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1338 閑話:個人的な至高

 ボンジュール俺です。

 人呼んで聖者です。


 今日も農場と農場国を行ったり来たりな毎日。

 しかしいつだって気がかりは我が子らのこと。


 はあ、……元気でやってるかなあ?

 ちゃんと寝ているか? お腹壊していないか? 変な神にちょっかいかけられてないか?


「親が気を揉んでてもしょうがないでしょう? 子どもは親の知らないところで勝手に大きくなっていくものよ」


 プラティ! そうは言うがなあ!

 キミだって心配じゃないのか!? 自分がお腹を痛めて生んだ子たちだろう!?


 と言うが、やっぱりプラティも心配なようだ。

 持ってる試験管が逆さになって中の薬剤がドバドバこぼれている。

 薬剤の効能によっては重篤な環境破壊になるからマジやめて?


「別にジュニアだけじゃなくても我が子はたくさんいるというのに、これから独り立ちしていくたびにこんな気分になるなんて勘弁してほしいわ……!」


 と言って手にした試験管を呷るプラティ。

 でもさっきも言ったように動揺のあまり逆さにして全部こぼしたから意味ないんですけどね。


「気にしないで、ただの胃薬だから」


 気にしてるのそこじゃないんですよ。


 まあいい俺も農作業に精を出して、心配する気持ちを紛らわせるとするか。


「旦那様、鍬が逆よ」


 わー、道理で耕せないと思った。


「こんちゃーす。……って、聖者様夫妻、息子の旅立ちが寂しくて動揺してるの? 旅立ってから何日経ってるんだよ?」


 おお、キミはエルフのエルロン!?


 陶芸を広めるためエルフの森へ移住したというのに三日に一日は帰ってきてメシをたかりにくるエルロン!?


 今日はどうした!?

 メシ食いに帰ってきたのはつい昨日だよね!? さすがに連日は困るというか!?


「そんな私が、いつでもメシのためだけに寄生してるような言いかたよせ! 他にも訪問の用件ぐらいあるわ!」


 はあ、そうすね。

 わかりました、今日はスイーツですね?

 作り置きのパンケーキでいいすか?


「違う! ヒトが食い物でしか動かないとでも思ってんのか! パンケーキはイチゴ味をよろしく!!」


 やっぱ食い物が目的じゃん。


「はあ……じゃあ本題は話さずに帰っていいのかなあ? せっかく聖者様たちが喜ぶと思って、ちょっぱやで伝えに来たのになあ?」


 なんだエルロン?

 そのもったいぶった口ぶりは?


「ご子息がウチに来たぞ」

「「!?」」


 ガタガタガタッ!?

 驚きのあまり椅子を飛ばして立ち上がってしまった、俺もプラティも。

 いや、そもそも俺たち椅子に座ってたのか?


 そこはどうでもいい。


 ジュニアが、ジュニアがエルフの森にやって来たのか!?


 おいでよエルフの森ってこと!?


「ジュニアがついにエルフの森まで……順調に進んでいるわね」


 プラティがうんうんと得心顔している。

 一人で納得するな。


「『エルフの森に必ず立ち寄るように』という言いつけもしっかり守っているようねジュニアは。それで、どう? あの子はエルフの森で学ぶべきことをしっかり学んでいった?」


 え? プラティさんそんなことジュニアに言づけていたの?

 ズルい! だったら俺もジュニアに色々アドバイスしたかった!

 魔都に寄ったらグレイシルバさんの喫茶店に行くといいよとか、観光地で時間が余ったらとりあえず高いところに登れ、とか!


 ……でも、エルフの森へジュニアを寄らせて何させたかったの?

 観光できるところとかある?


「失敬な!!」


 しまった、エルロンに聞かれてしまった。


「エルフの森なら、見るとこたくさんあるだろうが! 森林浴で心身休めてもいいし、茶畑見学もいいぞ!……はッ、陶芸体験教室を開くのもいいな!」


 はいはい。

 新たな商機に胸躍らせるのはいいですが、いまは報告をお願いプリーズ。


 ジュニアは、エルフの森で一体何をやられていたのん?


