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戦艦アマテラス

 新たなサーバーである銀河帝国軍所属・戦艦アマテラスのロビーへとハルカは転送された。

 転送装置から出ると真っ先に目に入るのは広いロビーだ。左右奥には各種カウンターや休憩スペースなどが見える。正面には階層構造を持ったテラスが張り出しており、そこから戦艦の居住区とされている巨大なドーム内を一望できるようになっていた。現在ドームの内側には船体外の宇宙の様子が表示されている。

 ハルカはテラスから身を乗り出して斜め前方にある、天井から少し下方の、空中に浮かんだ大きなモニターを見上げた。そこには今回のアップデートで追加されたという青い惑星・テオロニアがスクリーンいっぱいに映し出されていた。


「…綺麗」

 ハルカは思わず呟いた。

 テオロニアは表面の6割を海、4割を大小様々な大陸が覆う、地球によく似た惑星だった。月は無く、代わりに沢山の小さな衛星で構成される衛星の帯サテライトベルトが二重に惑星を周回している。今までの探索対象の惑星ステージは色々な意味で地球とはかけ離れた過酷な環境の星が多かったのだが、今回のテオロニアは本当に地球によく似ていた。

 ひょっとすると文明を持った先住民たちが存在するというプレイヤー達の噂話もあながち間違っていないかもしれないと思えた。


「それにしても多いなぁ」

 モニターに映ったテオロニアをひとしきり眺め、映像から周囲に目を移すと、ロビーはプレイヤーで溢れかえっていた。やはりみんな早く新しいステージが見てみたかったのだろう。そこ此処で集まってモニターを眺めながら話に花を咲かせる人たちがいる。ハルカもフレンドリストをチェックしてみたが知り合いは誰もログインしていなかった。

「そうだ。とりあえず装備を揃えないと!」

 浮ついた気分が少し落ち着くと、進化前の装備品・アイテムはすべて倉庫に送られるというAIの言葉をハルカは思い出した。そういえば進化したという自分の体も、まだよく見ていなかった。

 両手を目の前に出してみる。いかにもSF的なグローブをはめた普通の手だ。首を前に倒し、自分の体をまじまじと見て彼女は驚いた。そこにはこれまで1年間のプレイで慣れ親しんだ機械のボディーは無かった。ピッタリとしたスーツに所々鎧のようなパーツや機械類が付いてはいるが、どう見てもヒューマンタイプのキャラにしか見えない。

「てっきり機械生命体の進化体だから、また機械の体だと思ってたんだけど…」

 手にはめていたグローブを外し、手のひらを何度もひっくり返しつつ眺めてみる。鏡のように磨きこまれた柱に映った自分の顔を百面相しながら見たりもした。

「え~と、進化間違ってたりしないよね?」

 ステータスを呼び出して確認しても、きちんと[種族:カーマインハート]と記載されている。

「サイボーグみたいなものかしら?ステータスは予想通りだから、まぁ、いいけど。運営に聞いても答えは返ってこないんだろうなぁ」

 機械の体に拘っていた訳では無かったので、そこは早々にスルーしてシステム端末のある場所へ歩いていく。このゲームではメニューから自分の倉庫に直接アクセスすることは出来ず、装備やアイテムを取り出すには船内の端末を使用しなければならなかった。


「どこも混んでる…」

 それなりに端末の数は用意されているのだが、如何せん人が多すぎる。まだ惑星テオロニアへ降りる事は出来ないらしく、手持無沙汰な人間がこぞって端末に殺到していた。並んでる人数を見ると小一時間はかかりそうだ。

「これはダメっぽいな~。先にショップでも覗いてみよう」

 ショップもそれなりに混んではいたが、幸いそう待たずにカウンターへたどり着いた。

 ハルカの想像していた通り、ショップはアップデート前とは品揃えが少し変わっていた。特に彼女の琴線に触れたのはナイフ・短刀類だ。今までこのゲームにはそのカテゴリの武器が無かったので純粋に嬉しかった。

