女神の行方
か、書き溜めていないので一話一話が苦しいですっ・・・
ブクマ・感想頂けると嬉しいです。
まだまだ先の話が書けていないのでアドバイスも嬉しいです。
マリアはその後、急いで着替えて作業場に戻ったのだがペドロと出会すことはなかった。心臓がバクバク言って止まらない。
「なんでペドロが来てるって教えてくれなかったのーーー」
と涙目で妖精たちに話しかけると、
ーーーマリア、ペドロとお話ししたいって言ってたから導いたの
ーーーマリア、せっかく会えたのに、お話ししなかった
と、不服そうだった。
この子たちが会いたいとポツリと呟いた言葉を拾って、彼と会わせてくれたのだった、と気がついたマリアは出会いの場面はともかく、確かにお話ししたかったわ、と今更ながら思うのだった。
そして、妖精たちに
「本当にありがとう!せっかくの機会を無駄にしてしまったわね。ごめんなさいね。次からは頑張るわ!」
と、ニッコリ笑ってお礼を言ったのだった。そしてその日の午後の仕事に戻って行った。
ペドロは、晩餐の際に森の女神伝説などがないか家長のフリンに聞いてみたが、妻とも顔を見合わせてわからないという答えが返ってきただけだった。季節労働者ならあるいはそのような話が好きで知っているかもしれませんな、特に女性はそのような話が大好物ですからと言われて、ペドロは明日休憩の時にちょっと話しかけてみようかな、と思った。
「ちょっといいかな。」
そんなわけで、午前の休憩の時にまたしてもペドロが休憩場所にきたときに、思わず熱い視線を込めてじっと見つめてしまったマリアと目が合ったので彼女の前の椅子に座っているというわけだ。
ペドロの周りには妖精がふよふよ飛んでいる。
ーーーわーい、マリア、ペドロとお話しー
ーーーお話し〜〜
ただでさえキラキラしいペドロが、マリアの目には妖精が周りを飛んでいるのでさらにキラキラとして見えるのだった。それでも、声かけに答えないわけには行かない。
「は、はい、どうぞお掛けくださいませ。」
緊張のあまり、思わず令嬢の頃の所作が出てしまった。
さっと立ち上がりながら優雅にカーテシーをしてたおやかに椅子にかけることを勧める。
隣に座っていたテレサは、みたことのない動作を不思議がった。ペドロは、あまりの洗練された様子に呆気に取られてしまった。が、すぐに取り繕って椅子にかける。
「やぁ、せっかくの貴重な休憩時間にすまない。もし知っていたら教えて欲しいんだが、この近くにある森の女神伝説、神話などなんでもいいから知らないかな?ああ、もしかしたら水の女神、いや、湖の女神かな・・・」
そう言って真剣な表情でこちらに話しかける。
テレサと目を合わせると、聞いたことないと肩を竦めるテレサ。
マリアはというと、湖の女神、というところまできて、ようやくこれは自分を探していることに気がついた。でも、うまいこと隠れて逃げられたと思っていたのにバッチリ全裸を見られていたのかと思うと顔から火が吹きそうだった。
もしかして、私だって気がついて話しかけてきたのかしら・・・
そう思ってドキドキしながらペドロを見たが、真面目に答えを待っている。
テレサは肩を竦めたので、自分の回答待ちだ。
ーーーえ、これって気がついてない?
そこで、マリアは午前の作業のせいで汗だらだら、働いているのだから当然だけど小汚い服に頭には麦わらがたくさんぴょんぴょん出ていて髪も頭巾をかぶったままだったことに気がついた。
「ぞ、ぞ、存じ上げませんっ・・・!!」
思わず力一杯言ってしまった。
「・・・そうか、時間を取ってすまなかったな。」
ああ、終わってしまった。
と、思っていたら
「そなた、名は何という。」
「ま、マリアです。」
「ふむ。マリアか。体に気をつけて励めよ。」
そう言って出て行ってしまった。
ーーーえぇ〜〜!!今のなんて答えるのが正解だったのぉ〜〜〜???!!!
マリアが心の中で悶絶していると、テレサは「声かけられてよかったね。」とニヨニヨしながら言ってくる。
うん、うん、嬉しいんだけどね。でも次に繋がらないじゃん!
