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1138 女が欲しい

「我が君、開拓地で問題発生です」


 またかよ。

 農場での作業中、ゴブリンたちからの報告を受けた俺。


 何かと問題続きだなとは思ったが、農場国及びその発信源となる開拓地は、始まったばかりの場所。

 そりゃ様々な問題が噴出するのは仕方がない。


 それが草創期ってことだ。


 だから今は忍耐をもって、文句も言わずじっくりと問題に向き合っていくべきなのだ。


「で、何が起こったのかね?」


 報告に訪れてくれたゴブリンに詳しい事情を聞く。


「女が足りない、とのことです」

「黙れぃ」


 思わずお口が悪くなってしまった。

 だが、さすがにこれには文句を言いたくなる。


 なんだそれは!?

 ギブミーウーマン!?

 みんな一生懸命働いているのかと思ったら、そんな浮ついたことでどうする!?

 男塾ならぶん殴られ、薩摩なら圧殺されるレベルの軟弱!


 酒色に移り気している場合か!!


 もっと真面目にしなさい!

 俺たちは今、一大事業に打ち込んでいるのですぞ!


「いいえ旦那様、これは重要な問題よ」


 そう言って現れたのはプラティだった。


 三男のショウタロウを抱えている。


「旦那様は軽く見ているようだけれど、これは由々しき状況だわ。判断を誤れば建国事業がとん挫してしまうほどの」


 そこまで?


「考えてみれば開拓者たちは、木々を切り拓いたり開墾したりと力仕事が多いために募集も男性に限定されていたわ。現在開拓者も男女割合は10:0で男性オンリーのはず。誇張とか大まかな表現ではなく、厳密完璧にね」


 なんとそうなのか?


 たしかに、開拓地と言っても最初は草木が生い茂るばかりの自然そのもので、満足に休める寝床もなかったんだから、か弱い女性が生きていくには過酷すぎる状況か。


 だからこそまずは男性のみが入植して、人vs自然のガチンコ勝負に明け暮れてきたんだが……。


「それも大分長いこと続いてきたからねえ。そろそろ彼らの本能も臨界点に達してきたってことよ」


 本能って?


「生殖本能よ」


 プラティそんな!

 いくらなんでもそんなあけすけな言い方をしなくてもッ!?


 それに今キミが胸元に抱えているショウタロウにもバッチリ聞こえる距離じゃないか!

 いくらまだ言葉を理解できない赤ん坊でも教育によくないんでは!?


「なんで?」


 なんで? と来なすった!


「子孫を残し、種を未来に繋いでいこうという本能はすべての生物が持ち合わせたものよ。そのためにも交尾し、受粉し、単為生殖有性生殖、分裂増殖クローン化様々な方法を用いて新たなる生命を作り出そうとするのよ。そうしなければ種は滅ぶ。必要不可欠なことじゃないの」


 それは、そうですが……。


「いい! 生殖は人間にとって……いえすべての動植物にとって最重要の行為なのよ! 食事、排泄、睡眠に並ぶほどの! それを無闇に恥ずかしがったり、汚らわしいと思うことこそ言語道断! 生物として恥ずかしい行いだわ!」


 胸を張って堂々と言うプラティ。


 そもそも彼女自身が魔女として……この世界の魔女って言い変えたら魔法薬物研究者だからな……、学者肌なところがあるから。


 ヒトの先入観や慣習を、愚かだと捉えるのも仕方のない。


「それを踏まえて現状を見ると、非常にヤヴァイ状態なのよ! なにしろヤリたい盛りの男どもが数百人、その対象たる女性を見いだせずにマゴマゴしている! これは尋常じゃないストレスを伴う環境と言わざるを得ない!」


 ええ?

 そうは言ったって、俺も農場を築き上げるまでに一定の孤独な期間を持ったけど、そこまで苦痛には感じなかったよ?

 あの……そういう方向性のモヤモヤもまったくなかったし!


「何言ってるのよ、旦那様はかなり初期の頃からアタシっていうパートナーがいたでしょう? 性欲の高まりなんて感じる暇もなかったんじゃない?」


 うぐッ?