「あ~クリスとかある。…でも、結構高いな」

 持っているクレジットを確認するがゼロの桁が3つほど足りない。つい先日受け取った結構な額のボス討伐報酬はすでに韴霊剣に化けていた。

「このぶんなら今まで無かった有名な日本の脇差とか短刀も追々登録されるかも…ん~がんばってクレジット稼がないと…」

 ハルカはこれまでも伝説の剣や日本刀にかなりのクレジットを注ぎ込んでいた。性能的には微妙なのだがコレクションアイテムとしてはかなりの人気で、同性能の武器よりはるかに高額だったが購入者は多い。彼女もそんなコレクターの一人だった。倉庫にはずらりと有名な剣・刀が並んでいて、時々取り出して眺めては一人悦に入っている。友人たちからはよく「気味悪いからヤメロ!」と言われていたが、そう簡単に止められるのならこのゲームを端からプレイしていなかっただろう。

「よし、今日はナイフ一本で我慢。次は買う!」

 ごく普通のナイフを購入し、次はアイテムショップにでも行こうかと思った矢先、それは起こった。


 突如、遠くから響く鈍い音とともにアマテラスの船体が揺れる。照明が一斉にすべて落ち、代わりに壁面の非常灯が淡く周囲を照らす。異常を告げる警告がモニターに表示され、サイレンが鳴り響いた。

『EFリアクターに異常発生。乗員は直ちに脱出艇に向かってください。繰り返します。EFリアクターに…』

 艦内放送が流れ始め、各所に設置されたモニターには脱出艇までの経路が表示される。プレイヤーは呆然と立ちすくみ、NPCと呼ばれる者たちだけが整然と避難を始めていた。

「え?これってイベントか何か?」

 周りのプレイヤーたちもすぐには判断できず、ざわついている。だが、あるプレイヤーグループが表示された経路へ向かって移動し始めると、他の者たちも雪崩を打ったように一斉に通路へと殺到した。ハルカも流れに逆らわず通路へと走る。

「こんなイベント、今まであったっけ?」

「こんなとこで死に戻りとか勘弁だよな」

「まさか同盟の戦艦の攻撃だったり、とか?」

「いきなり隠しイベント発生?!」

 ハルカの耳にも色々な推測が聞こえてくるが、どれもぴんと来なかった。何よりNPCがすぐさま避難したのがひっかかっている。ログアウトした方がいいかも?そう考えていると、さらなる異変が彼女たちを襲った。

 プレイヤーたちがバタバタと倒れ始める。特に機械生命体であるクリムゾンフレームの割合が高いようだった。

「あれ…」

 ハルカもうまく歩けない。まるで酩酊しているかのように自分の手足が言うことを聞いてくれなかった。周囲では「俺にかまうな!先に行け…」などと死亡フラグを立ててこの状況を楽しんでいる者もいたが、周りに友人もいないせいか、ハルカはとてもそんな気分になれなかった。

「すごい…体がだるい。VRでこんな風に感じる事ってあったっけ…?」

 ぐらりと体が通路の壁へと倒れ込む。頭にもやがかかったようで考えがまとまらない。ほんの少し先に[Emergency exit]と書かれた扉があるのが目に入った。壁に半身を押し付けながらゆっくりと進む。扉横の小さな保護パネルを叩き割り、中にある開閉スイッチを押した。

「ん…ぅあっ」

 中に転がり込むように入ると、そこは小さな部屋だった。人が一人すっぽりと入れるような筒状の物が10個ほど扉を開いた状態で床から生えている。

 ハルカはその中の一つになんとか入り込んだ。ゆっくりと扉が閉まり、下から冷気があがってくる。そこで彼女の意識はついに途絶えた。


 ハルカの入った筒が床に沈んでゆく。その表面には[Cold sleep Escape pod]と表記されていた。



 戦艦アマテラスのEFリアクターは臨界を超えて危険な状態にあった。すでに艦内に動く者はいない。アマテラスを管理するメインAIは、それでも船を守るべく、自身とEFリアクターを含むコアユニットを船体から切り離す決断を下した。船体中央に備え付けられた爆発ボルトが作動し、小さな破裂音が断続的に続く。船体の一部がずれるように移動し、アマテラスから離れはじめた。

 次にメインAIはアマテラスに残されたサブAIに命令し、僅かに残されたエネルギーを姿勢制御ノズルの噴射に廻させた。ゆっくりとアマテラスが惑星テオロニアに引かれるように移動し始める。

 ある程度離れたところでメインAIが最後の命令をEFリアクターに出すと、コアユニットは内側に向かって急速に収縮を始め、小さな黒い塊になり、周囲に衝撃を放ちながら爆発、消失した。

 残されたアマテラスはその爆発の余波により、船体のいくつかのユニットを吹き飛ばされながらも、テオロニアのサテライトベルトに向かって流されていった。


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