな上等な人物がいたら僕も後学のために遭っておきたいんだが。
……僕か!
他に誰もいないもんな!
『おや、この人の子は?』
『聖者の息子ですよ。アナタだって聖者には世話になったでしょう』
『おお! 私がクリスマスに宿らせた子か!?』
『いや、それより前に生まれた子ですね』
なんだ?
僕の知らないところの神の余罪が垣間見えたような……?
『そうかそうか、聖者には私も大いに世話になってな。何でもガイアの大母上が我らを解放するきっかけを作ったのが聖者というではないか!』
『長く続いた地上の戦争を終わらせたのも聖者ですからね。あやつのお陰で世界は随分いい方向に変わりましたよ』
そして我が父の偉業もどんどん顕れる。
先刻承知のことだが、やっぱり我が父は偉大なんだなと再確認。
『聖者の息子よ、名はなんという?』
あッ、ハイ。
聖者キダン・ジュニアと申しますフルネーム。
『なるほどなるほど、よい名ではないか。なあ、そう思わぬかクロノスジュニア?』
『その呼び名、絶対やめて!!』
強硬に拒否反応するポセイドス神。
『聖者は、この旧き神クロノスから見ても立派なヤツであった。公正にして謙虚、大いなる成果を上げても驕るところがなかった。偉大な父を持つと超えるのが大変だろうが、マイペースで励むがよい』
はい、激励のお言葉恐悦です。
ただ語りの過去形やめてくれませんか。ウチの父さんまだまだ元気に生きておりますんで。
『お、そうか? 人の時間は速いからとりあえず過ぎ去った風に話しておくのが無難でな。しかし案外そこまで速くないものだな』
これが神の時間感覚!?
ま、まあ……超えるのが難しい偉大な父であるのはその通りですけれど。
『せっかく会いに来てくれたのだ。ここは神らしく迷える人の子にアドバイスでもやることにしよう。人を導く神の言葉……即ち神託だな!!』
あ……はい、ありがとうございます。
しかし神の助言ってすべからく現実と乖離することがあるからな(オブラートに包んだ)。
今回もそうなるのか、当たり障りないものならよいが。
『父を超えるためには……戦って殺すのが一番だな!』
やっぱりダメだった!!
方法が野蛮すぎる!
ダメでしょう! そのプロセス、アナタ自身が没落したプロセスそのものじゃないですか!
子どもたちから打倒されて満足しましたか!?
被害者として、同じ過ちを繰り返し推奨したらダメです!
『いや私は被害者だけじゃなくて加害者としても経験者だしなあ』
なおさらダメだった!?
隙も生じぬ二段がまえ! 被害者であり加害者という両面を兼ね備えた完全存在!
『何しろ私より前に世界の支配者であった天空神ウラヌスを背後からブッ刺して支配権をブン獲ったのが、この私』
『ヒューヒュー! さすがパパ、そこに痺れる憧れるーッ!』
ダメだ、やっぱり神でまともなヒトはいないってことなのか?
『おお、せっかくだからジュニアくんにこれを貸してやろう。我が父神ウラヌスの××××を切り取った大鎌だ。命を刈り取る形をしているだろう?』
「いりませんッッ!!」
思わず声に出して叫んでしまった。
お気持ちだけ受け取っておきます。
でも僕は、父を超えることを生涯の目標として日々励んでおりますが、もっと平和裏に成し遂げたいので。
そんな究極的に『愛などいらぬ』と結論にたどり着く最強拳法みたいになりたくありません!!
『そうなのかー、こんなに命を刈り取る形をしているのになー』
クロノス神は残念そうに、そのみずからの父の××××を刈り取った大鎌を眺めた。







