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第77話 復讐の凶刃


 ここしかない。イラ・クリストルクと真琴の戦いをずっと影からうかがっていた女は、イラ・クリストルクが真琴にとどめを刺そうとした時点で背後から気配を殺して迫り、その凶刃を振るった。イラ・クリストルクは今真琴にだけ意識を傾けていて、横やりを入れる存在にまで気を配れていない。

 常に全方位に意識を向けているイラ・クリストルクを不意打つには、今のタイミングしかなかった。


 最高のタイミングを狙い続け、手にした刀に“気”を込める。放つのは射程拡張の斬撃。そしてそれは成功した。イラ・クリストルクは空を飛ぶ自分の腕をありえないものを見る目で見て、すぐに女のいる方へ振り返った。


「……誰だ。というのは無意味か」

 イラは左手で肩口から斬られた傷跡を押さえながら、自分の腕を斬り飛ばした相手を見る。イラは灼熱する感情を理性で抑え込んだ。


 切り落とされたボトンと、右腕が遠くに落ちた。


 そこにいたのは刀を振り切った状態で固まる、灰色の髪をした外見は美しい女。男であればだれもが劣情を覚えるであろう外見と仕草だ。だが戦場に似つかわしくない雰囲気は歪にしか感じられず、さらにいくつもの理由が女自らの美しさを損ねていた。

 まず女は美しい外見に似つかわしくないどす黒い空気を放つ真っ黒な刀を持っていた。刀には“龍骸”から発せられていた瘴気とよく似た、しかし瘴気以上にその黒には生々しい感情が乗っていた。

 女は端正な顔を醜悪に歪め、目は濁りきった光を発していた。口は半月状に吊り上がり、禍々しく赤に光る瞳は逃がすまいとイラを見据えている。


 そして何より、女は臙脂(えんじ)色の軍服を身に着けていた。帝国軍人が身に着ける臙脂の軍服。それはチェーンやベルトで奇妙に改造されていたが、帝国の軍服に間違いない。

「てめぇが元凶か」

「はっ!」

 獰猛(どうもう)な獣のようにうなり声をあげるイラを、女は鼻で笑った。


「それを答えることほど、無意味なことはないでしょう? ……“透徹”」

 “透徹”と、女が呼ぶ時、声ににじみ出る深い憎悪があった。身の毛もよだつほどの殺意を受けて、イラは左手で手刀を構える。その構えに女はまた嗤う。


「あらあら。“黄の玉石”ともあろうお方がとても弱っているみたいじゃないの。まるで入隊したばかりの兵士みたい。どうしたのかしら?」


 嗤う。


 女はイラを見て嗤う。熱くなり過ぎた思考は逆に冷える。イラは灼熱した感情が振り切れて、むしろ冷静になる。


「その刀。妖刀か。ならこの騒ぎを起こしたのも」

「“増鬼夜行”。気に入ってもらえたかしら」

「あぁ。最高にな」

 女は嬉しそうに種明かしをしている。だが油断はない。明かしても不利はないとわかっているから言っているのだろう。“増鬼夜行”。イラも聞いたことのある有名な妖刀だ。


 “増鬼夜行”は使い手の負の情念を吸い取り、斬りつけることでその情念を送りこむ。送り込まれた相手は自分自身の中にある負の感情と結びつき、使い手と同じ感情を抱き、時に使い手の操り人形になってしまう。

