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あまりにも曰く付き

GWがゴールデンじゃない感じで終わっていきますね。

明日はアップできなさそうなので一日あきそうです。

ペドロは自室に戻って身支度を整えたところで、従者のフィデルが喉を潤すために水差しを運んでくる。

ペドロはゴブレットを煽り、一息ついてふうっとため息を溢す。



フィデルはペドロより3つ年上だが小柄で、体を鍛えることはあまり好まず線の細い男性だ。

ペドロの遠縁の親戚の子供だが、辺境の領土にも関わらず、さらにその辺境に住んでいる、言ってしまえばど田舎から幼い頃に従者としてやってきた。

実家があんまり貧しくて幼くして家を出された、という側面もある。

10歳の頃から従者をしているので、うっかり失敗してしまったおねしょの後始末とか、初めての失恋とか、領地経営の勉強とか、初めての視察とか、もちろん二人の婚約者の不幸とか間近で仕えて見てきている。


フィデルもペドロに幸せになってもらいたい人の一人なわけで、今回のマリアの件についてはかなり気になっていた。

基本恋愛に対して避けているわけではないペドロは普通に女性を引っ掛けてきたりするのだが、あんな風に見ず知らずの女性を屋敷で雇ってまで手元に置くというのは今までになかった。

自由に恋愛をして、飽きたり喧嘩して別れるのが難しくするのは信じられない。


フィデルは荷解きをしながら今回の視察の報告資料が出てきたところで、マリアのことを振ってみることにした。


「あのマリアという女性はどうするおつもりですか?」


「うーん。どうしたものかな。才能がありそうなので家令付きにして、私自身の補佐もしてもらいたいところではあるのだが一足飛びに、しかも女性ですると角が立つしな。メイドにするつもりはないんだが。」


フィデルから見ても、あのマリアという女性は正体不明だった。

普段はただの季節労働者だったが、慌てた時に出るふとした所作が、染み付いたマナー教育を伺わせる。そのレベルがかなりの教育水準であることは想像に難くない。


ペドロから、あの女が使えるかどうか試すという話を聞いた時も、そもそも字が読めるところからして普通じゃなかった。

そしてあの髪色。この辺りはほとんどの人がダークブラウンの髪・瞳の色なのに明らかに一人浮いている。


主人は豪農か商家の娘か、という選択肢を残しているというがそちらよりはどこかの貴族か外国人であるほうがよっぽど信憑性が高い。

しかし、外国人であるようにも見えない。どこかの国の間諜だとしても目立ちすぎるしあそこにいる意味もないし。


「あの女性は一体どういう女性なんでしょうねぇ・・・」

思わず呟いてしまった。


ペドロは、それに対して

「わからん。一応、下女として雇うのでないのであれば身辺調査はせねばなるまい。急ぎ手配しておいてくれ。」

「はい、かしこまりました。」




そう言ったものの、調べるのは心底面倒だなと肩を落とした。

正体が分かったら分かったで面倒なことにしかならないし、書面上誰かの養子にしておこうか、そこまでする価値があるだろうか、するとして侍女あたりにするために領地内の子爵に養子としてもらえるだろか。

あぁ、そういえばこの西のデルガード家は生活も困窮しているな。あそこであれば、いずれマリア嬢が、万が一主人のペドロと結婚しなかったとしても、どこぞの誰かと婚姻することで色々なものを得られることを匂わせれば簡単に調整できるだろうな。念のため、同じような状況のコルドバ家にも打診できるよう準備しておけばいいだろう。


