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理由


『お前にいい場所教えてやるよ』


 そう言えば、あの職場を勧めてきたのは賢太だっけ。良い場所だから、とか言って。確かに悪くはないが、あれくらいの職場なら他にもいくらでもあるではないか。何がいい場所なんだか。あいつの“良い”の基準は一体何なんだろう。

「え?」

 考え事をしながら自分の家の郵便ポストへ手を伸ばした私は、予想にもしていなかった光景に一瞬どんな反応をしていいかわからなくなった。だが、それは一瞬のことでしか無く、開け放たれたポストの内部から放たれる異臭は、あという間に私の顔をゆがませる。

「くっさぁ、………何これ」

 何これも何も、それは誰がどう見ても変哲のないただの生ゴミだ。異臭を放つそれは私の鼻を気遣おうともしない。

 誰がこんな。

 漠然とした疑問しか頭には浮かばなかった。


 放っておくわけにもいかず、自分のポストに入っていたという事は、これは自分のものだと判断されるのだろうと思った私は、中に入っていたものすべてを自宅へと持ち帰った。生ゴミの下敷きにされた広告類は全てぐしゃぐしゃで、数少ない私宛の郵便物もまぬがれることはできなかったらしい。無事だったとしても、特に目を通そうと思うものもないのだが。

「あれ?」

 良く見れば、一枚だけ生ゴミの湿気にやられていない新品の紙があった。私はそれを手に取ると、近くに感じた好奇心の視線に答えて内容を口にする。

「・・・・・・ぶす」

 沈黙が訪れる。私は呆れて目を細めた。そして近くからも呆れたような溜息。

「なんだよそれ。しょうもない悪戯」

 好奇心の視線はやはり賢太だった。あいつときたら、三面鏡の中でゆったりとくつろいでいる。私はさらに呆れた。呆れすぎて、手に持っていた紙は、力の抜けた私の手からはらりと床へ滑り落ちた。

「本当。しょうもない悪戯」

 しょうもなさすぎて力も入らない。

「お、珍しいじゃん。明希が俺に賛同するんて」

 こいつもこいつだ。緊張感というものを知らない。

「こんな馬鹿な事、あんた以外にする奴いたんだ」

「おまえなぁ」

 情けないともいえる賢太の声に、私は小さく笑って見せた。


「なあ、悪戯はこれが初めてだったのか?」

「いや、これは初めて」

「は?これは?」

「あ、いや…」

「言えよ」

「実はさ、小さい悪戯がここんとこ続いてたんだよね」

「ここんとこって?」

「んー…。三ヵ月と、そこそこ?」

「は!?そんなにか!?」

「そんな長くないでしょ。だいたい悪戯が小さすぎて、あまり気にとめてなかったのよ」

「図太い神経。悪戯してる方に同情」

「うるさい」

 私は先ほどの生ゴミとぐしょぐしょの広告類郵便類を片づけながら、適当に賢太の話に付き合っていた。適当といっても、言っている事に嘘はないし、別に邪険に扱っているわけでもない。どちらかというと、私は口を動かしながらの方が手も動く方なので、今の状況にありがたいといっちゃありがたいのだが。まぁ、受け答えに面倒くさいとは思わない、と言ったら嘘になる。というか、何もかもが面倒くさかった。こんな鼻に悪い仕事、さっさと終わらせるか後回しにするかをして、早く体を休ませたい。それが今の本心だ。

「よし!」

 一日の疲労がたまりに溜まってノックダウンしそうなわたしの耳に、あいつの妙に元気で跳ね上がるような声が飛び込んできた。

賢太は何かを思い付いたかのように、鏡の中の台を叩く音が私へ届く。

 一体どんな面倒事を提案する気なのだろう。つかれて瞼の重い目を三面鏡へと向けると、子供のように瞳を輝かすあいつの姿。

 きっとろくな話じゃない。

 そんな私の予想は見事に当たり、あいつは恐ろしい事を楽しげに口にしたのだ。


「なあ!犯人捕まえようぜ!」


 もう何をどう言ってやればいいかわからない。

 眠い。とりあえず今の私は眠いのだ。 

 賢太の言葉を軽くスルーし、私は欠伸をして立ち上がった。

 今日は何て一日だったのだろう。こんなに激しい感情の高ぶりは久々だった。感情というものがこんなに疲れるものだったとは知らなかった。もしくは忘れていた。おかしな感覚だ。いつもぼーっとしているわけではないのに。今先ほど、とても嫌な思いをしたはずなのに、久々に喚き散らしたせいか、頭がすーっとしてすっきりしたような感じがすた。いつもより視界がクリアになり、物音もよく聞こえるような。