はぁーと一頻りガッカリするマリアを周りの仲間たちが生暖かい目で見守っていることに彼女は最後まで気がつかなかった。
その日の晩食堂で食事を摂っているマリアに、ペドロの従者が訪ねてきて夕食後ペドロの部屋に来るようにと伝えた。
恭しく畏まりました、食後必ずお伺いいたしますと返した後に鳩が豆鉄砲を喰らった顔をしたまま、あまりにも吃驚したマリアはテレサにこっそり
「へ、へ、部屋に呼ばれたって、そ、そ、そういうことなの???」と聞いた。
テレサは困った顔をして答えた。
「いや、あの坊っちゃまはそういう人だって聞いてないよ。ハイメだったら腹下しの薬を今すぐに飲んだ方がいいというところだけど、そうじゃないんじゃないかなぁ。でも、所詮男だしそうかもしれないなぁ。」
マリアはガチガチに緊張しながら、慌てて夕食を食べて急いで部屋に戻って湯あみをしてそれなりに身嗜みを整えて、バタバタと転がるようにしてペドロの滞在する部屋に向かって部屋を飛び出した。
「あーダメだありゃ。右手と右足一緒に出ちゃってるよ。」
「あっちの坊ちゃんがその気じゃなくてもマリアがあんなんじゃあね。」
「据え膳食わぬはって言うしねぇ。」
「こりゃぁマリア一皮向けて帰ってくるに5マルクかけようかな。」
「「「「お、俺も!」」」」
「それじゃあ、賭けにならねぇじゃねぇか!」
周りにやんややんや言われていることになんてこれっぽっちも気がつかないマリアだった。
テレサはというと、耳年増よろしく「まぁ既成事実があった方がなんかうまくいくかもしれないよね。」なんて言って送り出した。
ーーー妖精さん、私、きたならしくないかしら
ーーーマリア、どんな時も可愛い!綺麗!だから大丈夫!
うーん、全然大丈夫じゃないなぁその答え、と思いながらやっぱり、感謝の言葉をいつも忘れないでそっと囁くのだった。
妖精はマリアの透き通る歌声も好きだ。だから、その夜も歌うことを強請った。
ーーーマリアー、いつもの歌歌って!
季節労働者たちの居住棟から、ペドロの滞在する母屋まではかなり遠い。
マリアは屋外に屋根のついた形で各棟を繋ぐ渡り廊下を歩くときに、周りに誰もいないことを確かめて小さな声で妖精たちに歌ってあげた。
妖精たちはマリアの周りを喜んで飛びまわった。
◇◇◇
ペドロは、昼間に話しかけた季節労働者の女を思い出していた。
「マリアと言ったか・・・」
話しかけた時の無意識の所作があまりにも洗練されすぎていて、これはかなりのマナーレッスンを受けたに違いないと思った。
と、同時にそんなうら若い娘がこんなところで季節労働者に身を落としているというのは明らかに曰くありげだったので引っ掛かっていた。だが今回はその点について聞き出すつもりはなかった。
何かあったにしても、せっかく知識を身につけているのであればその度合いに応じて他に働き口でも斡旋してやろうかと思い呼び付けたのだった。
ふと綺麗な歌声が聞こえるような気がして外を見やると、階下の廊下をマリアが渡ってくるのが遠くから見えた。
渡り廊下が終わって、パーゴラの下にきたマリアは月の光を浴びて金髪の髪が輝き、小さくではあるが鈴を転がすような透き通った綺麗なソプラノで歌を口ずさみながら空中を何かを愛おしむように撫でていた。何もないはずなのに、マリアの周りがきらきらと煌めいているように見えて、ペドロはドキッとした。
こんなに多情だったかなーーー
と自嘲しているところに、
コンコン
部屋をノックする音が聞こえた。気がつけばもうマリアが部屋の前に来てしまっていた。
「どうぞ。」
「お呼びと伺いましたので失礼いたします。」
マリアが部屋に入ってくる。
「体を休める時間にすまないな。昼間に話しかけたので、そのよしみで手が空いていれば手伝って欲しくて来てもらった。
私の今回の報告書をまとめるのに連れてきた従者だけではまとまりきらないので手伝って欲しい。一応は数字などはまとまってこちらにあるから目を通してくれ。そんなに時間は取らせないつもりだ。」