そちらの方は何とかなるとして、まずはどこから取り掛かろうか。貴族で一度絞ってこの5年の間に出奔・死亡・行方不明の20歳前後の女性を調べてみるか。


などつらつら考えながら黙々と目の前の荷解きを頭を使わず反射的にするのだった。

基本的にフィデルはマッチョではないが、優秀なのだった。




◇◇◇

マリアはというと、メイドの服を着てメイド長の部屋に行って挨拶をした。

メイドのしているような挨拶を思い出して簡単に膝をおり、

「マリアと申します。以後お世話になりますがご指導のほどよろしくお願いいたします。」

としおらしく言った。


メイド長のダイラは62歳の恰幅の良い女性で、明るく気の良い女性だった。

「メイド長のダイラです。マリアさんが来たことはペドロ坊っちゃまから聞いていますよ。こちらのハルセレーネ家のご主人様方は皆様とても優しい方達ですから安心してね。

まだどちらに配属するか坊っちゃまが決めていないとおっしゃっていたから、当面ハウスメイドの手伝いをしていてください。

料理や園芸が得意だったらそちらに回すこともできるけれど、どう?」


と聞かれると、マリアは料理は自分ではしたことがないので慌てて、どちらもできないと振れる

【改行ミス】ところは全部振って、断った。


あせあせした様子を見てあははっと大きな声でマルタは笑うと、アマリアを呼んだ。


「これから坊っちゃまからの指示があるまでは取り急ぎアマリアと共同部屋を使ってね。荷物はそちらに運ぶように。何かわからないことがあればまずは同僚たちに聞いてね。アマリア、一旦、マリアに部屋を紹介して頂戴。」


そう言うと部屋からちゃっちゃと追い出された。


アマリアはさっさと使用人部屋のある建物に向かって廊下を歩き出した。

「改めてよろしく。使用人部屋は、このご主人様たちが生活する主要な建物に隣接して建物があって、そこに住み込みの人は部屋をもらって生活しているの。大きなお屋敷だから、たくさんの人がお勤めしているけれど結婚して所帯用部屋にいる人もいるわ。」


確かに、大きなお屋敷だ。家族は今伯爵夫妻とペドロ様だけで、ご弟妹たちはすでに家を出ているから楽ではあるのというが、維持するだけでもなかなかのものだ。


「この中庭を突っ切っていけると楽なんだけれどねぇ・・・」

という言葉が納得できるくらい、広い中庭だった。


キッチンや先ほど使わせてもらったランドリーを通り過ぎてすぐの建物が使用人用の居住棟だった。


「ここよ。使用人用の食事は一階の食堂でね。二階から一般の居住空間よ。

 侍女たちは女主人であるカミラ伯爵夫人付きで3名いらっしゃるの。そちらは母屋の建物の個室が生活拠点よ。

 それ以外の私たちハウスメイド、それからキッチンメイドはこの東棟、フットマンたちは西棟よ。基本的にこの城塞勤めの人たちは身辺調査を受けているから変な人はいないし、伯爵一家も常識人たちだから理不尽なことは基本はないと思うわ。

 それでも、何か気になることがあったら相談してね。


 さ、そうこうしているうちに、ここが私の部屋よ。

 あ、もう私たちの部屋か。狭いけれど入って。」


アマリアは若いけれどしっかりものだな、と思ったマリアの思った通り、部屋もきっちりきれいに片付けられていた。こじんまりした部屋ではあるがここにもう一台ベッドを運んできて寝泊りすることになる。

小さなチェストと机があって、花が生けてある。

たまの休みに街に出かけたときに買ってくるの、と可愛らしい雑貨も壁に飾ってあってしっかり者だけどまだまだ若い女性なんだわ、とマリアは思う。


「素敵なお部屋ね。これからよろしくね。」


二人ニッコリ挨拶をする。


「それにしても、全然荷物ないのね。服の一枚もないってどういうこと?」

アマリアは心底びっくりしていた。


それはそうだろう。どんな事情がーーー例え家出だったとしても、流石に下着と服の着替え1着くらい持ってくるだろう。


それさえ持たないのだ。

それでいて、貧民街出身という様子もない。その怪しさは自分でもよくわかっている。


「まぁ・・・持たせてもらえなかった、というか。ちょっと色々あってね。」


と言うと、アマリアは気の毒そうにして、すぐに話題を変えた。そして、その後二度とこの話題に触れてくることはなかった。


そして、ハウスメイドの仕事をあれこれ教えてくれた。

アマリアについて、彼女の仕事を隣で手伝う、というのを暫く続けた。




そして、あっという間に3ヶ月経った。




その間、ペドロからの呼び出しはただの一度もなかった。

そして、ペドロはしょっちゅう視察や執務をしていて忙しくしているようで、見かけることはあるし、向こうから「元気そうだな」と声をかけられることはあるけれど、当たり障りないほんの少し会話をするとそれでおしまいなのだった。

