第十五話 弁当と邪魔者と
そしてやってくる昼飯の時間。
「じゃ、勇人、頑張れよ!」
と、颯爽とどこかへ消える礼二。
いつもなら待ち望んでる、でも今日はちょっと恥ずかしい昼の癒し。
まあ、ここは男から誘うもんだよなあ、ってことで、
「あーっと、行くか、竜姫」
「……うん」
昼休みに近づくにつれ、チラチラ飛んでくる竜姫の視線に惑わされつつ、俺たち二人は食堂へ向かった。
真川高校の食堂は、あんまり広くない。だから、スタートダッシュが重要だ。
授業が終わってからすぐに誘ったんだが、食堂はかなり混んでいた。二人並んで、となると……。
……お、あった。
「窓際が空いてるな。行こうぜ」
「……は、はいっ」
緊張するー。竜姫も緊張してるー。
ちょうど空いてた席を確保して、俺は自分の分のパンを買ってくる。
八十円のあんぱんとジャムパンを一個ずつ。竜姫が弁当を分けてくれるっていうし、この二つで足りるだろう。
まあ、少しくらい足りなくても、我慢はできる……、
「お、おかえり、勇人君」
って、あれー。なんだかすっごいことになってるぞー。
大きめの弁当箱が三つ。そのうち二つが俺の席に置かれてる。片方は白米がぎっしり敷き詰められてるし、もう片方にはど定番な唐揚げ、卵焼き、ソーセージなどなど。
どう見てもこれ、多く作り過ぎたってレベルじゃないよね? 明らかに二人分だよね?
「あのっ、お味噌汁もあるんだけど、食べる?」
保温ポッドまで持参ですか。気合入ってますねえ、竜姫さん。
俺は、買ってきたパンをそっと袋に戻した。これは、逆のパターンだ。パン食ってる余裕はねえ。
「貰ってもいいかな?」
「う、うん、どうぞ」
箸まで用意してくれてるし。これは、俺も気合を入れないとイカン。
竜姫は、俺が食べ始めるのを待っている。俺がなんと言うかで、この場の空気が変わる。
まず箸を伸ばすのは、米。俺は硬めに炊かれてるのが好きだ。……うん、絶妙な炊きあがり。
次に箸を伸ばしたのは、唐揚げだ。俺は、衣がさっくりでもしっとりでもイケる。……うん、素直に美味い。
そして、卵焼き。これは甘いかしょっぱいかで意見が分かれるところだろう。俺は、まあ別にどっちでもいいんだが……甘くて、さらに出汁も効いてる。美味い。
「美味い」
「ホント?」
「ホントホント」
さらに味噌汁。……おー、絶妙なみそ加減。体に染みるわー。
ご馳走だね。まごうことなき、ご馳走だね。
「竜姫」
「は、はいっ」
俺はこれにいくら払えばいいんだろうか? コンビニ弁当をはるかに超えるクオリティに、どれだけお礼を出せばいいんだろうか?
「美味い」
いや、これしか言えねえ。出された飯に対する最高の感謝は、完食することだ。
「よかったあ……」
俺の感想に満足してくれたのか、竜姫もやっと弁当を食べ始めた。
わーいやったー、昼飯代が浮いたぞー。……とかいう甘い考えを持っていた朝の俺を、助走つけて殴るレベル。こんな弁当、お袋にも作ってもらったことねえ。
美味い、としか言えない。うわウマい、とか、わー美味しいですねー、なんて生半可なことは言えない。美味い。
美味い美味い言ってると、竜姫も緊張が解けてきたのか少し笑顔になってくれた。
女の子の笑顔と、その子が作ってくれた弁当。最高じゃないか。
今までにない出来事に、涙を流したくなる。中学時代の俺、女運最悪だったからなあ。
……いやいや、今はアイツのことなど考えてはいけない。全身全霊で弁当を味わい尽くすのだ。
「これ、作るの大変だったんじゃないか?」
「そんなことないよ。自分のと一緒に作っただけだし」
「毎日このクオリティかよ……」
「な、何かおかしかった? 美味しくない?」
「いや、美味いものを食うという幸せをかみしめている」
ああ、食堂の喧騒が遠くなる。久しぶりに訪れた味覚の楽園。しばらくはこれにひたっていたい。
「……ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
これが粗末だなんて口が裂けても言えない。普通の男だったら、即座に求婚するレベル。さすがにそれは俺の理性が止めたが。
「お茶、飲むかな?」
「貰う貰う」
温かいお茶も、良い感じに喉を潤してくれる。まさに、食後の一服ってもんだ。
「幸せだ……」
「大げさだよぉ……」
いやいや、大げさなもんか。高校生活二年目にして訪れた春。例え一瞬だったとしても、俺は生涯このことを忘れないだろう。
これはなんか、お礼を考えないとな。
何がいいだろう? 正直、女子へのプレゼントとか考えたことないし。今まで、軽いおしゃべりくらいしか経験してないからなあ。
うーん、この感謝は言葉だけでは表せない。なんかこう、ちょっとしたものでもいいから、何か……。
「見つけたぁ!」
……あん? 誰だ、人が考えごとをしている時に騒がしい。
「見つけたわよ、竜崎勇人ぉ!」
誰だよ、リューザキユートって。
「無視するな、探したんだぞ!」
……ああ、俺か。俺のことか。
キャンキャン煩いな、誰だよ。
「って、うおわぁ!?」
しまった、油断してた。心の底から緩みきってた。
天然の金髪。華奢な体に、ちっこい背丈。それでいて何でもこなす、万能娘。
こいつが、アリス・辰野が学校にいるってことが、頭の中からすっぽ抜けてた!




