実行
「風邪引いたみたいで。…はい、すいません。ありがとうございます」
明希は一息つく。
今日はずる休みだ。
「随分簡単だったじゃん。流石俺のお勧め」
「あたしの日々の賜物!」
さて。殺すとまで言われたらこちらも動かない訳にはいかない。
「行く?」
「よっし!犯人探し!」
三面鏡の真ん中で賢太が拳を揚げる。
なんでこんなに楽しそうなんだろ。 明希は賢太がいる鏡の左隣りへふと視線を移した。
すると鏡の中の自分と目が合う。
(あれ?)
目を見張る明希の視界に入ったのは、賢太の隣りの鏡に映る、楽しそうな自分。
(なんだ、―――あたしもか。)
白昼堂々と街中を歩く。まあ当たり前か。自分は何も悪い事をしていないのだし。
平日の町はそんなに賑わってはいないが、静かと言える程でも無かった。
果たして、犯人は自分を見つけ出して居るだろうか。
気付けば、おしゃれなショーウィンドーの並ぶ通りに出ていた。自分には場違いな気がして明希は踵を返そうと足を引く。
「いーじゃん行こうよ」
間近から声がして、明希の心臓はドキリと飛び跳ねた。だがその耳に馴染んだ声が、すぐに賢太の物だと気付くと、なぜだか思った以上の安心感があった。
「こっちこっち」
明希が振り返ると、そこにもショーウィンドー。そしてそれに映る自分………ではない。
細身で自分より背が高くばさはさな髪。生前良く着ていたお気に入りの服に、悪戯っ子のような笑顔。
そこには等身大の賢太がいた。
「映る物なら何でも良いの?」
明希の呆れた言葉に、賢太はにっと笑った。
「今気付いた」
手鏡サイズでも三面鏡サイズでもない、等身大の賢太。彼は今もこうして生きてる。明希の頭にそんな錯覚が過ぎった。だが、彼女は自分の胸に不自然に浮き上がる“現実”をしっかり受け止めた。
明希は苦笑する。
本当に生きていたら、このばかの手を握って居たかもしれない。




