神の子孫、武器を創る
精霊王、今は神霊だが。彼らと契約して一週間が経った。あれから俺は神気の訓練をしたり、庭で畑をいじったり、日向と戯れたりしていた。神気の方も日向の指導を受けながら何とか制御できるようになってきた。魔法……神霊たちと相談して精霊術と呼ぶことにしたんだが、それも最初のようなバカみたいな威力は出ないように制御できるようになった。
そういえば、神霊たちと契約してから我が家の敷地内を無数の精霊たちが飛び回るようになった。どうやら神霊たちがいる我が家は精霊たちにとって実家のような存在らしく、いつの間にか中位、下位の精霊たちが居着いてしまったのだ。最初は驚いたけど、精霊の長がいるところに来るのは自然な流れだと思い直して黙認している。最初にやって来たときは神霊たちと同じように光の玉だったのだが、俺が許可した途端、手のひらサイズの小人になった。つまり、今、我が家は小人たちの保育園みたいになっているわけである。まぁ、賑やかなのは嫌いじゃないし、精霊たちは畑仕事や家事全般を手伝ってくれるので結構助かっていたりする。褒めると嬉しそうに更に頑張るので何か和むし。中位精霊の方が下位精霊よりも少し大きく、着ているものも下位精霊はその属性の色の布の服だが、中位精霊はその服にそれぞれ違った装飾をつけている。羽飾りだったり、首飾りだったりと様々で個性がある。顔はほとんど同じで見分けはつかないんだけどな。
そんなわけで、俺の生活にも余裕ができたのでそろそろ棚上げしていた周囲の探索をしようと思い立った。俺はコートのポケットに入れっぱなしにしていた“神銀”を取り出す。色々考えたのだが、俺の武器がやっと決まった。
『やっと“神銀”で武器を創る気になったんだね』
「ああ。結構悩んだけどな」
日向に返事をしながら“神銀”に神気を込める。“神銀”が輝き、グニャリと形を変える。俺はそれを二つに分ける。そして片方を真っ直ぐに伸ばしていく。母さんが見本で見せてくれた棒のような形へと成形する。大体の形を整えたあともう片方の形を変えていく。こちらは大体三分の一あたりの所で曲げていく。ブーメランのような形になったところで手を止める。そして俺はその二つにありったけの神気を込めていく。
『八雲!さすがにやり過ぎだよ!』
日向が静止してくるが、俺は構わずに神気を込める。俺のすることに興味津々といった様子で見れいた下位、中位精霊たちは神霊たちの所へ避難していく。日向が慌てているのを見てヤバいと思ったらしい。小さな手足を精一杯動かしてトテトテと走る姿は可愛いものだ。おっと。集中しないと。本来、“神銀”にはこんなに神気を込めなくてもいいのだが、俺は敢えてこうしてありったけの神気を込める。“神銀”を半分に分けたので、一つに込める神気の量を多くした方が良いと思ったのが理由の一つ。そしてもう一つ……。
『何をするつもりなの八雲!!』
あまりの神気の放出に俺の肩に乗っていられなくなった日向が足元で聞いてくる。だが俺は今、それに構っている暇はない。制御ができるようになったこそ、俺の神気を余すことなく“神銀”へと伝えることができる。俺の中のイメージを“神銀”に伝える。それを了承したかのように棒とブーメランのような形をした“神銀”が徐々に形を変えていく。ここで更に俺は神気を込める。ここが正念場だ。意識を“神銀”へと集中する。さぁ、来い…………!!