「当時の旦那様と、今の彼らとじゃ状況がまったく違うと言わざるを得ないわ。何せ男所帯で単一的な男くささも上がりまくってるでしょうからね」

「開拓者たちに関して言えば、先日オークボリーダーとゴブ吉リーダーの一家幸福な姿を見てしまったことがより大きな衝撃になったようですね。あれでより自分たちの独り身が意識に上って、寂しさが急上昇してしまったようです」


 と報告に来てくれたゴブリンが分析。


 家族の温かみに、独り身の肌寒さが際立ってしまったか……。

 彼らには酷なことになっていたんだな。


 でも家族はいないけれど、彼らには志を同じくする仲間たち(同性)がいるじゃないか!

 それで寂しくなんかないじゃないか!?


「妻であるアタシが思うんだけど旦那様って、あんまり性欲強くない方よね。普通だったら旦那様が置かれたこの状況アタシ一人に満足してないで、パヌやらベレナやらに手を出してハーレム作ってもおかしくないでしょうに」


 おい!

 せっかくキミだけに一途に生きてるっていうのに、なんだその言われ草!?


 まるで他のどこかじゃ性欲に突き動かされてハーレム構築している人がいるかのようじゃないか!?


「まあもちろん性欲過多すぎてヒトのものに手を出すクズよりか全然マシなんだけど。ここでアタシが言いたいのは、そういう淡白な旦那様とは違って世の中には、持て余すような大きな性欲抱えて、生きづらく生きてる人もいるんだってことを理解してほしいってことよ……」


 ……まあ。

 そうなのか俺? 性欲弱いんだろうか?


 しかしそんな俺でも三人の父親になってるんだから、決して欲は薄くないだろう?


 アレだよ、むしろ理性が強いんだよ俺は。

 本能を制御する理性が強靭であるがために、適切に性欲をコントロールしている結果、欲が弱いように見えているだけだよ!!


 なんでこんな弁明しないといけないんだ!?


「そうだとしても旦那様よりままならない強い本能を持ち、またタガの緩い理性を持ち合わせた男どもは世の中たくさんいるはずだわ。そんな可哀想な男どもにとって今の開拓地は、やはり過酷であることは間違いなし!!」


 そうかな? そうかも?

 何しろ男所帯で女っ気ゼロなわけだし。


 そんな環境で、日々肥大化し続ける性欲をどうやって整理できるものか?

 本能も欲望も、無限に抑制し続けられるわけではないというのは俺でもわかるつもりだ。


「そう! 女がおらず男しかいない! このままぶつけどころのない欲望を抱え続けていたら最後には……ホモになるしかないわ!!」


 それはちょっと!?

 ぶつけちゃいけないところにぶつけていくしかなくなるってこと!?


 たしかにそれは由々しき事態だ。

 行き着くところに行き着いちゃうことを避けるには、しっかりと欲望の向かう先を用意してあげなくては。


「ウチのオークゴブリンたちが協力したことで、開拓地の環境も急速に改善されてるでしょう? 夜露を凌ぐ家屋もあるし寝どこも確保されてる。そろそろ女性を現地に呼び込んでもいい頃合いだと思うのよね」


 なるほど!

 男所帯が解消されれば、開拓野郎たちも紋々することもなくなるわけだし。


 それに彼らも女性の手料理を食べられれば嬉しいだろう!

 家に帰れば『お帰り』と言ってくれる人がいる! それこそが人の幸せ!


「いや、ここはもっと即物的な充足を話題に上げてるんだけども……!?」

「我が君は、心が清らかですから……!」


 プラティとゴブリンが生暖かい目線で俺のことを見詰めていた。

 何故だ?


   *   *   *


 ということで早速新たな入植者を募ることになった次第。


 さすがに人は、農場でも生産不可能だからな。

 外から募るしかない。


 新しい形態の募集ということで打診した先の魔族、人族も対応に戸惑っている感じ。

 それでも、あちらさんもプロってことで数週間後にはしっかりと人材を送ってもらえた。


 そこでここからは歓迎会だ!

 新たに開拓地……これからの農場国に移り住むレディたちに『移住してよかった!』と思えるように最大限のもてなしをすることにしたらぁ!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 三十路超えたおっさんなのにピュアすぎる…。
[一言]  衆道の始まりも男だけの社会の形成によるものだしね、最古の商売は風俗だったと言われてる、私もそういうのは子供を作る為だけのものだという思いが強いけど普通の人は性欲があるのが普通なんだよね・・…
[一言] ただし女性にも選ぶ権利はあるわけで…
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