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誰か俺に異世界人の指導の仕方を教えてほしい【更新停止中】  作者: クスノキ
第2章 騎士の中の騎士と騎士あらざる騎士
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第34話 男同士の決闘


「男と男の意見がぶつかったんだ。ならやっぱこれだろ」

 真琴はトコイルに剣を向けた。トコイルはこらえるように唇を血が出るほど噛みしめていたが、やがて我慢ができなくなったのか、怒気を全身から発散させた。


「そうか。そんなに死にたいか」

「はんっ。騎士様ごときに俺が殺せるかよ。俺は“透徹”の弟子、だぜ?」

 厳密には真琴はイラの弟子ではなく、生徒なのだが。度重なる挑発にトコイルは完璧に頭に血が昇ってしまっている。どうしたものかと周囲の騎士たちがエクスに救いを求める目を向ける。


「トコイル・ラン・ベルロッド。マコト・カミヤ。双方ともに一度下がれ」

 騎士たちの視線を受けて、腕組みをしたエクスは険しい声で二人を制した。


「止めないでください。私は」

「そうだ。これは俺とこいつの」

「止めはせん。ただ待てと言っているのだ」

 エクスは二人の間に割って入るように、ズンと足を踏みこんだ。すると彼らのいた場所に地鳴りが起こる。


「ウオイズンネス オン イチアド」


 エクスの詠唱。真琴はエクスが黄の精霊術を使ったことに気がついた。そうしている間にもゴゴゴと音を立て、真琴とトコイルのいる大地が盛り上がっていく。

「……何のつもりだよ」

「人は時に戦わなくてはならないことがある。意地の張り合いに観客は必要ない。私はそのお膳立てをするだけだ」

 顔を横に向け、らしくない小さな声でエクスは言った。それはつまり決闘を認めるということか。


(てっきりこいつは止めに入ると思ってたけど)

 不審ではあるが都合はいい。盛り上がった大地の高さは三メートルほど、広さは二十メートル四方くらいだ。

「ま、これで心おきなく戦えるな」

「ほざけ」

 準備運動でもするように軽くジャンプしたり、ぐっぐっと足を伸ばす真琴。対するトコイルは憤怒をにじませて背の槍を抜く。

 トコイルの槍はいい槍のようだが、特別精霊器だったり、魔槍であったりするわけではないようだ。それを見た真琴は龍剣を鞘に納め、代わりに『勤勉』の魔剣を抜く。


「剣を変えただと……貴様つくづく」

「武器の力で勝っても意味ないからさ。これでどうよ」

「準備はいいか?」

 これ以上ないほど熱くなるトコイルと余裕すら見せる真琴。二人はそれぞれ武器を構える。


「貴様の性根ごと叩き潰してやる」

「性根はとっくに叩き直されてるよ」

 二人は減らず口を叩いて、開戦の一歩を踏み出した。


   *


「止めない、ですか?」

「あぁ」

 盛り上がった大地の上にシイナが音もたてずに着地した。シイナの動きは今まで通りに見えるが、その顔色は蒼白で依然として悪い。


「無理するな。薬の後遺症がきついのだろう?」

「別に……このくらいなら、平気、です。立って歩くくらいなら全然」

 そう言いながらもシイナはエクスの隣に座り込む。


「ならいいのだが」

 エクスは争う二人を見て、内心ため息をついた。


(はぁ。こうするのが最善であろうとは分かっているが、やはりトコイルをここに連れてきたのは失敗だったか)

 トコイルがイラに対して嫌悪感を示すことは分かりきっていたことだ。エクスはそれを分かってあえて副官としてトコイルを連れてきた。


「私は……トコイル、さんを、連れてきて、よかたと……思い、ますよ」

「人の思考を読むのは止めなさい」

「今のは……誰でも分かる、です」

 戦いはすでに始まっている。二人の戦いはどうやら真琴が優勢のようだ。だがトコイルも決して劣っているわけではない。戦況はいつひっくり返ってもおかしくはない。


「私としては自身に深い憎悪を抱く者を当てて、イラがどう動くか見たかっただけなのだがな」

「そですか。それで……イラ、さんはエクスさんから、見て……どうです、か?」

「そうだな――」


   *


「うおらぁ!」

「ぐぬぅ」

 真琴が滑るように前に出ながら剣を振るう。トコイルはそれを槍の柄で避けるが、衝撃を殺しきれずに後退する。下がっただけ真琴が前に出てくる。上から叩きつけるような一撃を、トコイルは槍の取り回しで受け流した。

