1485 ジュニアの冒険:続々神界訪問
この僕……ジュニアは人魚国から地上へと戻ってきた矢先にクライマックスを迎えていた。
目の前に壁のように立ちはだかる巨大生物によって。
この巨大生物は何者か?
ドラゴンか? 地顕獣か?
いや、恐らくそのどちらでもない。
そして人魚国から直通のここ、楽園島では通りがかりの観光客も肝を潰して怪物を見上げている。
「ママー、あのバケモノなにー?」
「シッ、見ちゃいけませせせせせせせせせせ……!」
というか恐慌一歩手前。
そりゃそうだろう普通に見て、こんな大怪獣と遭遇したらこの世の終わりと見間違う。
楽しい旅行の締めくくりとしては地獄すぎではあるまいか。
『お初に御目にかかります。ボクは大海獣ケートスと申します』
そしてこの怪物やっぱり喋る。
しかも案外物腰丁寧。
ここまで丁寧に挨拶されては応えねば無作法というもので、頭を下げ返す。
「これはご丁寧にどうも……ジュニアです!」
人魚国から戻ってきたら大ピンチです。
ジュニアです。
『ボクは海神ポセイドス様にお仕えする上級精霊の一種です』
海神ポセイドスだと!?
やっぱり神か!? ヤツら地上に迷惑事しか引き起こさねえ!
この僕の十数年生きてきた中での経験談だ!
『このたびはポセイドス様からの遣いとしてジュニア様へお目通りに来ました。どうかポセイドス様からのメッセージをお受け取りください』
メッセージ?
そんなんがあるなら自分で来いよ……とも思ったが神様は自分らの取り決めで、そう簡単に現世には来れないんだった。
いい世の中になったものだなあ、と素直に思う。
『ではまず、このタブレットをお持ちください』
ん?
何ですこの黒い板は?
ちょうど画用紙程度の大きさで、材質はやけにツルツルして反射して、木でも石でも金属でもない謎の物体だった。
質感的にはガラスに一番近いが、ガラスはこんなに黒くないものな。
しかし大海獣からしたら花びらみたいに小さなこの板を、よくまあ器用に手渡せるものだなと感心した。
そんな俺が当惑していると、黒い板がいきなりみずから光を放ってビックリする。
うひぃッ!?
『お、繋がった。……もしもし? 映ってる? 聖者の息子よ久しぶりー、元気してたー?』
その声と姿は!?
海神ポセイドスご当人? いやご当神?
暗黒だった板の表面に神の御姿が投影されておる!?
『いやー、神って不死王に召喚されないと下界に来てはならない縛りがあるからTV電話で失礼するわ。話は聞いておるぞ聖者の息子よ、何でも修行のために世界巡業中とか』
巡業かどうかは知りませんが世界を回っていることはたしかです。
それで、そのことが何か海神様とご関係が?
『そんなつれないこと言うなよー。聞いておるぞ、旅の途中で天界神どもが巣食うオリュンポスの山や、ハデスの根城冥界にも訪問したらしいではないか!』
うぐッ!?
僕の動向バレている!?
神様が一人間の行動監視やめてくださいプライバシーの侵害ですよ!
『いや冥界訪問はハデスの方から自慢げに語ってきたんだが。聞いてもないのに色々と教えに来たぞ。天界では私も直接会ったではないか?』
そういやそうだ。
天界では暴走するアポロン神を止めるためにハデス神と共にタッグを組んで押し掛けてくれたポセイドス神だった。
『それにしても聖者の息子よ。天界冥界と来て我が海の神界に立ち寄らぬのはどういう了見だ?』
え?
何を言っているんだと困惑する僕。海の神界に行くなんて誰も言っていないでしょう?
『そうは言っても天冥海の三神界のうち二つまで踏み入っておいて最後の一つをスルーとは薄情すぎやしないか? 何より汝の母は人魚……即ち汝の半分はこの海神の系譜に連なる者だというのだから、むしろ天地海のうち海の我らこそ優遇してしかるべきではないのか?』
そう言われましても……。
『縁故とかで特別扱いはしません』がウチの父の方針なので……。
それに前の二回だって別に好きで神界訪問したわけじゃないんです。
一回目は知らないうちに誘われてだったし、二回目は完全な事故です。土管を落ちたら異世界でしたと言わんばかりの神界入りだったんです。
むしろその二回ですっかりトラウマになっちゃったので、できれば二度と踏み入りたくないんですけど神界。
というわけでポセイドスさんのいる海の神界をスルーするのは大変故あってのことなんです。
『ええーッ!? どうして!? せっかく聖者の息子を歓迎するために色々準備したのにー!』
だからその準備が怖いんですって!!
