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誰か俺に異世界人の指導の仕方を教えてほしい【更新停止中】  作者: クスノキ
第2章 騎士の中の騎士と騎士あらざる騎士
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第36話 夜に交わす言葉は②


「基本的に帝国のクズ……兵士どもの練度は大して高くはありません」

 時は深夜。イラとエクスはテントの中で二人、明日からの作戦を立てていた。


「基本的にあいつらの戦い方は数に任せた力押し。兵士レベルでは大して違わないでしょうが、騎士や精鋭となると実力の差は差は大きくなります」


 八年前の帝国と王国の戦争。兵の規模が数十倍も差があった。それなのに辛うじて停戦まで持ち込めたのは“玉石”という別格の存在を六人、王国が有していたからである。しかしそれを抜きにしても、王国の騎士や精霊術士の質が帝国を上回っていたということも大きい。


「もし王国の騎士と帝国の騎士。あるいは王国の精霊術士と帝国の精霊術士を戦わせた場合、勝率は九割を超えるでしょう。そこにあるのは精霊術の格差」

「うむ。王国の精霊術の技術は他国の追随を許さない。それは王が精霊術を重視しているからであるし、リリアーナ様やニントスがいたからでもある」

 王国の“白”と“黒”の玉石は精霊術の発展に大きく寄与した。どちらも超がいくつもつくほどの技術と知識、才能を有している。


「王国は大陸諸国の中でも精霊術がずば抜けている。それは精霊器を始めとした道具関係も同様です。ですが……」

 イラは床に置いてある軍服を拾い上げた。戦いの後、エクスが死んだ帝国兵からはぎ取っていたのだ。

見た目は単なる衣服の類。だがイラがいくら引っ張っても、切り裂こうとしても、軍服には傷一つつかない。


「これがなにかが自分には分かりません。少なくとも精霊器ではない」

「根拠はあるか?」

 優れた精霊器職人であるイラの言葉だ。特異な力を持つ武器と言えば、上げられるのは魔剣や妖刀、そして精霊器に精霊結晶。この軍服は武具の形をしていないから魔剣、妖刀ではない。そしてイラはこれを精霊器でもないという。

 ならばこれは一体なのか。


「はい。精霊器を精霊器たらしめるものは燃料タンクの役割を果たす精霊結晶と、回路となる陣の存在です。この二つのどちらかが欠けても精霊器は精霊器なりえない。ですがこれは精霊結晶も、陣もどちらもない」

「ゆえに精霊器ではない、と」

「はい」

 イラの言葉にエクスは頭を抱える。イラの表情も険しい。魔剣でも、精霊器でも、妖刀でも精霊結晶でもない謎の武装。それの意味するところは一つだ。


「帝国が全く新しい兵器を開発した、か」

「はい」

 それは明日から始まる森での戦いだけではない。これからの帝国との関係すら揺るがす事実だった。


   *


「ひとまず、これからのことは置いておこう。重要なのは今。この未知の武装がどのような力を有しているかが大切だ」

「ですね。……この軍服、確実に言える機能は感情の抑圧、精霊術の無詠唱行使、形状変化、そして破壊不能。未確定なものだと肉体強化、隠密、軍服を着ている者同士の意識共有、と言ったところでしょうか」

「これはまたあれこれとっつけたものだな」

「本当にですよ。ありえない」


 一つの武装が所有している機能としてはあまりに雑多だ。イラにもエクスにも、どうやってこの軍服を作ったのか見当もつかない。


「しかし“玉石”クラスであれば楽に仕留めることができる程度の実力だ。……最も相手の数が分からない以上、数十人で囲まれればどうなるかは分からないが」

「と言っても百人以上潜んでいることはないと思いますよ?」

「どうしてそう思う」

 問いかけたエクスに、イラは目に不穏な色を浮かばせていった。


()が百人以上のクズどもを近くに置いておいて、気づかないとでも思いますか?」

「なるほど、それは確かに」

 これ以上ない理由だな。とエクスは笑った。


   *


「そうでなくとも連中は潜伏していました。ならば少数でしょう。数が増えれば痕跡も増える。目的不明ではありますが、あの軍服を百人以上所有してやらせることが潜伏など。ありえないでしょう。無駄すぎます。帝国はクズですが無能ではない。さすがにそんな悪手は打ちませんよ。多くて三十人前後でしょうね」