 受け流した勢いで斬撃を当てるが、真琴は素早く距離を取ってかわして見せる。


「イウ エタナウ」

「エザク」

 距離の離れた二人はすかさず精霊術を詠唱。トコイルの下級精霊術と真琴の初級精霊術がぶつかり合う。威力は互角。二つの精霊術は風と火が絡み合って消滅した。


「そんなもんかよ」

「黙れ!」

 トコイルは叫び声を上げて精霊を集めて陣を編む。だがそれよりも真琴の陣形成の方が早い。

(なんでこんなに!)


「ウジム エタナウ」

 真琴が放った水の射撃をトコイルは槍で振り払う。水弾を受けてトコイルの腕がしびれた。

「精霊の動きが悪い!」

 トコイルはイラやリリアーナのような精霊を見る目は持っていない。だが長年の修練で精霊の存在は掴むことができる。


 真琴がいると精霊の動きが不自然に狂うのだ。無論、それは真琴の仕業。真琴のもつ「精霊の動きを操作する」魔眼の力だ。それこそ相手がイラやエクスのような玉石級の術士なら、精霊の支配を破れないだろうが、並より数段優れた程度、トコイル程度の技量なら精霊の支配の一部を奪うことは難しくない。


 精霊術戦では不利。それを悟ったトコイルは距離を詰めた近距離戦に切り替える。

 エクスがイラと戦った時と同じ。相手に精霊術を使わせない作戦だ。


「はぁっ!」

 大きく一歩踏み出し、半身になって槍を突き出す。トコイルの使う槍は長さ二メートルほどで、多少の距離ならもろともしない。真琴は届いた穂先を剣で斬り払う。


「これくらい……」

「なめるなぁ!」

 トコイルは体内に存在する無色の精霊を活性化させ、急加速。もう一歩踏み出して真琴に接近する。不意を突かれた真琴はとっさに防御に回る。

 狙いは首。殺気があった。真琴の額に冷や汗が流れる。元々真琴は軍服との戦いで死んでもおかしくないほどの負傷を受けていたのだ。チート仕様の頑丈な肉体と騎士の一人から受けた白の精霊術で治療を受けていても、万全の状態とは言い難い。


「しぁ!」

 トコイルは柄で真琴の腹部を抉る。防御が間に合わず、真琴の体に強い衝撃が走る。

「つっ……」

 続けざまにトコイルは槍で連撃を見舞う。上、下、右、左、正面。エクスほどではないにしても、トコイルは槍術に精通している。変幻自在の攻撃に、真琴は攻め返すこともできずに槍を捌き続ける。

 受けきれなかった攻撃の一部が真琴に触れ、赤い線を作る。


「いい加減に」

「するのはてめぇだ!イウ!」

 真琴とトコイルの距離は二メートルほど。真琴は魔眼で赤の精霊を集めて詠唱。トコイルに面で炎が迫る。


「この……」

 トコイルはすぐさま槍を振り回して炎を消し飛ばす。寸の間、トコイルは真琴の姿を見失った。

 炎をかき消した先に、真琴がいない。


「馬鹿な」

 トコイルは唖然としつつも周囲を見渡が、見えるのは端にいるエクスとシイナだけでやはり、真琴の姿はない。


「はっ」

 トコイルの背中に怖気が走る。トコイルは上を見上げた。見つけた。真琴は空高くにいて剣を振り下ろそうとしている。

「おおおおおおおおおおおぉっ!」

「この程度!」

 上空では地上ほど素早い動きはできまい。上に飛んだのは悪手だ。トコイルはそう判断して槍を上空に向ける。


 天に逆らう雷撃のような突き。トコイルは身を限界まで反らして、槍を突き出す。一直線に槍が飛び出し、真琴を穿つ、

 その寸前に、真琴は体を回転させて槍をかわした。

「なっ!」

「はっ」


 トコイルは知らない。真琴は詠唱せずとも精霊を操り、初級以下の精霊術を使えるということを。真琴は魔眼で緑の精霊を操り、短時間なら空中でも自在に動ける。

(スカイウォーカーと名付よう)

