1337 ジュニアの冒険:祭神現る
なんだなんだ!?
この何やかやで意義ある祭典のクライマックスが訪れようとする中……。
予期せぬ珍客が訪れようとしている?
『……神を祭る……すなわち祭り』
これは神気?
厳かで神聖で……それでいてネットリとギトつく感じは?
『祭りとは、神に感謝し、神を讃え、神へ供物を捧げるために催されるもの。それなのに祭られるべき神を置かないなんて手抜かりじゃなーい? だから神の方から来てやったわ……』
光と共に顕れる、けばけばしい天女……!?
『この愛と美の女神イシュタルがねーッ!!』
なんか出てきたーッ!?
なんだあの女神……神なのか!?
しかしなんか雰囲気が違うと言うか?
僕もちょっとした違いがわかるんだよ。これまで色んな神を見てきたからね!?
「なんだアレは!?」
「神? 神が降臨されたのか!?」
「エルロン宗匠とエドワード親方の凄まじき技量が、神を呼ぶほどまでに!?」
祭りに集まったエルフやドワーフたちも、突然の奇跡に驚き呆然とする。
しかし起こったことが神顕という慶事なことだけに基本的にポジティブに受け止めているようだ。
しかし僕は……何故だろう、まったく安心しなかった。
脳裏で警鐘が鳴っているというか。
目の前に現れた神に油断してはいけないと本能が訴えかけていた。
『私はイシュタル……愛と美と、すべての色艶を司る女神……私より美しいものはなし、私より愛らしいものはなし』
……何だろう、モノを投げ込みたくなるようなうさん臭さを感じる。
「こちらの世界ではヴィーナス、もしくはアフロディーテと呼ばれているわね。下々の民よヤッホー、私をもてなす祭りを催してくれるなんてセンスがいいわねー」
いやいやいやいやいやいやいや……!
ちょっと待って待って待って待って待って待って……!
女神をもてなす祭り?
そんなの開催した覚えがないですが、ここで行われているのはエルフとドワーフたちがそれぞれの技を競い合い、親睦を深めるためのお祭りですよ。
『だからでしょう?』
何が?
『この下民たちは、それぞれの作り出した美を競うお祭りをしているんでしょう? 美のあるところに私あり! だって私は美の女神なんですから!!』
うーん、この。
何とも言えない『お前呼んでないよ』感。
自分に少しでも関係あるからってしゃしゃり出てこんすかね。
『しかも、作り物の美しさを競うところが下民らしくていいじゃない。つつましいところがね。下民自身の美しさを誇ったところで女神の私には到底及ばないもの。だから搦め手で来るところが自分を分かっているようでポイント高いわ。おのれを知るってところね』
……イラッ。
『私も着飾るのは好きだから、いいものは私に献上してくれてもいいわよ。そうねえ、アクセサリーなら純金で宝石が最低二十は散りばめられているのがいいわねえ。もちろんデザインはセンスが迸ってないとやーよ?』
アクセサリーどころかセメタリーに送ってやろうか?
何とも祭りの和気藹々とした感じに水を差す嫌な神様だな。
しかも僕にまったく見覚えがない神様だ。
僕もけっこう色々な神様を見てきたはずだが、まだ知らない神様がいるものだな。
『皆! 警戒しろ! その女神に気を許すな!』
厳しい声が飛ぶのはエルロン宗匠から?
あの巨大ベラスアレス像の中から、切羽詰まった感じが伝わってくる。
『あのアフロディーテは、異界から来訪してきた客神だ! 私は一度、聖者様の下であの神が押しかけてきた場面に遭遇したことがある!』
さすがエルロン宗匠。
異様な場面に遭遇した率の高さなら余人を寄せ付けぬところが農場関係者。
……アレ?
そしたら僕はどうして遭遇した記憶がないんだ?
『お父上が努めて接触させまいとさせたんでしょう。子どもの教育によろしくない神ですから』
『ちょっと! 何よその言い方! 私のことを歩く十八禁みたいに!!』
『そうだよ』
しかも十八禁の中でも大分タチの悪い規制されてやむなしなジャンルだよ……とエルロン宗匠は言った。
『コイツのタチの悪いところは、自分の本拠ではない別の世界を渡り歩きながら、それぞれの世界に腰掛けして自分の立場を作り上げることだ。この世界で美の女神アフロディーテと呼ばれるように』
イシュタル? アフロディーテ?
