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ローアル・side story/僕の本当の幸福は①



 あの謁見の時以来、顔を会わずに済んでいたのに。彼女を前にして、僕はずっと目を伏せていた。



 エスピーナ・タエヴァス・トルメンタ。

 この帝国の唯一の皇女。

 彼女のことは、正直…好きになれない。


 初めて出会った瞬間に僕を飼いたいと言ったり、お金を粗末に扱ったり。僕だけでなくエステレラにまで『汚い』と言ったから。


 スラム街で初めて会ったあの時から…

 この方の気まぐれのせいで、危うくエステレラの命を奪われるところだった。


 「かわいそうに。」


 こんなに痩せてしまって、と言う皇女は僕の両頬に手を触れてきた。


 …その冷たさに驚いて離れようとするが、傍に控えていたフォンセ副団長に睨まれたので、何とか思いとどまる。


 皇女は僕を憐れむような眼差しを向けてきたが、その瞳には何も感じられなかった。


 エステレラのように心から誰かを想うような、誰かを心配するような。誰かを労わるような。

 そんな優しさが、皇女からは伝わってこない。


 それに、僕は別にかわいそうじゃない。

 なぜなら苦しくてもいつも側にエステレラがいてくれるからだ。


 「お父さまは、わたくしとあなたの接触を許してくれないのよ。」


 物悲しそうな目で、僕の頬を撫でながら皇女が言う。


 明らかにエステレラの温かい手と違う、異物感。

 背中に悪寒が走る。できればその手を早く退けてほしいと思い、僕は目を伏せた。


 「…僕のような者のそばに、大切な皇女さまをいっときでも近づけたくないのでしょう。」


 どんなに不快でも、対応を間違えないようにする必要がある。


 この方はトルメンタ帝国の皇女だ。怒らせれば、僕だけでなくエステレラにも何か被害が及ぶかもしれない。

 …それだけは何としてでも避けたい。


 彼女の怒りに触れないように接しつつ、僕への興味を無くしてもらいたい。それが僕の本音だった。


 『下賎な身』ではあるけれどわたくしの隣に立つのはあなたしかいないのよ、と言い、値踏みするように僕を見る皇女。


 彼女が見ているのは僕の珍しい髪色や瞳や外見だけなんだろう。ましてや僕と皇女では歳も5つほど離れている。

 愛玩動物や見せ物や奴隷のように、ただ僕をコレクションしたいだけなんだろう。


 本当に心がある人なら、エステレラのように深く澄んだ瞳をしているはずだ。

 でも彼女の瞳は…上手く言えないけれど濁っている。


 この皇女に対する嫌悪感を言い表すとすれば、『生理的に受け付けない』。まさにそれだった。


 皇女は、僕が騎士団で虐めに合っていることやそれ以外にも仕事場で虐げられていることを、まるで見てきたかのように事細かく言い当てた。


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