コンテスト4(最終話)
結局すみれは、一人で舞台に上がると小さくメロディをハミングしはじめ、小さな声で歌い始めた。
”街の中で最も価値ある彼女
彼が私のことで他の人へいった言葉、それは間違い
そして冠を得るのにふさわしいのは彼女
「ヴェニ コロナベリス」”
1番を歌った後、2人の女の子がすみれの後ろからハミングで参加し始めた。
すみれは2番の歌ではなく、1番目の歌をもう一度、もっと大きな声で歌い始めた。
2番目の歌に入るときには、この歌のリフレイン「ヴェ二・コロナベリス」の部分だけを3人の大人の女性たちが参加しはじめた。そうして歌はすみれしか歌ってはいなかったけれども、最後には女性陣は次々に舞台に上がってすみれの歌に加わった。
”ツタは黒い実をつける
神の恵みは全て私達に与えられたもの
だから私たちは全きもの
「ヴェニ コロナベリス」”
すみれの声が教会に響き、彼女は一緒に最後の歌詞まで歌いきった。
歌のあとに、神父様がVeni Coronaberisについて聖書の内容を簡単に紹介して、冠を戴くという意味を説明してすばらしい歌ですねと声をかけた。
舞台以外からはまばらな拍手しか上がらなかった。結局それぞれに力を合わせた女性の歌も、最初から足並みの揃った斉唱には叶わないと判断されてしまったようだった。
男性は最後に「ヒイラギとツタは」を全員で歌いはじめた。自分も今回は舞台に上がって歌うことになった。
今年もこの歌を歌われてしまったら、男性陣の勝ちは決まってしまう気がした。
女性陣の歌も出尽くし、男性の歌もこれで終わりだった。
このままでは、すみれはこの夢の中で帰ってこない気がした。僕の足は自然と舞台へと向かった。
先ほど大勢で歌った場所なのに、今この場所はひとりぼっちで、そしてものすごく広い場所に感じた。目の前には、一斉に僕が何をやるのかみている人がそこかしこにいた。
”ヒイラギとツタは競っていた森の中で
いずれも良く美しく、その良さは違う物だった
樫の木の上からヤドリギをもってこよう
彼と彼女がキスできるように”
”ヒイラギとツタは競っていた森の中で
ヒイラギは力強くとげをもっていた
樫の木の上からヤドリギをもってこよう
彼と彼女がキスできるように”
”ヒイラギとツタは競っていた森の中で
ツタはやわらかくまきついて伸びた
樫の木の上からヤドリギをもってこよう
彼と彼女がキスできるように”
僕は最後まで一人で独唱した。メロディは昔から知っているみたいだった。
舞台の下にいるすみれに会いにいった。
彼女はこちらに歩いてくると、僕をみていった。
「いい歌だった。私結構調べたけれど、私の歌った歌よりもいい歌があるなんて知らなかった」
「ヒイラギとツタが両方仲良くできる歌を探したんだ。どうしてヤドリギなのかわからなかったけれどさ」
「調べなさいよ!」彼女は僕の手を引いて柱のそばまでやってきた。
「ヤドリギの下にいる異性には、キスをしていいの」
僕は軽く目を閉じた彼女にキスをして、あたりから拍手がわき起こった。
夢の世界が、だんだんと消えていくのを感じた。
エアコンの風が顔に吹き付けてきたような感じで、僕は目が覚めた。
学校に行くとすみれがやってきて、なんだか不思議そうな顔で「私、結局夢を見なかったの。ツタは主になる木を歌うつもりで寝たんだけど。うまくいかなかったかも」
「そりゃ、夢だものな」
「ラエマ冬の書のレポート終わったの?」
「終わったよ、提出済み」
今年の冬が来たら、すみれと一緒に歌えるかもしれない。キャロリングの中に、ヒイラギとツタも、ヴェ二・コロナベリスも見つける事ができた。ヴェ二・コロナベリスはYoutubeでも見つかった。ただ、あのとき歌ったヤドリギの歌は、どこを検索しても見つからなかった。
アシュリーが大学を出るところでみつけて声をかけた。
「私、もう少ししたらスコットランドへ帰るから。おばさんもいるし」
「魔女になるの?」
「そうよ」
夢の事覚えてる?と聞くと、アシュリーは笑った。
「あなたは答えを知っているわ」
「じゃぁ、ありがとう。助かった」
最後に、アシュリーは1つだけといって
「あの本が14世紀頃のものなのは間違いないわ。私の見立ては間違いだった。でも当時誰も読めるはずがないパリンプセストのあの本を、ラエマは読めたのかしら。
これが私からの質問よ。すみれと一緒でいいから、答えがわかったら教えて」
アシュリーがいってしまったあと空は底抜けに青と白で、風は少し冷たかった。
向こうですみれが手を振っていた。
これにて完結でした。(設定がわからず、今設定しました)
最後に質問が飛んでますが、興味のある方は調べてみてください。
気がついた方は調べればわかると思います。
また、今後急ぎ書いた部分を少し追記していくかもしれません。
人気が無いのは重々承知していますが、評価や感想をいただけると幸いです。