“神銀”がこれまでにない輝きを放ち、辺りが光で溢れる。それはまるで光の爆発。その場にいた俺以外の誰もが目を閉じただろう。しかし俺は一瞬たりとも目を離さぬようにこれから生まれる“相棒”を見つめていた。
光が収まると、打ち立ての刀を水に漬けたような蒸気を出しながら俺の両手に武器が完成していた。……成功だ。流れ落ちる汗を拭う事も忘れ、俺は相棒の誕生に歓喜していた。
俺の左手に収まるのは綺麗な銀色の銃。先程、ブーメランのような形をした“神銀”だ。通常の銃よりも太めの銃身。そこには真紅の宝珠が埋まっている。そしてその宝珠から真紅に染まった四匹の蛇が銃身を駆け回るように伸びている。
そして右手に収まっているのは一本の刀。真っ白な拵えで鞘の両端に金色の装飾。銃と同じように鞘を包み込むように真紅の蛇が四匹描かれている。鍔には流れる雲。柄には真紅の宝珠。銃をポケットに入れ、刀をゆっくりと抜く。その美しい刀身に俺はしばし見惚れた。普通に打った刀では絶対に不可能な波紋。流れる雲のようで美しい。誕生を喜ぶように太陽の光を反射している。俺はゆっくりと刀を鞘に戻し、再び、銃を左手に持つ。
「誕生おめでとう“神銃 大蛇”、そして“神刀 叢雲”」
両手に収まる相棒たちの真紅の宝珠が返事をするように明滅する。そこで俺の意識は途切れた……。
意識を取り戻したのは太陽が真上を過ぎた頃だった。ソファに寝かされ、日向と神霊たちが心配そうに周りを囲んでいた。他の精霊たちも俺が目覚めたのに気づくと仕事をほっぽりだしてこちらへやってくる。
『目、覚めた?』
「日向か。悪い。心配かけたな。皆も悪かった」
俺は日向と神霊、そして精霊たちに謝る。神霊たちは俺が大丈夫だと知ってほっと息をつく。精霊たちの反応は様々で神霊たちと同じように安堵している者もいれば心配かけてと怒っている者もいる。下位、中位精霊たちは何を言っているかはわからないので、表情から読み取るしかないが、神霊たちと契約しているためか何となく言いたいことはわかる。精霊たちは俺が無事だとわかるとそれぞれの仕事へと戻って行った。問題は…………。
『何であんな無茶したの!』
そう日向だ。それはもうカンカンである。まぁ、自分でも無茶したのはわかっているからお叱りは甘んじて受け入れよう。実際、神気を込めすぎて気絶しているしな……。
「悪かった。“神銀”を使って武器を創るのにありったけの神気を込めた方が強い武器が出来上がると思って……」
『だとしても、事前に言ってくれれば良かったのに!もし八雲が神気の制御を誤って暴走したら大変なことになってたんだよ‼そうなったらここら一帯だけじゃなくてこの世界そのものもどうなっていたか……』
日向がそう言った瞬間、神霊たちが息を呑むのがわかった。知らぬ間に世界の危機だったとしれば当然の反応だが。本当に悪いことをした。
『もう二度とこんな無茶はしないでよ!』
「ああ。もうしないよ。悪かった」
もう一度日向と神霊たちに謝る。
「なんにせよマスターが無事で良かったです」
「主が無事ならそれでいい」
「ヤクモ様ならば心配ないと思っていましたわ!」
「でもちょっとびっくりしたね……」
「あはは〜。でも面白かったね!ビカーって」
「そうっす!びっくりして面白かったっす!」
「…………コク」
シルフとヴォルトはあれを何かの演出だと思っていたみたいだ。ブレないなこの二人。そしてアクアのこの根拠のない自信はどこから来るのか……。
俺はソファから起き上がり体を伸ばす。
『起き上がって大丈夫?』
「ああ。問題ない。それにせっかく出来たこいつらを試してみたいしな」
俺は傍らに置いてあった“神銃 大蛇”と“神刀 叢雲”を手に取る。俺の神気で創っただけあってよく手に馴染む。昔から持っていたかのようだ。俺に応えるように相棒たちの真紅の宝珠が光る。
『その二つを試すなら家から少し離れた方が良いよ。あれだけの神気を込めた武器だからどれだけの力を持っているかわからないからね。それにそれだけじゃないよね?』
「さすがに日向はわかるか」
そう。俺の相棒、“神銃 大蛇”と“神刀 叢雲”には意思がある。いや、正確にはある魂が半分ずつ入っていると言った方がいいか。
武器の名前から予想できるかもしれないが、この二つには日本神話に出てくる魔物“八岐大蛇”の魂が入っている。目は鬼灯のように赤く、八岐の蛇の化物だ。この魔物は俺と縁のある魔物だ。俺の先祖、素戔嗚命が櫛名田姫を助けるために退治した魔物なんだ。有名な神話なんで説明するまでもないと思うが。
