表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1139/1504

1137 思うゆえに我あり

 始まりました。


 開拓民vs農場モンスターズ。

 チキチキ知力対決! 下等生物はどっちだゲーム!


「「「「うおぉおおおおおおおおおーーッ!!」」」」


 白熱。

 そんなにも負けられない戦いがここにあるだろうか?


 どっちが賢いかを競い合うだけですよ?

 そりゃ一点については白黒ハッキリするでしょうが、それで人間のすべてが決まるとはどうにも……!?


「ヒトとケモノの違いは! 知性があるかどうか!」

「知性があるからこそ人類は霊長類ヒト科なんだ! そこんところをモンスター風情に見せつけてやろうじゃないか!!」

「付け焼刃の知識で人をたばかれるなど言語道断! 格の違いを見せつけてやらぁ!!」


 と、とにかくオークやゴブリンたちを下に見ようとする発言が目立つ。


 そんなにも自分が上でいたいのか?

 学問を勧める有名な人も『天は人の上に人を作らず』と言っているじゃないか?


 それでもどっちが賢いかはこれからハッキリすることになるが。


 ウチのオークゴブリンたちよ、準備はOK。

 溢れる知性で返り討ちにする用意は万端?


「お任せください我が君」

「我が君に恥じぬ働きぶりを示しましょうぞ」


 うむ頼りがいがある。

 この控えめな態度。彼らにこそ知性が宿っているように思えるんだろうが。


 では行きましょう第一問!

 さっきの早押しは知識を競い合うものだったので、こんどは知性の勝負をしてもらおう。


 知識とは記憶、知性とは思考による知の力だ。

 てなわけで問題、デデン。


 ――ひろしくんは千円を持っています。

 ――八百屋に行って一つ二百円のリンゴを二つ、百円のミカンを三つ買いました。

 ――さて、残りは何円でしょうか?


「はいッ!!」


 いち早く手を挙げたのは開拓民チームの一人だ。

 では答えをどうぞ!


「その前に……ひろしくんというのは何歳ですか?」


 は?


「くん付けするからには小さな子どもをイメージできますが、これが四、五歳だったとしたらそんな幼児に千もの金銭を預けるのは危険かと存ずる。まだお金の意味を理解していていない子どもに大金を持たせては、ゆくゆくまともな金銭感覚の身につかなくなってしまうのでは?」

「そうです! それに品物の価格設定もおかしい! リンゴが二百にミカンが百!? 市場が大荒れしているじゃないか!」

「そもそもエンという単位はなんなんだ? 金貨なのか銀貨なのか!? それによって子どもに持たせるべき金額なのかどうかも、価格設定の適正かどうかもかわってきますよ!」


 コイツら!!

 算数の問題でよく出てくる枝葉末節に拘り過ぎて本質まで辿りつけないヤツ!


 いいんだよ舞台設定がどうだろうと!

 1000-200×2-100×3=?、という本質さえ見抜けていれば、ひろしくんがアラサーの成人だろうと物価価値が高騰していようが下落していようが、インフレだろうとデフレスパイラルだろうが何でもいんだよ!!


「はい」


 ウチのチームのゴブリンくんが手を挙げた。

 ハイ、どうぞ。


「三百円?」

「正解!!」


 これでまた農場モンスターズが一歩リード!


 同時にブーイングが巻き起こった。


「汚いぞ! 純粋な計算問題の余計な情報を織り交ぜて惑わすなんて!」


 煩い。

 そうした余情報に惑わされず正解を導き出すのも問題の意図だろうが!

 ……いや、当たり前すぎて意図にも入ってない段階で躓いてるよ、お前ら!


 次の問題。

 デデン。


 ――『ここに黄金の像があります』

 ――『純金かどうか、像を傷つけずに確かめるにはどうすればいいでしょうか』


 割と有名な問題だが異世界の人々には伝わっているだろうか?


 正解は水の中にぶち込むのだが、果たして開拓民たちはどう答えるか。


「ハイわかった!!」


 開拓民の一人が手を挙げた。


「黄金像を叩き割る! メッキなら中身が鉛で証明完了!」

「だから壊しちゃダメだって言ったろうが!!」


 ちゃんと問題文読め!!