「だが三十人だ。運用の仕方次第ではこちらの騎士たちは全滅するぞ」

「でしょうね。ここにいる騎士たちの練度は……」

「分かっているとは思うが、戦争末期の精鋭と比べるな。彼らに比べると何枚も落ちる」

「そうなるとつくづくシイナさんの負傷が響きますね。こちらの損傷を防ぎつつクズどもの力を削ぐには……」

「騎士を二人一組にしよう。後は連絡を密に。だが村の警備にも人が欲しいな」

「ですが頭数が」


 イラとエクスは思いつくままに意見を述べ合う。その様子はまるで仲のいい友人同士か、信頼しあう仲間のようだ。

「ところで、イラ。お前は戦いに参加するのか?」

「……どうしましょうか」

 二人の話が途切れた時、エクスがふと、そんなことを言い出した。


「正直、今こうして計画を立ててもあいつらを前にすればどうなるか分かりません。自分の憎悪は理性でどうこうできるものではないですから」

「分かっているのだな」

「えぇ。今ならまだ冷静に話すことはできますね」


「……」

「……」

 会話が途切れ、二人はまた黙り込む。


「ところで、自分に対して強い憎しみを見せていたエクスさんの副官。彼は一体」

「そのことか。……彼の名前はトコイル・ラン・ベルロッド。覚えているか?」

 イラの眉がピクリと動いた。

「ベルロッド……なるほど覚えています。その名前は忘れられません。忘れられるはずがない。そういうことですか。あの馬鹿の弟ですか……なら自分は()()()()()()()()()()


 「あの馬鹿」と言う時だけ、イラの顔に小さな笑みが浮かんだ。だからだろう。呟くイラの顔には隠しきれない苦痛と寂寞が浮かんでいた。


   *


 真琴はトコイルの話を聞き終えて、黙り込んでしまった。トコイルの話が本当なら、イラのしたことはまさしく外道そのものだ。

「信じたくないとういう気持ちは分かる。だが事実だ」

「……なんで、先生はそんなことを」

 真琴は空になったカップに目を落とす。トコイルは小さくため息をついた。


「さぁな。けどそれだけ帝国が憎かったのではないだろうか?」

「そこまで、か」

「そこまでだよ。だから俺は“透徹”が嫌いなんだ」

 カタカタと、冬の夜風に吹かれて家の窓が鳴った。


(俺には分かんねぇな)

 そう真琴は思う。真琴は自分のことを感情的な人間だと思っているが、一つのことに執着する性格ではない。どちらかといえば熱しやすく、冷めやすい人間だ。

 叶えたい願いのためなら、何でもすることができるとは口が裂けても言えない。


(なんか怖えな)

 真琴の知らないイラ。今ではなく、かつてのイラ。トコイルから聞いたイラの行動は真琴には全く理解できなかった。そして何も知らない人間の所業として、イラの話を聞けば、真琴だってイラのことを外道と罵り、恐ろしいと感じたはずだ。


「俺の話は以上だ。すまないな。こんな夜遅くに」

「いや、俺の方こそ先生のことが知れてよかった」

 表情が曇ったままの真琴は立ち上がって玄関に足を向ける。カチャリと扉を開けると、トコイルは一礼して家の外に出た。


「さすがに寒いな」

「だろうな。俺はもう寝るよ。明日から忙しくなりそうだし」

「あぁ。俺ももう寝るさ」

 最後にそれだけ言って、トコイルは去っていった。


「なんで先生は……」

 あんなに帝国のことを憎んでいるのだろうか。きっとシイナやエクス、そしてイラ本人は知っていることだ。けれど教えてはくれない。


「いつか、教えてくれる日はくるのかねぇ……」

 真琴は空を見上げた。新ロエ村から見る冬の星空は、現代日本で見る星空よりもずっと綺麗で感動的だ。科学の発展していないこの世界は空気が汚れるということがないのだろう。


 こうして、彼らの夜は過ぎていった。



   ***   ***



「さて、と。明日からどうするかねぇ」

 狙撃手の男は森の木にもたれて呟いた。帝国から与えられた作戦。それはいくつかイレギュラーはあったものの、問題なく進行中だ。いや、むしろそのイレギュラーが()()()()()()()()()()()()()()()()()


「しょせん俺らは()()()。実験体だ」

「あら、とっても悲しいことを言うのねぇ。一号さん」

「おっ?……これはこれは“色欲”殿。こんなところでお会いするとは。何かご用事ですか?」


 ぼやく狙撃手に声をかける者がいた。狙撃手が顔を向けるとそこには一人の少女が立っていた。

 十歳前後だろうか。まだ幼い顔立ちの少女だ。しかし薄いピンクの髪にくすんだ緑の瞳。睫毛は長く、幼さの中に蠱惑的なものをにじませる。身につけているのは黒に紫のフリルがついたワンピース。それから出た小さな手足に発達途上の平らな胸も合わさって、背徳的な美を醸し出している。

