笑顔の合唱コンクール 2
5
「今回ばかりは明美に協力できないよ」
明美にはいつも協力していたし、今回だって明美の言うように一緒に行動したい。危ない橋を渡ってきたことだって今まで何度もあった。
だけど。
「だって人が死んでいるんだよ? 私たちが捜査をしていったら、もしかしたら犯人にたどり着けるかもしれない。犯罪者の顔を拝めるかもしれない。だけど、それ以上にリスクが大きすぎると思わない?」
「…………」
それを言った瞬間、明美の目から光が消える。
私に対しての興味、期待がすべて消え去ってしまったような目。
それを見て、私は取り返しのつかないことを言ってしまったかもしれないと思った。明美にその目を向けられるのは嫌だ。
今の私にとっては明美が、明美だけが世界なのだから。
「――って普通の人だったら言うかもしれないけどね! 私は勿論手伝うよ!!!」
「……ほんとに!?」
明美の瞳に光が戻る。よかった。
もし明美に嫌われてしまえば、私は生きていく理由がなくなる。
だからこれでいい。
「そうと決まれば、まずは作戦会議よ!」
「どうやって犯人を見つけ出すか、なぜ犯人は安奈さんを殺したかっていうところだよね」
「そうね!」
明美は私の意見に賛同した後に、すっと私の顔を見てくる。見つめてくる。その大きな瞳に吸い込まれてしまいそうになるが、すんでのところで踏みとどまる。
「……どうしたの? じっとこっちを見てきて」
「あなたがアイディアを出すのを待っているのよ?」
なにを当たり前のことを聞くの、といった驚きの表情を浮かべる。
「明美は考えないの?」
「私にはそういうのは向いていないわ」
そう言い切ってあくまで私に期待を寄せてくる明美。
そんな風に期待されても、あまりに情報が少なすぎる。こんな状態で犯人を当てられるのなんて何が起こるかわかっている未来人くらいだろう。
「さすがに情報が少なすぎるよ。もうちょっと情報を集める時間が欲しい」
「それはそうね。じゃあ、どうやって情報を集めるのかの作戦会議をしましょう」
「作戦会議って、結局私が考えるだけじゃん」
「人に聞いてもらうのって、案外大切だったりするのよ?」
それが何にせよね、と。
明美は相変わらず私への期待の眼差しをやめない。これ以上、このきれいな瞳には耐えられそうにない。苦肉の策をひとつ提案してみる。
「いつもと違うこと……、今日欠席してる千羽さんならなにか知っているかもしれないよ。明美が昨日休んだ時も、様子がおかしかったし」
探偵は事件が起きたとき、事件前と事件後で変わっていることがないかを確認する。今回の場合、一番大きな変化は千羽さんの様子だ。今日にいたっては休んでいる。
「なら、彼女に話を聞きましょう!」
「そうだね、なにも得られないかもしれないけれど……。藁にもすがる思いっていうのはこのことだよ」
正直、彼女からなにか情報が得られるとは思っていない。私としてはこの時間稼ぎをしている間に警察が犯人を捕まえて真相を明らかにしてくれればそれでいい。
「それじゃあ、明日以降に千羽さんが来たときに話を聞いてみようか」
「? なにを言っているの?」
明美が首をかしげる。
「今日行くのよ」
6
千羽さんがいない合唱コンクールの練習というのは、それはひどいものだった。
7
「それじゃあ千羽さんの家に行きましょう!」
放課後。
明美は終礼が終わるやいなや私の席へとやってきてそう言う。はたから見れば休んだクラスメイトへのお見舞いに行く優しい生徒という見方もできるかもしれない。だけど、実際は野次馬根性だ。
そもそもクラスメイトが死んでしまったというのにこんなに元気な同級生というのもおかしな話ではある。不謹慎と言われればそれはそうかもしれない。
だけど、私はそんな明美を肯定する。
世界中の誰もが否定しても、私だけは明美を肯定する。
「行こうか」
私は明美の後ろをついていく。
8
「そういえば、千羽さんの家は分かるの?」
「ええ! ちゃんと担任の先生に聞いてきたわ!」
そう言ってスマートフォンを私に見せてくる。私たちが所属している葦花中学校の校則ではスマートフォンの持ち込みは禁止されている。それは明美には関係のない話だが。
明美は私に地図のアプリを用いて千羽さんの家までの順路を見せてくれる。そこまで学校からは遠くないので疲れずに済みそうでよかった。
私は体力には自信があるのだ。悪い意味で。
9
「ここが千羽さんの家ね」
「はあ、……やっとついた……」
地図で見た距離ではたいしたことなかったのに、実際に歩いてみるとかなりの時間がかかってしまった。体力の衰えが著しい。これからさき運動をする予定もないので別にいいけど。
千羽さんの家は……何の変哲もないふつうの一軒家だった。白塗りの外装がまだあまり汚れていないので、新築なのかもしれない。
「じゃあ行くわよ!」
「ちょっ――」
私の心の準備を待ってくれずに明美はインターホンを押す。しばらくして、ひとりの女の子が応じる。
「……どちらさまですか?」
「私、千羽さんのクラスメイトのあけ――」
「帰ってください!!!」
そう言ってインターホンからはなにも聞こえなくなる。
明美はこちらを見る。それは誰も憎むことのできない屈託のない笑顔であった。
もしかして、ビンゴ?