それでも、先の見えない季節労働者から抜け出せたのは僥倖だった、と思ったし、大好きな人の姿がちょっとでも見られて、あまつさえ話しかけてもらえることもあるというだけでも舞い上がってしまうのが恋する乙女だった。



アマリアには、「身分違いだってわかってるけど、遠くからキャーキャーいうくらい、バチは当たらないでしょ!」と開きなおってよく恋話とも言えない話を聞いてもらっている。



少しずつ新しい環境にも、新しい仕事にも慣れてきた。

妖精たちは変わらずマリアの側にいてくれて、怪我をしたり、困ったとき、悲しい時、寄り添ってくれる。


季節は変わってもう初秋だ。

来週から1ヶ月の間、ペドロ様の弟ギヨーム様が家族を伴って滞在されることになっている。



ダイラから呼び出しがあり、ギヨーム一家滞在期間中、先方の侍女やナニーの補佐をする一員として働くようにと言われた。



ーーーギヨーム様には2人お子様がいらして、ご長男は6歳、お嬢様は1歳、よちよち歩きなんですって。


アマリアも同じ仕事につくのでマリアとしては安心していたし、そんなふうに聞いてギヨーム一家の子供達に会うのも楽しみだった。

マリアの一番下のマルタは10歳なので、あの子が少し小さかったときのことを思い出して小さな子供ってそれだけで癒しよね、と久しぶりに実家のことを思い出したのだった。



そうしてギヨーム一家がやってきた。


ギヨームは城塞都市の近くにある領地を男爵として治めていてその領地経営についてペドロや父オットーと執務室に篭って話込んでいる。


マリアは、ギヨームの夫人と子供たちの身辺の世話をしていた。子供たちに珍しい絵本を読んで聞かせたり、中庭でのお茶会を用意したりと仕事は増えるが自分も楽しめることも多かった。


なんと言っても、城塞から出て近場の森や川に遊びに行くのに付き添えるのだ。

この土地に来てから館以外の場所に気軽に行けなかったのでとても嬉しかった。



今日は、晩夏の名残かうだるような暑さで川遊びに興じることになった。

馬車で町外れの森にある小川で遊ぶことになった。護衛騎士たちがたくさん配属され、馬車を守りながらお出かけともなると、こんなに大事だったのね、と今更ながらマリアは自分が子供の時に母と行ったピクニックが迷惑なものだということを知るのだった。


川の近くに場所を陣取って、木漏れ日の下にタープをたて、簡易なテーブルをセッティングしてクロスをかけ、準備を進める。たくさんのメイドたちが場を調えていくと、優雅なピクニックの始まりだ。

コックが食事の用意を始めている。


このあたりの小川は基本的には水が浅く流れも緩やかだが、所々深いところもあるので足首程度だけしか入らないようにエドムンドには伝えられていた。


「マリアー!見てみて!お魚がいる!」


ギヨームの息子エドムンドが顔を真っ赤にさせながら川をのぞいて大声でマリアを呼ぶ。


ナニーも勿論自領から連れてきているのだが、手のかかるお嬢様ロシータにつきっきりになりがちで構ってくれるマリアがすっかりお気に入りになったのだった。

アマリアも勿論、相手をするのだが貴族の男の子の扱い方をよく理解しているマリアにすっかりエドムンドは懐いてしまった。


ロシータお嬢様もあーとかおーとかいいながらお兄様のあとを追って川を覗き込んでいる。


ーーーあぁ、ほのぼので可愛らしいこと。


目を細めて追いかけて見守る。

しかし、あっ・・・と思った瞬間、ロシータが川にばちゃんと落ちた。


皆大慌てしたが、すっかり動転しているナニーは腰を抜かしてしまっている。

ロシータは浮かんでこない。1歳の子供にしては深いところに落ちてしまったのか。

子供は水に落ちると、何が起きたかわからず大声を上げて泣いたりしない。

むしろ、泣いてしまった時に水を飲んでしまうと大変だ。時間との戦いだわ。


マリアは全力で駆け寄り川にザブザブと入っていった。


ーーーあぁ、妖精さん、どうかあの子を守ってね。


妖精たちはロシータの周りを囲んで空気の層を作ってくれた。

マリアはほっとして、ロシータを抱え上げた。

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