 なんでだろう。

 人間というのは矛盾だらけで難しいなと思った。


「じゃあ任せるから、」

「どこいくんだ?」

「お、ふ、ろ」

「鏡あるか?」

「覗くなバカ!」


私はちょうどよく足もとに転がっていた新聞紙を拾い上げ、思いっきりあの馬鹿ずらへと投げてやった。

 その後風呂から上がった私は髪を乾かすのも忘れ、ぐっすりと夢の世界へと落ちたのだった。






あれから一週間。賢太はまだ鏡にいる。


「あんた死んだ事忘れてない?」

「忘れた」


明希は三面鏡の右の鏡へ向きを変えた。そこにはちゃんと自分がいる。


「なあ、その化粧変えたら?」


横から(?)声が掛かる。


「地味っていうかなんていうかさ…。もう少し明るめのにしたら?」

「うるさい。あんたこそ死人らしくしてれば」

「あ。明希は首の折れた俺に会いたかったの?」

「…」

そういえばこいつ、階段から落ちて死んだんだっけ。

何とも呆気ない死に方だ。


「私もつまんない死に方すんのかな」


 少なくとも立派な死に方はしない筈だ。ん?立派な死に方ってなんだ?

 ちらりと賢太と目が合った。


「ばーか」


賢太が三面鏡から消えた。消えたというか、鏡の中を歩いてどっか行った。


怒った?


さすがに死人に死に方の話は無神経だったろうか。 明希は時計を確認し、仕事へ向かった。




何で自分はここにいるのだろう。


あの日の朝、気付いたら鏡の中にいた。

以前明希に

「この鏡絶対何か憑いてる」

と言ったのは自分だったか。まさか自分が憑くはめになるとは。


賢太は鏡の中を移動しながら考えた。


どうやら自分は明希から一定の距離しか離れられないらしい。

明希について、何か心残りでもあったのだろうか。思い出せない。


明希とはなんだかんだでよく一緒に暇潰しをしたっけ。ぐだぐだした空気が居心地よくて、自分から誘う事もあった。

恋愛感情は全くなく、ただ目的が無い者同士、忙しそうな社会人をぼーっと眺めていた。


そういえば、明希にあの職場を勧めてたのは自分だったけ。

確かあの時、すごく興奮していた気がする。


あれ、

「何で俺、あそこ勧めたんだっけ」



明希はいつも通り仕事を終わらせる。


ロッカールームの着替えの時、いつも賢太がいた鏡を見る。


今日はいないのか。


あれから一週間。

自分の生活に、賢太は普通に馴染んでいる。鏡をみる目的が変わった気がする。


(でも、)


これは異常な事なのだ。賢太はいつか行くべき場所に帰らなければならない。


(あの馬鹿は、)


なぜこんな事を起こせられるのか。


「あれ?」

ローファーから普段の運動靴に履き替えようとした時だ。持ち上げた運動靴からカラカラと音がした。


試しに逆さにしてみる。


「…。」


がびょうが二つ。

いつの時代だ。


「あれ、またいじめ?」

「…」


こいつ。


「あんたがここに居れば犯人判ったかもよ!?」


「あ゛っ!畜生!!」


まったく。




「なあ、」

 賢太が尋ねる。

「ん?」

「今日は何があった?」

嫌がらせの事だろう。


「朝のイタ電。ピンポンダッシュ。がびょう。生ゴミ。ポスト荒らし。イタ電。」

「そっか」


明希は特に気にしてないのだろうか。


「なあ、」


 また賢太が尋ねる。

「ん?」

「…あれ?…なんだっけ」

「どうしたの」

「いや、何か大切な事訊こうと思った気が…。…なんだっけ?」

「知らな」


ガシャーン


え?


突如我が家に飛び込んで来た騒音。

窓ガラスを突き破り、拳位の石が投げ込まれてた。石は紙に包まれていた。その紙には―――


『殺シテヤル』


「…。」

「なになに?」


賢太は興味深々だ。 明希は素直に見せた。


「はあ!?」


賢太はすっとんきょんな声をあげた。

すみません!この話以降から修正していない状態になります。改行がおおく、描写が少ないのは携帯で投稿していた名残です。そのうち(いつ?)きっと直します!

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