そしてこの八岐大蛇の魂が何故俺の武器に入っているかというと、俺が“神銀”に神気を込めているときに入って来たんだ。多分、素戔嗚命と櫛名田姫の末裔である俺の神気に惹かれて来たんだと思う。え?大丈夫なのかって?大丈夫だよ。多分。八岐大蛇はそもそも神話で語られるようなどうしようもない魔物ではない。もともとはその土地を守護する神獣だったそうだ。それが長年人の中にある邪気に当てられてあんな魔物になっちまったんだと。櫛名田姫のことは本当に好きだったらしい。そんな櫛名田姫を掻っ攫っていった素戔嗚命のことは今でも嫌いだけど、櫛名田姫の末裔でもある俺に協力したいらしい。神気を通してそう聞いた。それだけだと信じきれないかもだけど、実はこのことは昔、ばぁちゃんからも聞いていたので、あっさりと信じられたわけだ。ばぁちゃんが言っていたなら本当のことなんだろう。
そういった事情で八岐大蛇は“神銃 大蛇”と“神刀 叢雲”として生まれ変わったわけだ。実のところ、俺はこうなることを狙っていた。どんな武器を創るか考えていたときにばぁちゃんの話を思い出して、俺の神気をありったけ込めたら八岐大蛇が来てくれるんじゃないかと考えた。そしたら本当に来てくれたんで、俺もびっくりしたけど、俺が気絶するまで神気を込めたのも無駄じゃなかったわけだ。ちなみに俺の神気はもう完全に回復している。というか、実はほとんど減ってない。そもそも高位の神になった俺の神気ってほぼ無尽蔵らしい。さっき気絶したのはあれだけの神気一気に開放するのに慣れてなくて俺の体がびっくりしただけなんだと。気絶している間に八岐大蛇が教えてくれた。夢を見ている感覚だったが、俺の頭の中に交信してきたらしい。
さて、家から離れるため森を歩いていく。日向はいつものように俺の肩。それと神霊たちが付いてきている。ふと足元を見ると、見たことのない草が生えている。
「変わった草だな。向こうの世界じゃ見たことない」
よくじいちゃんに連れられて山や森に入り、野草や山菜なんかを取りに行っていたからそれなりに詳しい。しかし今、俺の足元にある草は見たことのないものだった。
「それ、エイド草っていう薬草だよ。魔力の含まれている草で怪我を治したりする効果があるんだ」
俺が不思議そうに見ていたのでテラが教えてくれる。なるほど。魔力を含んでいる草だから見たことがなかったのか。こっちの世界特有の植物ってことだな。効果も物語でよく出てくる回復薬とか作れそうな名前だしな。
「せっかくだから少し貰っていくか」
何かに使えるかもしれないし、持っていて損はないだろう。ある程度摘んでから地面にまとめておく。そして腰のカードホルダーから絵柄の描いていないカードを一枚取り出す。神気を込めてエイド草に向けて投げる。するとカードが光り、エイド草を吸収する。吸収し終わると俺の手元まで戻ってくる。これがカードの使い方の一つだ。カードの上半分にはエイド草の絵柄が描かれている。下半分にはエイド草の説明が書かれている。
【エイド草】✕20☆
傷を癒やす効果を持つ魔力を含んだ薬草。すり潰して傷に塗り込んだり、煎じて飲んだりすることで効果を発揮する。回復薬の原料。繁殖力も強く、山や森だけでなく、砂漠でも見つかる事がある。
☆はその物の希少度、つまりレア度を表している。最大は10だ。エイド草はどこでも見かけることができるだけあって、レア度は1だ。とはいえ人間にとって必要な薬草ということには変わりない。カードはこうやって物を回収できる能力もある。しかも一種類の物に一枚なので、同じ物であればどれだけの量があろうとも一枚のカードに回収できる。名前の横に書いてある数字はカード入っている個数ということだ。取り出すときも俺の意思でいくつ取り出すか決められるので、かなり便利なカードだ。それだけでなく、もう一つ使い道があるのだが、それはまたの機会にしよう。
「さて、この辺でいいか」
しばらく歩いて開けた場所に来たのでここで“神銃 大蛇”と“神刀 叢雲”の試し撃ちと試し斬りをしよう。
「テラ、俺の正面に的作れるか?できるだけ硬いものがいいな」
「うん。できるよ。……はい」
テラが軽く手を挙げると、俺の正面に地面から岩が出てくる。俺は右手で叢雲を鞘から抜く。そして左手に大蛇を持つ。