「一般的な美的感覚を養ってもらおうと思ったのよ」


 と説明するプラティ。


「これから高い立場について、上流の人たちと話すことになったら芸術の話は必要不可欠よ。話についていけなかったらジュニアが恥をかくことになるんですもの。そこはしっかりと知識をつけさせないといけないわ」


 うーん、たしかに。

 前の世界でも、テレビに出る芸能人がモナリザとかひまわりとか知らないでドン引きされるシーンとかあったしなあ。


 一般教養としての芸術知識は必要ってことか。


「ご子息は、エルフの森で美の何たるかをしっかり会得していきましたぞ!」


 自信たっぷりに言い放つのはエルロン。

 自分の得意分野で活気が出てきたか。


「ご子息には、習うより慣れろということで実際陶器ぐくりに挑戦していただきました!」

「マジで体験教室やってるじゃない」

「そして出来上がったのがこちらです!」


 デン! と俺たちの前にい置かれた大皿。

 これを見て俺は驚嘆した。


「これは……この絵は……!?」


 何より俺を揺さぶったのは、大皿に描きつけてあった絵だ。


 これは……カニレンジャーではないか!?


 かつての昔、子どもたちを楽しませるために俺が扮した架空のヒーローだ。

 こっちの世界にはテレビもネットもないので、既存のライダーとかレンジャーを元に試行錯誤で真似たものでしかない。

 出来栄えもいいわけではなく、結局のところ素人作りでしかなかったが……。


 それでもジュニアの思い出に強く残っていたということだな。

 だからこそこうして大皿の描きつけの題材に……。


 おろろろろろろろろろろろろろ……!!


 感動で涙が出てきた。

 年取ると涙もろくなっていけない。


「ご子息は旅の荷物になるからと言って置いていかれたのでな。だったがご実家である農場に収めておくのが一番いいと思った。ご夫妻にもいい土産になるだろうしな」


 しかもよく見てみろ。

 このヒーロー絵皿、まるで子ども用グッズではないか。


 男の子が喜ぶヒーローグッズ! そうだ、男の子はいつだってヒーローが刻まれたものを着たいし履きたいし、食事や就寝の時にも触れていたいものなのだ!


 下の子たちに、これで食事をさせてみようか、喜ぶぞ!!


「うーん、アタシが思っていたのとはちょっと違うけれども」


 プラティも絵皿をしげしげ眺めつつ言う。


「アタシは流行の最先端、エルフの陶工を見学して知見を広めてほしかったんだけど。自分で作品作って流行を発信しろとは言ってないわ」

「それがご子息の才覚なんだろう。素直に息子さんの英才を喜べばいいじゃないか」


 と言われても、プラティは複雑な表情。


「うーん、お母上にはわからないセンスかな?」


 と訳知り顔に言うエルロン。

 じゃあお前にはわかるんかーい、というツッコミは心の中だけに留めた。


「いやぁ、男の子がこういうヒーローもの大好きだってことは知識でわかるけれど、ジュニアって相変わらず絵が上手いわよねって」


 うむ、それはそうだ。

 陶器の皿という特殊なキャンパスにも、特にてこずることもなくデッサンもパースも完璧。

 線が躍るように躍動して達筆感を伺わせる。


「親子なのに似ないものよねー。旦那様はこういう芸術系からっきしなのに」


 うぐぐッ!?


「それに対してジュニアは小さい頃から像を彫ったりと、思えば芸術活動に熱心な子だわねー。何があの子を駆り立てたのかしら?」


 仕方ないじゃないか。

 俺に宿るギフト『至高の担い手』は、手にしたもののポテンシャルを最大限以上に高める。

 だからと言って絵筆を握れば名画を描けるわけではない。

 鑿を手にしても、歴史に残るような彫刻を彫り出せるわけではないんだ。


 あくまで『美しい』という感覚は相対的なもの。

 その基準は見る人によって違うし『至高の担い手』がどれだけポテンシャルを高めようと目指すものが定まらなければ、そこへ引き上げることもかなわないんだろう。


 だから俺は、美的センスの問われるものはからっきしで、その分エルフやドワーフたちの協力は必要不可欠だった。


 にもかかわらずジュニアはこうして、デキのいい芸術作品を世に送り出している。

 俺とほぼ同じ能力『究極の担い手』を持っているにもかかわらず。


 一体どういうことだろうか?


 いや別に妬ましいとか言うんじゃないが。

 子は親を越えていくものだからな。次代が先代を凌駕する、それを進化というのだ。


「……純粋に、ジュニアに芸術センスがあったからじゃない?」


 プラティの意見。

 率直にそうかー。

 わかってたよ、所詮俺には絵心なんてないよ! そこまで能力に頼ろうとした俺の至らなさだよ。


「まあ、絵心がないのはアタシも同じだけど……。そんな両親からよくあんなハイソな子が生まれたものよね」


 トンビがタカを生んだということか。

 とにかく息子がよく成長してくれているということが実感できた。

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― 新着の感想 ―
>わー、道理で耕せないと思った。 『至高の担い手』フルドライブすればワンチャンいけるいける!(いけない)
「やっぱり某至高と究極親子」とは真逆になっちゃったんですよ…
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