呼び名多すぎてわけわからん。
『愛と美の女神……自分の権能をフル活用して他人に取り入るのがクソ上手いってことだな。こちらの世界でもゼウスやらに上手く取り入って天界でのポジションを確固たるものにしたと聞く』
『別に取り入ってなんかいないわよ、皆が勝手に私をチヤホヤしてくれるだけ。だって私……美しいから!』
段々とこの場の全員がイラついてくるのがわかる。
皆、この神の特性を理解してきたようだ。
『美しければすべてが許されるのよ! アナタたちだって、そんな私を愛し敬うから私のためのお祭りを開催したんじゃなくて?』
何度も言いますが、我々はアナタのためになんかお祭りしていません。
エルフとドワーフのための、日頃からの努力を披露し、讃え合うためのお祭りだよ。
よそ様の神なんてまったくお呼びじゃないんですよ!
美しいものが関わってたらオッケーなんてこじつけは許しまへんで!
『えぇ~、でも美しいモノだけじゃなくて、もっと私に関わりあるものも用意してるじゃない?』
はい?
まったく心当たりがないんですが、何のことを仰ってるんです?
『そこのマネキンよ、ヘパイストスちゃんにベラスアレスちゃん! この二神を並べるなんて私を呼んでるに違いないじゃない!』
それこそ何を言ってるんです?
この二神は、地上の人々のために心を砕き、何がよい影響になるかを考えている非常に珍しい神様ですよ?
アナタのような、ちゃらんぽらんな神とは一切関係が……。
『ヘパイストスちゃんは私の元夫、それにベラスアレスちゃんは彼ピじゃないの』
……へッ?
『そんな二神を並べて奉ってるもんだから私を呼んでるものだと思うじゃない? 私の男の趣味をよく理解してるわねッ!』
マジで?
真偽を確認したくて周囲を見回したが、誰も応えてくれる人はいなかった。
さすがに神々の痴情のもつれにまで精通する人物はエルフにもドワーフにもいなかったか。
しかし待て。
ヘパイストス神が元夫で? ベラスアレス神が彼ピ……彼氏?
どういうこと!?
ベラスアレス神と付き合ったあとヘパイストス神と結婚したってこと?
『違うわよ、同時進行』
何言ってんだこの女神!?
汚らわしい!
『おやめくださいご子息! こんなアバズレ神の世迷言を聞いて、汚らわしい価値感と接してはいけません!』
ベラスアレス神像に乗ったまま、ブンブンと手足を振るエルロン宗匠。
もちろんブン回すのは乗機の巨大ロボの手足。
『えー、だってーヘパイストスちゃんは鍛冶の仕事が儲かってて収入安定してるけどぉー。オタク気質っていうか一緒にいてもあんま楽しくないしぃー。それに比べればベラスアレスちゃんはイケメンハンサムでマッチョマンだしぃー、一緒に歩いてて自慢できるって言うかぁー』
「二股かけとったんかい!」
L4C様、怒涛のツッコミ。
観客席からも「我らが守護神、浮気されてたんか……」「おいたわしい……」と憐みの声が上がった。
『だって寂しかったんだもん、しょうがないよね』
「浮気女のテンプレ言い訳やめろ!!」
吠えるL4C様。
アナタもどうしてそんな浮気女の生態に詳しいんですか?
『いいじゃない別に。恋しなくなった女は、女として終わりよ! だから私はいつでも恋をする、それが愛と美の女神の務め! せっかくまたこの世界に来たんだし、たくさんの恋を提供していこうかしら。既婚者だって新しい恋がしたいでしょうし!』
やめろ! この世界に争いの種を振り撒くな!
この女神、愛と美と災いを司る神なんじゃないかって思えた瞬間、ヤツとはまったく違う神が現れて、後頭部をスコーンと叩いた。
『あいたぁーッ!?』
『また別の世界にまで来て何をやっているのですアナタは。アナタの愛は災厄なんで、できるだけ胸の内にしまっててください』
『アナタはナムタル!? また私を追いかけてきたのね、私は美男に追いかけられないと濡れないのよ!』
『流血でびしょ濡れにして差し上げましょうか?』
唐突に現れた神が、無表情ながらも剣呑なことを言っていてとても怖い。
しかし、その神が味方だということは瞬時に察せられた。
『異世界の人々よ、我が身内が迷惑をかけて申し訳ありません。このアバズレは責任もって連れ帰りますのでご安心ください』
『やだー! 私はこっちの世界でもっと遊ぶのー! 三角関係たきつけたーい! 離婚調停傍聴したーい!』
喚きながら引きずられているイシュタル。
そのまま時空の孔に吸い込まれて消えていった。
「「「「「「…………」」」」」」
その一部始終を目撃したエルフドワーフたちは無言。
唐突に現れてあらゆるものを引っ掻き回して、去る時も唐突な嵐のような女神だった。
あらゆる種類の美を求めて繰り広げてきたお祭りであるが……。
『どんなにガワを美しくしても結局重要なのは中身の美しさだね』というオチが最後についた。