 さらに操り人形から傷つけられた相手も、同じように操り人形となってしまうのだ。

 数ある妖刀の中でも本数が多く、また危険視される妖刀だ。


 しかし、“増鬼夜行”も妖刀である以上、使い手を(むしば)む呪いがある。

「確か“増鬼夜行”は感情を移せば移すほど、感情に飲み込まれると聞いていたが?」

 妖刀にはすべからく呪いがある。“増鬼夜行”の呪いは妖刀の能力同様、感情にまつわるものだ。


 “増鬼夜行”は斬りつけた相手に自分の感情を流し込む。けれど同時に斬られた相手の感情も使い手に入ってくるのだ。

 嫉妬。怒り。絶望。憎しみ。負の情念といえども種類は様々で、使い手はあらゆる負の感情を統合して背負うことになる。

 そして大抵の人間は混ざり合う感情に、自分が抱いていた感情を見失う。自分が怒っていたのか、ねたんでいたのか、恐れていたのは嗤っていたのかわからなくなる。その困惑は切られた相手に伝わり、また使い手に返り、反響しあう。最後に訪れるのはあらゆるものをねたみ、怒り、恐れ、憎悪を抱く怪物の群れ。増え続ける鬼の群れだ。

 ゆえに“増鬼夜行”と、この妖刀は呼ばれている。


「そうね。“増鬼夜行”で斬り続けて、私の中にはいろんな感情が渦巻いている」

 けれど、と女は言った。


「私の中にあるこの憎しみは、この復讐心は()()()()()()()感情に飲み込まれてしまうほどぬるいものではない」

 女から鳥肌が立つほどの憎悪があふれかえった。イラは妖刀を通じて女から憎しみが瘴気のように湧き立っているのが分かった。数千の感情を抱いてなお、揺るがない憎悪だ。


「そうか」

 女の憎悪は真っすぐイラに向けられていた。だがその憎悪を受けても、イラは動揺した様子一つ見せなかった。

 あったものは納得。目の前の害悪が、イラと同じくらいの情を抱いているのだとすれば、たかが数千人の感情に飲み込まれることはないのだろう。


「もういい」

「もう一つ」

 害悪を殺しにかかろうとしたイラを、女は言葉の絶壁で押し止めた。女は“増鬼夜行”を左手に持ち、切っ先をイラに向けた。

 女の言葉に、わずかな緊張が宿った。


「お前は、ヤイバ・ルーンロイドという名前を知っているか?」

「知らねぇよ。死ね」

「……そうか」

 答える女の声から感情は全て失せていた。イラは女の言葉を切り捨てて走り出す。女はイラの吐き捨てた言葉を噛みしめて、そして、


「お前が死ねよ」


 怨嗟のこもった言葉とともにイラに斬りかかった。手刀と漆黒の刃が衝突する。びりびりと震える衝撃が二人の間を巡る。イラと女の顔が間近になる。

 イラの目にも、女の目にも、あったのはドロドロと濁った感情。吐き気を催すような憎悪があふれていた。


「私の名前は」


 込められた感情は龍剣から流れてくるそれよりもはるかに深く、おぞましい。二人の復讐者は憎しみを込め、顔を醜くゆがめていた。

 女は待ちわびたと言わんばかりに己の名を告げた。


「セレナ・ルーンロイド。お前が殺したヤイバ・ルーンロイドの娘で、お前を殺す者の名だ」


「知らん。興味もない。ただお前は黙って死ね」


 女の、セレナの言葉を、やはりイラは切り捨てる。セレナのことなど知らない。名前などに興味はない。覚える気もない。イラは目の前の元凶たる帝国軍人を殺すことだけが頭にあった。


 深夜は通り過ぎ、激戦のイゾの町はもうすぐ夜明けを迎えようとしていた。イラとセレナが向かいあう遠くでは白炎の炎が町を焼き、その周辺では無力化された人々のうめき声が響いていた。

