前世編/愚かな娘③
自分の父親を殺し、隠すために臣下を殺し、自分の欲のためにローアルとエステレラを引き裂こうとしている。
しかも何故か…エスピーナはエステレラを憎悪している。
あの娘に勝ち目などない。
これまで見てきたエステレラは決して知性がないわけではなかった。
むしろ13、14歳かそこらの年齢で教養はあり振る舞いは貴族そのものである。
品はあり、また覇気もある。
秘めた強さも生きる強かさも持ち合わせている。
だが…ローアルのことになると途端に頭が弱くなり、見境がなくなる。
なぜ、手に入らないと分かっている相手のためにそこまで尽くそうとするのか。
辛いだけなら諦めて、逃げれば良いものを。
そうするなら酷い死を迎えずに済むかもしれない。
なぜ…
それはディーが、エステレラにかけた精神作用のある魔術の効力であることは否定できない。
この魔術は想いが強ければ強いほど深く作用する。
エステレラはひたすらローアルの幸せを願っていた。
あの魔術はエステレラ自身が、ローアルが幸せだと納得するまでそれは続く。
それは深い底なしの沼のような願望。
そうまでして深く…人を愛するなんて。
ディーはこの歳まで恋を知らなかった。
国に身を尽くし、皇女のために暗躍していたため、忙しくて恋などしたことがなかった。
また家族からも愛された事がなかったので、愛など知らなかった。
だからローアルを愛するエステレラの気持ちが、これっぽっちも分からなかった。
ただ、エステレラが愚かな娘だと思えば思うほど腹立たしくて。
ローアルのことを想い、傷付き、涙を流すエステレラを放っておけなかった。
この不愉快な感情の意味をディーは知らなかったのだ。




