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第9話 精霊術について教えます②

引き続き説明回です。


「て言うかさおっさん。一ついいか?」

「なんでしょう」

 言われ過ぎてもう「おっさん」という言葉に反応を示さなくなってきているイラである。


「無色の精霊って何だよ。後、前から気になってたんだけど、精霊術って初級とか下級とは言うけど、それって結局なんなの?」

 冒険者には精霊術を使う者はほとんどいないし、いたとしても細かな分類などを教えてくれる者はいない。実戦で使う上で必要ないからだ。だから下級だの中級言われてもさっぱりだ。


 騎士学校のカリキュラムの中にこの説明はあったはずだが、当然マコトは覚えていない。


「あー。そうですね。精霊術士の中では当たり前の話なので説明が抜けていました。では等級の方から説明しても?」

 マコトは頷きを返す。

「はい。精霊術は六色の精霊を単色、もしくは複数色用いることで成り立っていますが、下から順に初級、下級。中級、上級、そして上級以上とされる固有術式や複数人で行う儀式術式。さらに別領域として概念術式というものもがあります」

 手始めに、とイラは「エザク」と詠唱する。そして手の平からそよ風を生み出した。


「まずこれが初級の精霊術です。初級という言葉の通り、精霊術士にならんとする者が初めに目指す領域ですね。精霊に指示を出す詠唱と精霊を動かす陣、それに術の明確なイメージ。後は空間内の精霊の有無ですね。君のように精霊を直接視認できる物はごく少数ですし。大体一年か二年をかけて勉強し、その結果として初級の精霊術は使えるようになります」

「そんなにかかるのか」

「えぇ。詠唱や陣はともかく、見えない精霊を感じることは難しいですからね。その点君は精霊術を学ぶ上で非常に有利です。ま、それだけの時間をかけても使えるのはあくまで初級。精霊語を使って精霊位階と物質位階を重ねただけのことです。これが初級の精霊術」


 次は下級だ。イラは手を横にかざし、「ウタナウ オウ イウ アウ イサタウ」と唱える。するとイラの手からボゥっと火が出てきた。

「下級の精霊術は初級ではできなかった精霊への指示をし始める段階です。今のは火を放つように精霊に働きかけ、それがなされました。呪文の文法を習うところですね」

「うーん。でもよ。今みたいにちんたら詠唱してたら攻撃されちまうよな」

 先ほどイラが詠唱するのにかかった時間は三秒弱。それだけあれば近寄って斬りつけることくらいは簡単にできる。


「はい。ですから戦闘職の精霊術士はこの詠唱を省略します。先ほどの『ウタナウ オウ イウ アウ イサタウ』という呪文ならば『イウ エタナウ』と」

 同じようにイラの手から火が放たれる。


「あるいは水ではなく水槍を放つ精霊術もありますが、省略しなければ『ウタナウ オウ イライ オン ウジム アウ イサタウ』ですが、省略すれば『ウオシウス エタナウ』となります。こうやって比べると省略の必要性が分かるかと思います」

 七節もある呪文を唱えることは大変だが、二節ならば唱えられないことはない。熟練した精霊術士ならば、反射的にこのような下級の精霊術を行使することもできる。


「ただ注意してほしいのはこの“省略”という技術はあくまで正式な詠唱ができるという前提の上で成り立っています。『ウタナウ オウ イウ アウ イサタウ』という詠唱を成立させられなければ『イウ エタナウ』という詠唱はできません。これは精霊術における原則です。またそうでなくとも呪文を省略してしまうとそれだけ精霊の制御が甘くなります。細かく指示していた部分を削っているので、その分精霊が勝手に動きやすいです。そういった面も気をつけて下さいね」

「ふぅん。なんでそんなんなってんの?」

「正式な詠唱は丁寧な言葉遣いで長々と言う。だから精霊もその分きちんと動いてくれる。しかし省略すると丁寧だった言葉遣いが荒くなった扱いになります。つまり精霊に適当に命令していることになるので、精霊がちゃんと働いてくれないんですよね。とは言っても自分たちの方でしっかりと監視してやれば問題なく精霊は動いてくれます。いわば上から押さえつけるように命令しているわけですから、きちんとした言葉遣いも知らない者の命令なんて聞けるかよ、ということでしょうね。それに下級では分からないでしょうが、上級などになると必要な要素を含んだ説を丸々省略することもあるので、そう言った側面もあるんでしょうね」



「下級の説明はこんなところですね。初級が単語だけだったのに対し、下級になると文章になる。ここで必要とされる技術は“省略”、つまり詠唱を短くする技術です。この技術は中級以上の精霊術でも必須のものとなるので、習得しておきたい、いえ、しておくべき技術ですね。初級と下級。この程度の精霊術なら誰にでもできます。しかし中級以上となるとまた話は変わってきます」

「ん?」

「君は適性という言葉を聞いたことがありますか?」

「適正……あぁ青の適性とか、赤と黄がどうのとか、そんなのだよな?確か俺は全適性って言われたけど」

「その適性ですね。中級以上となると、その適性がないと精霊術が使えません。例え赤に適性があり才能にあふれていたとしても、適性がないなら青の精霊術は使えません。これもまた全適性の君には関係のないことですがね」