 そしてその隣では廃墟と化した一角。血霧舞い散り、数多の命を散らした者たちの残骸が漂っていた。


 イラとセレナは空の端に朝焼けを見ながら、醜悪に嗤う。復讐に飲まれた二人が、最後の戦いを始めた。


   *


「しぃぃぃっ!!」

「かぁっ!!」

 バランスが悪い。イラは“操糸”で体を無理矢理動かしている現状に苛立ちを覚えていた。


 セレナの妖刀をイラは左手一つで凌ぐ。振り下ろされた妖刀を刀の腹を撫でて反らし、反撃で繰り出した突きのために伸ばした手に迫る刃をとっさに避け、裏拳で刀を弾く。

 セレナは一撃の威力よりも速度に重きを置いていた。さらに細かくばらまかれたフェイントの数々。

 右目めがけて突き出された妖刀を首をひねって躱すと、その先に暗器の針が飛んでくる。後ろに倒れながら大きく足を振りあげて迎撃するが、女は最低限の動きで避けてみせる。


 イラの体はすでに限界を超えていた。毒に体力を奪われ、酒で身体機能を落とした状態で何千という人間を無力化し、“龍骸”を纏った真琴と死闘を繰り広げた。

 その末でのセレナとの戦いだ。セレナも、イラが体力も気力もすり減っていることを承知で戦いを仕掛けてきた。全てはイラを殺すため。セレナ自身がイラを殺すために仕組んだものだとすれば、大したものだと言ってやらないこともない。


「業腹だがな」

「ははっ!」

 イラは下がる。セレナの俊敏な攻撃に競り負けている。“操糸”を通じた無色の精霊の操作で小刻みなステップを踏む。それでもってセレナの妖刀と暗器の数々を躱し続ける。


「ほらほらほらほら!! そんなものか“透徹”!!」

 セレナは至極愉しそうに妖刀でイラをつけ狙う。セレナの刃には、“気”が乗り、刀身以上の刃でイラを翻弄(ほんろう)する。セレナは嗤う。自分がイラを追い詰めているという現状が嬉しくてしょうがないといった様子だ。


「はっ……なめるな帝国」

 イラは嗤うセレナに嗤い掛ける。イラの左手で蠢いている操糸が一層動きを活発化させた。操糸は死体に群がる(うじ)のようにイラの左腕を這い回り、手の平に集まっていく。それは一度銀色の毛玉になった後、細長い鞭へと変貌した。


「ひはっ!!」

 イラはタンと後方に下がりながら鞭を振るった。筋肉や神経の働きを補助し、時に動かす精霊器である操糸の特殊用途だ。奇策ではあるが、それだけイラが追い詰められている証拠。武器に変えた分、イラの傷を塞いでいた操糸の数が少なくなる。露わになった傷は黒く変色してはいたが、大部分がすでに塞がっていた。その傷痕をまた開きながらイラは帝国を殺しにかかる。

 セレナは突如として現れた鞭に目を向け、即座に妖刀を手繰った。


 寸の間妖刀が消え、セレナの周りに黒い残像が生まれる。蛇のように迫る操糸の鞭は残像に阻まれる。イラは何度もセレナを縊り殺しに行くが、セレナの刀術はそれを許さない。


「ちぃっ!!」

「甘いんだよ!!」

 セレナは左手に持った妖刀で鞭を逆に巻き取った。ニタリと嗤みを浮かべて妖刀を引き上げる。同時に空いた右手で鉛玉を弾く。妖刀に引っ張られたイラは釣られた魚のように跳ね上げられ、鉛玉は塞がりかけの傷を抉る。


「死ね!」

「アクオグ エソロク」

 空中に浮かばせられたまま、イラは冷徹に精霊術を編む。放つのは殺意の込められた劫火。渦巻く火炎が眼前の女を焼き殺す。


「イケヒウス エタナウ」

 炎の精霊術を前にセレナが選んだのは同じ精霊術。現れた水壁が前進し、劫火を減衰させる。

 水壁に炎が消滅させられることはない。しかし突き抜けてきた炎はかなりの威力を殺されていた。セレナは残骸のような炎を浴びるが、大した痛打足りえない。


 セレナの近くまでイラが迫る。ぞわぞわと、妖刀から違和感が伝わってきた。操糸の鞭がばらけ、妖刀の根本に迫ってきている。セレナは舌打ちを一つして、妖刀を手放す。同時に、妖刀は操糸に飲まれ、遠くに放り捨てられた。