天界でも冥界でも、一歩まかり間違えれば永遠に帰ってこれなくなるところだったんですよ!!
『そしたら神界に永遠に住めばいいんじゃ?』
そういうところよ!!
そういうところが神界訪問の怖いところなんですって!!
注意しなければ生きて帰ってこれなくなる、ホラー並みに恐ろしい場所それが神界。
僕はそれをオリュンポス山及び冥界で思い知りました。
よって神界は何があっても立ち入ってはならない場所として我が脳内に刻み付けられたのです。
文字通り住む世界が違うのですよ、人と神は!!
『むう……ここまで強く拒否するとは、アポロンとハデスから余程酷い目に遭わされたんだろうなあ。でも大丈夫! この海神ポセイドスは汝の母方の系譜だから、酷いことなんてしないよ!』
そんな神の言葉が信用できるとでも?
『神との約束よりも悪魔との契約の方が信頼できる』と誰かが言っておりましたぞ!?
『なんという頑なさ……こうなったら我ら神もとっておきの手段で招待するしかなさそうだな』
とっておきの手段?
なんだ?
何か美味しいもので釣る気か? 海だけに?
『もし聖者の息子が遊びに来てくれないなら……ノアる』
洪水を起こすこと“ノアる”って言うのやめませんか!?
脅迫じゃないですか! だから嫌なんだ神は!!
『まあノアっても我が眷属人魚たちは海底にいるから関係ないし。ハデスやゼウスの眷属たちが一掃されるだけだし』
それがイカんでしょつってんの!
どうした神、急に荒ぶる様を見せてきたな!!
『だって聖者の息子が遊びに来てくんないんだもん!! ヤダヤダヤダヤダ!』
くッ、大海を統べる神の幼児返り駄々こねを目撃することになろうとは。
『私からもお願いいたします。ポセイドス様の願いを聞き入れてあげてください』
アナタは大海獣!?
こんなアホ神の遣いをやらされて、さぞ御心労でしょうに!
『さすがにポセイドス様もマジでノアるつもりはないでしょう。心お優しい方ですし、本当にやったらハデス様やベラスアレス様がガチギレしますし』
そう思いたいところであるが……。
クッソこの海神、幼児性を前面に出せばこっちが折れるとでも思ったのか。
こうなったら……わかりましたよ
「招待に応じようではありませんか。行きますよ海の神界へ、行きゃあいいんでしょう!?」
『わーい、やったあ!!』
脅迫に屈する僕!
でも最低限条件が。神界で出された食べものには絶対に口をつけませんからね! ヨモツヘグイはもうたくさんだ!
『さすが経験則、対策ができておりますな』
大海獣さんから褒められても複雑な思いしかしないです!
『では、そこの大海獣ケートスに乗ってくれ! こやつが海の神界オケアノスへと案内してくれるであろう! それではこの通信を終了したあと、このタブレットは自動的に消滅する!!』
『しませんよ、貴重なProなんですから大事にしてください』
そうしてポセイドス神の姿が消えた板は大海獣さんが回収し、大事にしまい込んでいた。
『それではジュニア様、このポセイドス神の遣いケートスがオケアノスまでご案内します。帰りもしっかりお送りいたしますのでご安心を』
「は……はい」
帰路まで保証してくれるのが地味に安堵であった。
それでは案内の通りケートスさんの背に……乗るの!? このうず高い巨体の背に!?
建物三階分くらいの高さあるんだけれど……?
致し方ない、ジュニアジャンプ!
空中二段ジャンプ!!
……よし届いた。
楽園島に居合わせた観光客の皆様と、楽園島に勤める人魚族の皆さん。
お騒がせいたしました!
ジュニアはこれから神界へ行ってまいります! 必ず生還する所存なので応援よろしくお願いします!
と宣言を遺して……いや残して僕はケートスと共に出港した。
神界の深海へ……なんつって。







