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第九話 新入生

三人目の登場です。

 始業時間と同時に、新堂先生がやってきた。時間きっかりなあたり、マメな性格なんだろう。


「はーい、皆さんおはようございます。今から出席取ります」


 順番に呼ばれ、クラスメイトが返事をする。阿藤、伊藤、井上と来て、


「ウイングフィールドさん」

「はい!」


 竜姫=ウイングフィールドは、ア行の扱いらしい。気分の良い返事が聞こえた。


「竜崎君」

「はい」


 俺の番が来て、次は、


「渡辺君。……渡辺君?」

「渡辺なら、まだ寝てます」

「竜崎君、起こしてあげて」

「はい」


 机でぐったりとして動かなかった礼二に、肘で一撃。活を入れてやると、


「はっ!? 俺は今までなにを……?」


 俺に都合よく、記憶を失っていたらしい。礼二が辺りを見回しながら、状況に置いていかれてた。


「渡辺君、ちゃんとホームルームになったら起きなさい。いいわね?」

「えっ、俺寝てたんですか? なんで……」

「いいから、返事」

「は、はい!」


 少しトラブルはあったが、出席確認が終わる。すると、新堂先生は早速とばかりに話し始めた。


「今日は入学式です。皆さん、昨日も言いましたが、年長者として節度ある態度を取ってくださいね。入学式の後は、部活動勧誘オリエンテーションです。部活に入ってる人は、準備を怠らないように」


 以上、と話が終わり、俺たちは体育館に向かう。

 昨日並べた椅子に座り、入学式の準備が整う。校長からまた式典の注意があったが、ほぼ誰も聞いていなかった。

 後輩ができる、とはいっても、帰宅部の俺にはあまり関係がない。別学年どころか、同学年にすら知り合いがいないからな。数少ない悪友は、隣の席で寝こけている。


 話が終わるとすぐに無くカーテンが引かれ、薄暗い中、入学式が始まった。

 緊張した顔の新入生が、ずらりと揃って入ってくる。真新しい制服がまぶしい。


「俺らも昔はああだった……」

「たった一年前の話だろうが」


 礼二のボケにツッコミをいれつつ、新入生の入場を眺める。

 顔も背丈もバラバラ。当然ながら見慣れない顔ぶればかり。だが、その中に俺は一瞬、見覚えのある人影を見た。


「ん……?」


 首をひねる。もう一度新入生の列を見直したが、人影はすぐに消えてしまった。


「どうした、勇人」

「いや、なんか忘れたい人間がいたような……」

「は?」


 気のせいだと思いたい。あの思い出は中学校に置いて来たはずだ。

 校長の挨拶が始まった。高校生としての自覚を云々、学生としての本分がなんたらかんたら、締めは高校生活を楽しんでくれ、とのこと。

 どこか気落ちした雰囲気の校長が壇から降りると、今度は背の高い女子生徒。昨日知り合ったばかりの生徒会長・宮崎先輩が、颯爽と現れた。


「新入生の皆さん、はじめまして。私は生徒会長の宮崎リンドウです!」


 校長とは違う、生き生きとした声。聞く人間の心を揺さぶる声だ。


「まずは、入学おめでとうございます! 長い受験勉強期間、お疲れ様! これからは華々しい三年間が待っています!」


 宮崎先輩の声は、とにかく明るい。聞いていて気持ちが良い。俺の眠気が、一気に吹き飛んだ。


「勉強に、部活動に、ついでに恋愛なんかもまとめて楽しんでください! ただし、最後のは清く正しいお付き合いをお願いします」


 体育館に、明るい笑いが湧く。俺もつられて笑ってしまった。


「私は、長話が苦手です。なので、これくらいにしておきます。それでは、真川高校にようこそ!」


 手を振りながら壇から降りる姿が、さまになっている。終始笑顔を絶やさない。

 宮崎先輩には驚かされっぱなしだ。昨日、会ったばかりだというのに。

 ついその姿を追ってしまう。すると、宮崎先輩が俺を見た。


 どうやって見つけたのか、目が合ってしまった。偶然かと思ったんだが、宮崎先輩は俺と目が合うと、にっかりと笑って手を振った。

 突然のことに、俺は固まる。笑顔を返す暇すらなく、宮崎先輩は去って行った。


「次に、新入生代表の方お願いします」


 今になって気が付いたが、進行役はメガネの先輩だった。淡々とプログラム進行をやっている。


「はい!」


 と、よく響く声で、新入生が立ち上がった。

 俺から見ると、右前。背は低いが、金髪が目立った。暗いはずの体育館でも、輝きを失っていない。

 あれは、天然の金髪だ。そもそも、真川高校では髪を染めるのは禁止されている。あそこまでの髪は天然でなくば許さない、のだけど……。


「……なあ、勇人。俺、すっごい嫌な予感がしてるんだけど」

「奇遇だな。俺もだ」


 金髪というものに、俺も礼二も良い思い出がない。なにせ、中学時代によく突っかかって来た後輩が文句のつけようがないくらいに明るい髪の色をしていた。

 ショートカットという長さにも、これまた苦い思い出しかない。嫌な予感が加速する。冷や汗が出てきた。


「なあ、勇人」

「言うな、礼二」


 壇上に新入生が立つ。その女子生徒の顔を見て、俺と礼二は同時に頭を抱えた。まわりの視線を感じるが、今は身を隠す方が優先だ。


「こんにちは! 新入生代表、アリス・辰野たつのです!」


 俺は告げられた名前を聞いて、心の底から神を呪った。

三人目についてのいきさつは次の話に。

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