 セレナは腰に差したもう一振りの刀ではなく、背中に収めていた大振りなナイフを取り出し、操糸の群れを避ける。


 イラは地面に着地すると、うぞうぞと操糸を体内に戻し、セレナを追いかける。刀術。暗器。精霊術。セレナの見せた手札は全て高いレベルでまとまっていた。不愉快であるが強い。万全のイラならまだ簡単に殺せる程度だろうが、満身創痍のイラではこの女を仕留めることは難しい。

 隙を見せれば即反撃が飛んでくる以上、透徹の固有術式を編む余裕はない。“穿つ透徹の礫”で確殺するには、組み立てて隙を生まないといけない。

 イラとセレナは、真琴が倒れているあたりから離れるように通りを走り抜けていく。セレナが向かう先は妖刀が飛んで行った方向。イラの右腕も同じ方向にある。


 瞬歩。イラはセレナとの距離を一気に詰める。背中を間合いに収め、上段蹴り。セレナは身を伏せて躱し、反撃にナイフを突き出してきた。

 当然のようにナイフは毒で濡れている。イラは軸足に無色の精霊を込めて足首から先の力だけで空中へ跳躍。距離を取ればセレナはナイフを投擲してきた。イラは左手に操糸を纏い、手袋のようにしてナイフを掴み取り、投げ返した。


 投げたナイフは、空中でいきなりバラバラに裂けた。イラが目を見開いた瞬間。鋭い風切り音が聞こえてきた。目に見えない何かが飛んでくる。イラは左手で急所を守り、操糸を肉体強度に回す。

 突き抜ける五本の刃が、イラの表面を撫でた。「ぬぁ……」ただで残り少ない血液が噴出する。


 左手の隙間から見れば、セレナの右手の指が楽器を弾くように蠢いていた。見覚えのある動きだ。

「糸か……!」

「ひひっ」

 理解と同時に行動。エザク イラは風に乗って糸の包囲を突破。セレナに接近する。セレナは右手を器用に動かし、ヒュゥンと不吉な風切り音をかき鳴らす。


 目に見えないほど細い糸を操る。イラは暗殺者で糸使いの女と対峙したことがあった。あの技術に及ばないまでも、セレナは正面切って、高度な暗殺者の技を行使してみせる。

「エザク」

 再び風。繊細極まる糸の操作は、風の流れ一つで乱れる。セレナは糸の動きを邪魔する風に眉を顰める。


 ここだ。糸の操作は全神経を使う作業だ。イラは手刀をセレナの首に突き出す。


 瞬間、イラの左手はからめとられた。細い糸が左手を拘束し、引きちぎろうと力が込められる。


「なっ……」

 糸は風で乱したはず。イラに動揺が走る。すぐに気づく。左手。セレナは薄ら嗤いを浮かべていた。時間差で左手の糸を展開し、イラの腕をからみとったか。


 右手の糸の操作を放棄。セレナは空いた右手でもう一本の刀を抜いた。白銀の刀身。一見して業物とわかる一振り。セレナはそれを横薙ぎに斬り払った。


 殺せる。


 イラに刀の一閃を躱す術はない。セレナはニタリと嗤う。だがその嗤みはすぐに凍り付いた。


「は?」

 イラがとったのはセレナの常識の外にある手段だった。イラは防御ではなく回避を取った。空中にくくりつけられた左手をそのままに、身を伏せる。そんなことをすれば当然。


 イラの左手が、セレナの一閃によって切り離された。両腕を失う代わりに自由になったイラは近くに落ちていた右手の元へ走る。虚を突かれたセレナの判断は一瞬遅れる。


「操糸」


 イラは右手の元へたどり着くと、切れた右肩を覆っていた操糸を伸ばした。呼応するように、離れていたはずの右手の切り口からも操糸が飛び出す。

 二つの操糸は空中で結びつくと、右手を大きくはね上げた。そして目まぐるしく操糸が蠢きあい、切れた右手を肩に乱雑に結び付ける。


「化け物が」

「誉め言葉だ」

 かかった時間はほんの数秒。イラは操糸で右腕をくっつけた。切り口には未だにうぞうぞと操糸が活動しているが、神経を操糸が肩代わりしたか、右手はイラの思う通りに動いてくれる。