「ふぅん。俺には全ての色に適性があるからだよな?」

「はい」

「ならおっさんはどうなの?やっぱり全適性?」


 マコトの問いにイラはゆっくりと首を振る。

「いえ、()()()適性は黄のみです」

「へぇ」

 それを聞くとマコトはイラを勝ち誇ったような、馬鹿にしたような顔をする。だがその顔を見てイラはにこりと笑った。

「ご心配なく。自分は裏技を使って全適性になっていますので」

「なんだよ。つまんねぇな」

「そう簡単に弱みを見せるわけないじゃないですか」


 ……本来精霊術の適性というものは後天的にどうにかできるものではない。人が空を飛べないように、適性のない者がその色の中級以上の精霊術を使うことはできない。精霊術を少しでもかじっている者が聞けば、疑念や驚愕を感じるものであるが、学校の授業を真面目に聞いていなかったマコトがそれを深く言及することはなかった。


「話は中級についてですね。初級が単語。下級が文であるとしたら中級の特色は“装飾”です」

「は? どゆこと?」

「精霊術はより難しい単語を使って長い文を組むことで威力を増していきます。そうして完成した呪文を今度は省略して戦闘に使えるようにしていくわけですが、下級で作った呪文は飾り気のない、シンプルなものです。だからより具体的に精霊にイメージを伝え、単語を継ぎ足すことで威力を嵩増しする。王国では、ここまでできて初めて“精霊術士”を名乗れます。初級や下級までしかできないのは()()精霊術士か精霊術士見習いです。“装飾”の技術を理解して初めて一人前ですから」


 実演してみましょうと、イラは赤の精霊を集める。

「危ないので少し離れていてください。赤の下級精霊術の呪文『ウタナウ オウ イウ アウ イサタウ』を装飾します。この呪文の火を表す『イウ』を、炎を表す『オーノウ』に変え、火を強化する『ウラカス』という単語を入れましょう。まずは『ウタナウ オウ イウ アウ イサタウ』」

 イラは目の前に拳大の火を作る。そして先ほどの倍の赤の精霊を集めた。

「これが下級。次に中級の精霊術です。『ウタナウ オウ オーノウ ウラカス アウ イサタウ』」

 ゴゥンと、すさまじい音がして、大きな柱ほどの青白い炎が生まれた。その色から下級のそれと比べて、はるかに高温で強力であることは一目瞭然だった。


「すっげ」

 思わず、と言った様子でマコトが呟く。

「下級と比べて中級は幅が広いですからね。この呪文は中級の中でも最下位。中級でも上位の呪文であればこの家くらいなら消し炭にできます」

「な、なら上級ってどんだけだよ」

 中級でそれだ。ならば上級ともなれば戦場一帯を焼き払えるのではないか?そう考えての言葉だったが、イラの答えはある意味その予想を裏切るものだった。


「そうですね。火力的を生み出すための手間的には、中級も上級も大して変わりません。ただ呪文の文が複数になって複雑化し、より精密に、繊細な術式になります。一つの精霊術の詠唱も文が複数にまたがりますし。中級が破壊をまき散らすものだとしたら、上級は計画的、ピンポイントに狙った対象を打つことになります」

 上手く運用できれば中級よりも火力は出るが、何も考えずに使うだけなら中級の方が勝手はいい。それが上級の精霊術だ。

「なぁんだ。つまんねぇの」

「火力が欲しいんですか?」

「そりゃぁな。魔獣の中には山みたいにでけぇやつとかいるし、そういうのもイッパツで仕留められたらかっけぇじゃん?」


「ふむ。確かにそうですね。単騎戦力の火力が欲しいなら、上級よりも“連携術式”を使った方がいいですね」

「なんだよそりゃ」

「複数の精霊術を順繰りに使っていくことで、威力を高める技術のことです。例えば先ほどの炎を放つ精霊術。単体で使えば火柱が立つ程度です。ですがその精霊術の前後に発火性の油をまく精霊術と起こした炎を風で扇ぐ精霊術を使う。そうすることでさらに大規模な攻撃力を生み出すことができる。ちなみにこれらをバラバラに、三つの精霊術として用いるのあれば“連携術式”。まとめて一つの精霊術として運用するなら上級の精霊術となります」


 連携術式で行う場合のメリットは途中で妨害されても精霊術の一部はすでに行使された状態にあることだ。イラの言った例で例えると油をまき、炎をつけ、その炎を風で扇ぐ行程の上級精霊術があったとする。その場合上級をしくじれば精霊術は完全に不発となるが、連携術式の場合は油をまく、あるいは炎をつけるところまでは成立することができるのだ。また個々で見れば中級あるいは下級の精霊術の組み合わせでしかないため、難易度も高くない。

 逆に上級精霊術の場合はひとまとまりの精霊術であるためまとめて省略をすることができる。熟練していれば連携術式よりも早く精霊術を行使できる。また途中でやりたいことがばれる危険も少ない。

 そして何より上級精霊術の場合は精密な行程を精霊位階で行えるため、連携術式ではできない物理法則に逆らったこともできる。物質位階にない限りは炎に油を放り込んで、放り込んだ油を燃焼せず火の中に置いておく、というようなこともできるのだ。

 それこそが上級精霊術の醍醐味であり、最大のメリットと言えよう。


「個人で複数の精霊術を行使するのを連携術式、複数人で分担して行使するものを儀式術式とも言います。ですがこれは覚えておかなくともいいでしょう。君が一人で戦う限り、使うことのない技術です。ではここまでで上級精霊術まで話してきましたが、次に上級精霊術の上。固有術式について入って行きます。これは次に説明する概念術式と君の知りたい無色の精霊とも関わってきますね。ついでに“精霊術士”と“戦士”、それに“騎士”の違いについても話していきましょうか」

いや、説明回長すぎ。どっさり単語が出てますが、物語に必要ならその時に補足するので、覚える必要は皆無です。

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