第十話 タツノ
あれは、中学三年生の頃だった。俺の通う中学校に、天才がやってきた。
名前は、アリス・辰野。勉強、運動どっちもトップの成績を誇り、誰からも認めらえる優等生だった。
人当たりもよく信頼が厚い。その代わりに、敵とみなした者には、全く容赦がないことで有名だった。
俺たちは三年、辰野は二年。一年違いだった俺らが出遭ってしまったのは、秋に行われた球技大会でのことだ。
俺は、礼二と一緒にバスケットボールで出場していた。中学では男女混合で大会が行われていて、俺たちも女子と合同でチームを組んでいた。
普段は男女別に体育をやるから、混合試合は大いに盛り上がっていた。まあ年頃の男女ということで、それなりの仲に発展する奴たちがいたくらいだ。
俺と礼二は、そんな色恋とは遠く離れており、チームの女子は他の男子とくっついていた。
悲しさと寂しさを試合にぶつける。そんな覚悟で挑んだのが、アリス・辰野の入った二年生のチームだ。
辰野の噂は、全校に轟いていた。何をさせても負けなし。上級生すら相手にならないほど。どの部活でも引っ張りだこで、参加すれば確実に記録を塗り替える。
いきなりか、と礼二は嘆いた。俺も、似たような気持ちだった。格好つけるどころか、これでは一回戦敗退が確実だと思った。
だが、結果は、俺たちの圧勝。アリス・辰野は、下馬評を覆され、ろくに活躍も出来ないまま一回戦で負けてしまった。
それが、俺と礼二にとって、悲しい因縁の始まりだった。
まず、バスケットボールで敗れた辰野は、俺たちにバスケットボールでの再戦を申し込んできた。
確か、3on3だったような気がする。それでも俺たちは圧勝した。
次は、野球。俺は昔に少年野球をかじったくらい。これは負ける、と思っていたら、また勝った。
その次は卓球だったと思う。俺は、卓球なんてやったことがなかった。だってのに、辰野が立ち上がれなくなるほどに圧倒し、あっさりと勝ちを貰った。
とどめは、全国模試だったかな。辰野が無理を言って、俺と同じ学年の試験を受けた。どうあがいておも勝てる戦いじゃなかった。何せ、相手は神童なんて呼ばれてたくらいだ。
知識だけならば、日本でいう大学生すらも相手にならないという辰野。俺は最初から戦うつもりもなく、分からない問題は適当に埋めて提出した。
辰野は全国二位だった。一位は誰かというと、俺だった。
正直に言って、俺は凡人だ。勉強、運動、どっちも普通。なんでもそつなくこなせるんだが、特技はない。
全国模試で一位を取れたのは、間違いなく偶然。それは俺自身がよく分かっている。両親からも不正を疑われた。それは少し悲しかったけどな。
とにかく、辰野は、何をやっても俺に敵わなかった。複数対複数、一対一。全てにおいて、俺は勝った。
最後の勝負は、卒業式でのじゃんけんだったっけか。俺の第二ボタンをかけて、百回やって百回とも俺が勝った。
なんとなく可哀そうになったので第二ボタンは渡してやったが、それはもう酷く恨まれた。辰野のプライドをズタボロにしてから、俺は中学校を去った。
それで、この因縁は終わったもんだと思ってた。辰野なら高校なんて行かないで、海外のどこか有名な大学にでも行くと考えていた。
だってのに。
新入生代表。おそらくは入学試験を全問正解して、アリス・辰野はやってきた。