「あの……こういう場合は同じ重さの純金を用意するんですよ」


 またウチのゴブリンが最適解を言う。


「もし偽物なら比重が違いますから体積は同じになりません。水に入れれば溢れた量はおのずと違ってきます。これで傷をつけずに真贋を見極められるという……」

「バカ野郎!」


 なんかクレームが来た。


「何が同じ重さの純金だ!? まず純金を用意するのが難しいってことに気づきなさいよ! 貴重なんだよ金は! たった一粒で何日暮らせると思ってるんだ!」

「そうだぞ! 手のひらサイズの純金を集めるのに砂金取りの人たちがどれくらい頑張ると思ってるんだ!? 彼らの努力を想像することなく同じだけの黄金を用意するとか夢みたいなこと語るんじゃないぞ!!」

「ぶっ壊して中身を確認した方がよっぽど簡単という現実!!」


 ダメだ、主張が弾丸過ぎていなしきれない。

 彼らと分かり合える日ははるか遠くのように思えてきた。


   *   *   *


 こうして溢れる知性対決は、我らが農場モンスターズの圧勝ということで幕を閉じた。

 これで知性と思考が伴ったウチのオークゴブリンたちは、人と同等だと認めてくれるかな?


「ぐう……こんなはずは……!」

「認められるか! モンスターは人に扱われる側なんだ!」


 まだ認めようとしない……!?

 一体どうしたら認めてくれるんでしょうか?


「仕方ないものじゃ。人にはそれまで築き上げてきた価値観というものがある。その外にあるものを受け入れられうかどうかにこそ、各自の知性の高さがモノを言うかの」


 ん? 誰だ?

 慣れない声に振り返ってみたら、そこにはゾス・サイラがいるじゃないか?

 人魚の彼女がどうしてここに?


「アホたれ、そりゃー愛しの旦那様を迎えにきたに決まっとんじゃろう。せっかく人魚宰相の仕事が早めに切り上がって定時で上がれたんじゃ。一家団欒したいものであろうが」


 そう言ってゾス・サイラ、生まれたばかりの子どもを抱きかかえている。

 彼女とオークボの間に生まれた新たなる命であった。


「まったくですわ。教職は多忙なんですから家族が揃うチャンスは希少なんです。そんなタイミングに合わせて大事な旦那様を駆り出さないでくださいませ」


 さらにマーメイドウィッチアカデミアの教師カープさんまで。

 彼女はゴブ吉の奥さんで、当然のように愛娘同伴。


「我らはこれから一家水入らずでご飯食べる予定なんじゃ。大事な旦那様を、ぬしらの遊びにグダグダつき合わせるでないわ」


 あ、ハイ……。

 すみません……!?


「ゴブ吉様は連れ帰ります。さあ、今宵はわたくし手作りのかつお出汁スープを作ってありますからね!」

「それってただの吸い物じゃろう?」


 各自妻子に連れられ、『はあ……』『では……』と帰っていくオークボ、ゴブ吉であった。


 それをただ茫然と見送る俺たち。

 その中には当然、それまで頑なにオークゴブリンたちを同等と認めない開拓民たちもいた。


「「「「「負けたッ!!」」」」」


 ええッ!?

 どうしたいきなり!

 さっきまで『ギブアップしなきゃ負けじゃない』とばかりにゴネまくっていたというのに!


「綺麗な奥さんに子どもまで恵まれた家庭持ち! こんなの勝てる要素が一片もない!」

「人間であるオレたちよりも人間らしく暮らしているなんて! 何て厳しい現実を突きつけてくれるんだ!?」

「今日まで独身であるオレたちにはあまりにも辛すぎるぅううううッ!!」


 ああ、そういうこと。

 彼らにとってより明確な人としての証明は、知性の有無より築いた家庭の有無であったようだ。


 たしかにオークボとゴブ吉は様々な葛藤を乗り越えて夫として父として、立派にやっている。

 一方開拓民たちは皆、身軽な独身だからこそこうして未開の地にやってきてチャレンジができているわけだし……。


 勉強も大事だけど、家庭を持つことも大事なんだね……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9co2afbzx724coga2ntiylfcbvr_efq_1d0_1xo_1qyr7.jpg.580.jpg64x0jhdli8mom2x33gjealw194q_aqu_u0_16o_rzuz.jpg.580.jpg
書籍版20巻&コミック版11巻、好評発売中!

g7ct8cpb8s6tfpdz4r6jff2ujd4_bds_1k6_n5_1
↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、見事なオチがキマったな。
[良い点] ハッハッハ! 開拓民破れたり〜〜!! いいなーうらやましいなー……
[一言] ツッコんじゃいけないところかも知れないけど、敢えてツッコみます >霊長類ヒト科 いや、魔族・人族ついでに人魚族。同じ霊長類なの!? 仮に人族は霊長類ヒト科しても、知識勝負に参加してるの魔族…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