 悪態をついたセレナにイラは不敵に嗤う。そしてようやく手にできた六色細剣のシリンダーを回転させ、引金を引いた。

「ちいっ!」

「ひはっ!」

 セレナの周囲の大地が杭へと変わり、くし刺しにしようとする。セレナが後ろに飛びずさって回避すると、イラはシリンダーを緑に回転させてまた引金を引く。風が吹き、落ちたイラの左腕を呼び寄せた。

「来い」

 イラは左腕からも操糸を伸ばし、即興で縫合(ほうごう)する。両腕を取り戻したイラは瞬歩でセレナとの距離を詰める。


「復讐だか何だか知らんが、お前はここで死ね」

 イラが吐いた息には血が混じっていた。セレナの顔に危機感が浮かぶ。限界を超えたところで戦うイラにしてみれば、長引かせたい戦いではない。


 殺す。


「エタナウ」

「かっ……!」

 詠唱と同時に引金を引く。放つのは赤の精霊術。炎でセレナを焼き、六色細剣で心臓を狙う。


 炎に焼かれたセレナはもがき苦しむように表情を歪めていた。イラは六色細剣を持つ右手に力を込め、確実に殺しきるように神速の突きを放つ。セレナは突きが来たことを認識すると、表情を歪めながら身をよじって避けようとする。だが遅い。セレナが避けるよりも、イラの方が速い。

 追い詰められたセレナの表情が恐怖にゆがむ。そして、


 恐怖にゆがんだ顔が、醜悪な嗤みに変わった。


「ここだ」


 刹那、セレナにまとわりついていた炎が吹き払われた。イラの突きがセレナに当たる。だがセレナの体に穴が空くことはなかった。六色細剣の切っ先は改造された()()()()()()止まる。イラの頭に警報が鳴り響く。

 だがイラが行動するより速く。イラは何かに貫かれた。両手足の付け根。嫌味なくらい正確な四つの刺突が、イラを貫き、大穴をこじ開けて動きを拘束する。

「なんだよお前」


 イラは口からごぼりと血をこぼした。眩暈(めまい)がする。瘴気の影響は、真琴が落ちたから次第にましになっているが、傷を負い過ぎた。

 離れ行く意識を、イラは手離すまいとする。


 イラを貫いたものはセレナの背中から伸び、先端は蜘蛛の足のようにとがっていた。臙脂色だった。イラは自分を貫いているものが、軍服についたチェーンが形を変えたものであると気づいた。


「“霊装”赤蜘蛛プロト」


 セレナの身に着ける軍服が変形する。背中から四本の蜘蛛の巨大な足が伸び、ベルトが変形して軍服の下から体にぴったりと合うように、隙間なく、薄く衣服が張り付いている。

 手足の指先まで伸び、首まで覆う。首の襟の部分からしゅるしゅると帯が伸び、セレナの目を覆い隠す。臙脂色の布で覆われたセレナの目の代わりのように、帯に()()()()()。蜘蛛を連想する凶眼。おぞましさを感じさせる八つの目は油断なく辺りをぎょろぎょろと蠢いて見回している。


 セレナの口は耳まで裂け、灰色の髪は風も吹いていないのにたなびき、ゆらゆらと持ち上がる。

 かつて、真琴は“色欲”の怪物をその身に取り込んだ狙撃手を魔獣人間と称した。人の体をベースに、異形を混ぜ込んだ姿は魔獣人間としか言えなかったからだ。


「くひはっ!」

 今のセレナはその魔獣人間と比べてどうだろうか。大差ない。セレナ本来の手足と合わせて八本の腕に、複眼。人と大蜘蛛を融合させたような姿は、誰が見ても異形で、気味が悪かった。


「くそが」


「死ね。“透徹”」


 最高のタイミングで不意打った蜘蛛は、悪態をつくイラを嘲笑した。

イラさんは両腕が斬られた程度では止まりません。

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