 そんなアホなことを考えつつ、真琴は着地。トコイルに接近。


「まだ!」

 トコイルの執念だ。真上に突き出した槍を、不安定な体勢のまま振り下ろし、真琴に向ける。無色の精霊で筋力を補助して、不安定な体勢をこらえる。

 トコイルの槍は、真琴の心臓に向かって再度放たれた。

「これで」

 真琴は前進する姿勢のままだ。やれる。トコイルは口に小さく笑みを作った。しかし。


「はん!」

 真琴もまた、口に笑みを作っていた。向かってきた槍を真琴はしゃがみ込んで回避。低い姿勢のまま、細かく左右に移動を始めた。

「馬鹿な!」

 会心の一撃を避けられたこと。動きの読みにくい左右移動をされてトコイルの動きに迷いが生じる。それ以前に今のトコイルは身を後ろに反らしたまま、前に槍を突き出すという不安定な体勢をしている。まともに動けない。


 真琴が間近に迫る。真琴の剣がトコイルの首を断とうと振りかぶられた。トコイルは動けない。もはやこれまで。トコイルが死を覚悟した時。

 真琴がトコイルの首を落とす寸前で、剣の動きは止まった。


「何を……」

「何を、じゃねぇよ。これで俺の勝ちでいいな」

 剣を鞘に納めながらの言葉に、トコイルは答えられずにペタリと座り込んだ。

「マコト・カミヤの勝ちだ」

 無慈悲なエクスの声がトコイルの耳を打った。


   *


 呆然としてしまったトコイルを後目に、エクスは再び精霊術で、いじった大地を元に戻した。戦いを見ることができずに下で音だけを聞いていた騎士たちは呆けたトコイルを見て勝敗を察する。

 そんなことお構いなしと家に戻ろうとした真琴に、エクスが声をかけた。


「マコト・カミヤ」

「なんだよおっさん」

 おっさんと言われ、ピクリとエクスは眉を動かしたが、それについては何も言わず、軽くであるが頭を下げた。


「なんで?」

 堅物のエクスが頭を下げた。その事実に真琴は目を瞬かせる。


「感謝を言いたいのだ」

「はい?俺、あんたに感謝されることした覚えはないけど」

 むしろ腹立たせることしかしていない気がする。


「イラのことだ」

「ますますわかんねぇ」

「私はイラに嘘をついていた。森の調査も確かに任務の一つではあるが、同時に私は王の命令を受けてイラのことを見に来ていた」

「え……いやそれ俺に言っていいの?」

「別に構わんだろう。君がイラに言わなければいいだけのことだ。それにこれは礼、だからな」


 ふぅとエクスは息を吐いた。

「イラは変わっていない。八年前の時と同じ、復讐に狂い、憎悪の炎を燃やし続けている」

「……ふぅん。やっぱ先生にも色々あるんだな。てかあんたは先生の昔のこと知ってんだな」

「あぁ。イラも私も“玉石”だ。戦争の時は同じ戦場で帝国を相手に戦うことも多かった」

 自軍営でも戦うことはあったがな。と呆れた調子で言う。


「イラは変わっていない。これが私の結論だ」

「そうかよ。それで?だからなんだってんだよ」

 エクスの言いたいことが分からず、真琴の言葉に険が混じる。するとエクスはその険しい顔に笑みを浮かべた。


「だがどうやら変わり始めているようだ。そして変わり始めた理由はマコト。君にあると私は見た」

 でなければ、あの時私はイラに殺されていただろう。エクスの言葉を受けて、真琴はたじろぐ。面映ゆい。この感情に名前をつけるとするなら、そうなるだろうか。

 倍は齢の離れていそうなエクスに対して、こうも真っ直ぐ言葉をぶつけられるのは、どうにも居心地が悪い。


「べ、別に先生が変わったのは俺のおかげとかじゃなくて、その、先生自身の力だろ」

「いや、私としては」

「もういい!もういいから俺は先に帰る!」

 赤面する自分が恥ずかしくて、真琴は駆け足で家の中に入って行った。

 本作とは全く関係ないのですが、新連載始めました。『巫女騎士は骸の丘で哭く』( https://ncode.syosetu.com/n1645fd/ )バッドエンド予定の物語です。よしよろしければこちらも是非に。

 両作品ともに感想、ブクマ、ポイントなどいただけると嬉しいです。

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