と告げると、マリアにいくつかの書類の整理と数字の集計をするように指示した。
「はい、畏まりました。」
マリアがペドロの作業机にあるいくつかの集計をまとめて報告した。
ペドロは、字が読めるか、書けるか、計算ができるか、それを論理的にまとめることができるか、と言った点をこの短時間で確かめていた。マリアの書く字は非常に美しく、母のものと同じかそれ以上に優美かもしれないとこっそり息を飲んだ。計算も早く、その結果も見やすく手早くまとめていてかなり優秀なことが窺い知れた。
その結果に満足したペドロは、どこかに就職先を斡旋するのは惜しくなってマリアに自分の領地にある屋敷で働かないか、と告げた。
マリアはというと、それはもう天にも登る気持ちではい!と告げた。
ペドロはこの領地視察で今季の作物の出来具合を確認して今回は例年と比較しても収穫量も多く問題ないということがわかったのであとは屋敷に戻るだけだった。
なので、マリアを貰い受けるということをフリンとそのあと話して翌々日には出立する旨をマリアに伝えた。
そして、だらしなくヘラヘラと笑って帰ってきたマリアを見た仲間は、結局みんな勝ちじゃねーかとぼやきながら美味しくエールを煽った。
先輩の女性たちは、マリアにそっと近づいて「初めてだと痛むと思うけど体を労って早くお休みよ。それから、これ飲んどきな。」と薬を渡してくれた。
マリアは何のことかさっぱりわからなかったけれど、善意でくれた薬だったので、ありがとうとニッコリ笑って受け取った。テレサに、何だかよくわからないけれど薬だから、何かの役に立つかもしれないと夜になってベッドに戻ったときに渡してあげた。
テレサは苦虫を噛み潰したような顔をして、「マリア、やっぱり襲われちゃったの?」と聞いてきたので
マリアは慌てて、「ないないないないないない。」と言うと、「なぁんだ。」とほっとした表情で、
「これ、子流しの薬だよ。」とあっけらかんとして告げた。
マリアはポカンとしてしまったが、
「だって、坊ちゃんのお手つきになっても万が一子供ができたなんて言ったところで向こうは一夜のお相手として袖にするだろ。そしたらマリアが苦労するだけだって、姐さんたちがきっと気を利かしてくれて薬くれたんだと思うよ。こう言っちゃあなんだけど、娼婦だったら娼館で育てたりとかもあると思うけど、流石に季節労働者じゃあ、子供ができたら明らかに労働力としても落ちるし、そうなればマリアが苦労するとしか思えないよ。」
と淡々と告げるテレサは、やはり年相応に見えないな、と思ったのだった。
そして、ここで出会った季節労働者の仲間たちも一期一会、短い期間なのに相手のことを思いやって心を砕いてくれているんだ、とじんわり心が暖かくなった。
「あのね、ペドロ様の屋敷で雇ってもらうことになったの。それで嬉しかったのよ。
だから、心配したようなことは何もなかったし、なんなら部屋には私だけじゃなくて何人も護衛やお付きの人がいたのよ。」
「えっ、それって今まで聞いたこともないよ・・・」
テレサは目をまん丸にして驚いていたがすぐに祝福してくれた。
そのあとすぐにさっと表情を暗くして、
「また来年も会えるって思ってたけど、そっかぁ。向こうに行ってどんな仕事をするのかはわからないけどとにかく体に気をつけてよ。
あーせっかく仲良くなれたと思ったのに残念だなぁ。」
と、眠りに落ちる前にポツリと本音がこぼれたのをマリアは愛おしく思った。
「テレサ、私もあなたにあえて本当によかった。
体に気をつけて元気で精一杯幸せに暮らしてよね・・・」
マリアの言葉は初夏の夜の空気の中に溶けていった。
この短い期間に、生まれて初めての恋を経験して、その相手の側元で働けることになって、なんて幸運なだろう!本当に妖精さんたちありがとう!
と感謝の気持ちが溢れすぎてなかなか眠れなかった。
妖精たち?もちろん、マリアの頭上でラッパを吹き鳴らしてその晩はマリアが眠れないくらいパーリー、大騒ぎをして祝福してくれていたのだった。