 そして彼女は手に()()()()()細剣を手にしていた。


 狙撃手は少女に(ひざまず)く。自分よりも年上の男が首を垂れる姿を、少女は嘲りをこめて見つめていた。

 狙撃手の無様な姿を丹念に、舐め回すように眺めた後、”色欲”と呼ばれた少女が口を半月状に歪めて語り出した。

「素敵な連絡よぉ。今ここに“透徹”と“青の玉石”がいるんでしょう?」

「ええ。それが何か?」

「任務を遂行するにはあなたたちじゃ役者が足りない。戦力の追加をしなさいってことねぇ」

「なるほど」


 戦力の追加。少女がここに来た理由がはっきりした。要件がそれならばこの少女にその任務は相応しい。

「連絡は他にありますか?」

「うぅん。何もぉ?何?もしかして何かを期待してたぁ?」

「まさか」

 嗜虐的な笑みを浮かべる少女に、狙撃手は薄っぺらな微笑みを浮かべて首を振る。彼自身言っていたように、自分たちは所詮捨て駒。この戦いが終われば不必要とされる道具でしかない。そしてそのことを悲しいと思う心の機能も彼らにはついていない。


「任務は予定通り。……それじゃぁ私のお仕事しようかしらぁね」

 少女は細剣を水平に構えた。狙撃手はわずかに息を飲んだ。夜の澄んだ空気に淀んだものが混じり始める。少女から黒く、濁った悪意がこぼれた。


 細剣の根元から黒い液体が滴り落ちてきた。月の光も映さぬ黒に満ちた液体。それがポタリ、ポタリと地面についた。


「うふふ。いらっしゃい『チビゴス』」

 少女が口元に妖しい笑みを作った。黒い液体はズルリ、ズルリと蠢き大地を食らって成長する。森が淀んだ空気で満ちた。黒で満ちた生物が生まれた。


「これが……」

 狙撃手は唖然とする。少女の周りには十体ほどの異形の怪物が生まれていた。光を反射しない黒い不定形の怪物。高さは人の足の付け根くらいまでだろうか。ぶよぶよと蠢く様ははっきり言って気味が悪い。


「うーん。やっぱり即興で作ったから定着が甘いわねぇ……。もって三日かしらぁん」

 見る者を恐怖させる怪物。だが少女はその出来に不満があるようだ。細剣を手で弄びつつ、ぶつくさと文句を言っている。

「やっぱりゴスゴスくらい時間をかけないとダメねぇ。ま、いいか。人間を食べればまだましにはなるでしょぉねぇ」

 少女はチビゴスを優しく一撫でしてから、跪いたままの狙撃手の方を向いた。


「一号ちゃん」

「はい」

「この子たちは多分あんまりもたないから、早く使ってねぇ。それと十日後くらいに兵士がたくさんにここに来るらしいの。そいつらは邪魔だから、来るまでに終わらせといてぇ」

「……かしこまりました」

 跪いたまま狙撃手は答える。その様子を見ていた少女はいいことを思いついたと嗤う。そして、


 ブスリと、細剣で狙撃手の心臓を突き刺した。


「か……はっ。な、なにを」

 細剣の突き立った自分の胸を見つめ、信じられないと顔で少女を見る。けれどその目には少女に対する怒りすらなかった。


「ん~せっかくだからぁ、あなたを強くしてあげようと思ってぇ。……喜んでいいわよぉ。あなたにあげるのは特別製。今よりずぅっと強くなれちゃうんだから」

 そこに狙撃手の人格は関係ないが。細剣を伝って黒い液体が狙撃手に近づいてくる。それが狙撃手に触れた瞬間、激痛が狙撃手を襲った。


「あっ……がぁ!!い、いた」

「うるさい。あなたたちは潜伏中なんでしょ?大きな声を出すものではないわぁ」

 少女は狙撃手の口に自分の手を突っ込んで、声を塞ぐ。狙撃手は少女の手を唾液と涙と鼻水で汚しながらもだえ苦しむ。

 狙撃手の体には細剣の突き立った心臓から全身にどす黒いものが流れ込み、蠢いていた。

「んんーっ!んん、ん!?んんんんっんんんぁ……」


 しばらくの間もだえ苦しんでいた狙撃手だったが、不意に力を失って地面に倒れ込んだ。体の中に潜む異物感。吐き出しそうな感覚は急に快楽へと変わった。

 これまで感じたことのないような快楽に狙撃手は身をゆだねる。抵抗を止めたせいか、狙撃手の体は変貌を始める。

「ぁ、うひひ。ふへへ……えへ」

 変貌を確認した少女が狙撃手の口から手を引き抜く。粘着質の唾液が糸を引いた。焦点の合わぬ目で笑い続け、変わり続ける狙撃手を、少女は唾液のついた手を小さな舌で舐めながら満足げに眺めていた。


「これでよし。さて私は帰ろうかしらぁ」

 狙撃手だったものを置き去りに、ザッ、ザッ、と足音を立てながら、少女は来た道を引き返していった。

 ”色欲”さんは変態ド外道ビッチ少女です。

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