まずは大蛇を岩に向け、引き金を引く。銃声と共に神気の弾丸が発射される、弾丸は岩の中心を深く抉る。続けて二発、三発と撃ち込む。
「マシンガンタイプ」
俺がそう言った瞬間、銃口から弾丸が出るスピードが上がる。無数の弾丸が岩に当たり、削り取っていく。
「ショットガンタイプ」
弾丸の出るスピードが最初の状態に戻る。しかし、岩に着弾するタイミングで弾丸が弾け、岩全体に当たる。二、三発岩に撃ち込み、効果を確認する。
「スナイパータイプ」
俺が引き金を引いた瞬間、弾丸が岩を貫通する。そして俺の視界にはスクリーンのようなものが浮かび上がる。そして俺の意思で岩が近くに見えたり、元の距離に戻ったりする。
「レーザータイプ」
今までの弾丸で最速の物が銃口から発射される。今までもように弾丸の形ではなく、一本の光りの線のようなものだ。その速さはもはや視認するのが困難な程。
「ブレードタイプ」
俺は岩に向けて走り出す。大蛇を岩に向けて振る。岩に線が入り、一拍置いて岩がずれて真っ二つになったことがわかる。大蛇の銃身の下部分に神気の刃が現れていた。
俺は真っ二つになった岩の一つを持ち上げる。普通なら上がるはずのない岩が持ち上がるのは俺が神気を使えるようになった影響だろう。常人の何倍もの力を出せる体になってしまったらしい。俺は持ち上げた岩を空に向けて放り投げる。
「キャノンタイプ」
引き金を引くと、銃口の前に神気が収束していく。俺は空中に放り投げた岩に銃口を向ける。それは銃声というよりも衝撃。収束された神気が開放され、直径約1m程の光が岩を包み空に登って行った。
「よし。大体イメージ通りだな」
『またとんでもないものを造ったね。八雲』
日向の声に振り向けば、そこには呆れ顔の日向と唖然と空を見上げる神霊たちがいた。
「い、今のは一体……」
ルナが我に返り、聞いてくる。そして俺は“神銃 大蛇”の能力について説明する。大蛇には八つのタイプが存在する。
普通の拳銃と同じように一発ずつ弾を撃ち出す、取り回しやすい【スタンダードタイプ】
貫通力と一発の威力は低いが、連射力に優れた【マシンガンタイプ】
射程距離は低いが、散弾によって多くの敵を捉える【ショットガンタイプ】
連射力は低いが、一発の威力と貫通力、そして射程距離に優れた【スナイパータイプ】
発射速度に優れた光線を撃ち出す【レーザータイプ】
銃身の下部分に神気の刃を創り出し、接近戦もこなせる【ブレードタイプ】
引き金を引いてから発射までの時間が少しかかるが、最高の破壊力を備えた所謂ビーム砲の【キャノンタイプ】
そして先程は使わなかったが、七つのタイプに様々な能力を付与できる【アトリビュートタイプ】
以上八つの能力を備えた銃が“神銃 大蛇”だ。どうせ自分の好きに創れるならばそんな局面にも対応できる銃を創りたかったんだ。だから全部の能力を一つにまとめた銃を創った。
「私たちには理解が出来ないもののようですが、とにかくすごい物だということはわかりました」
「やはり主は凄まじいな」
「ヤクモ様ですもの。むしろ当然ですわ」
「最後のやつ綺麗だったね」
「ヤクモすごーい!」
「すごいっす!」
「…………コク」
各々、感想を述べる神霊たち。多分、アクアとシルフとヴォルトは何もわかっていないな。それはさておき、大蛇の試し撃ちも終わったし、次は叢雲だな。
「テラ、また的を頼む。今度は人形にしてくれるか」
「うん。わかった。じゃあ、せっかくだから動くようにするね」
「おっ!そんなことできるのか。是非頼む」
再びテラが手を軽く挙げると、今度が土で出来た人形が現れる。人形は意思を持ったかのように俺に向けて歩き出す。俺は人形に向けて走り出す。人形が俺に向けて拳を突き出す。それを避け、叢雲を一振りした。その瞬間八つの斬撃が人形を襲い、八つの土塊となって地面に落ちた。
「うん。こっちもイメージ通りだな。テラ、もう一回頼む。今度はもっと数を増やしてくれ」
「う、うん。わかった」
俺を囲むように土の人形が現れる。数は十体。人形たちは一斉に俺に襲いかかる。しかも今度は土の武器を持っている。剣や槍など様々だ。人形たちの攻撃を躱しながら叢雲を振る。八つの斬撃が人形たちを細切れにしていき、十秒もかからずに人形たちは土塊になった。
「うん。とりあえずこんなもんかな」
『見ているだけじゃどういうことかわからなかったんだけど、八雲、一回しか斬ってないよね?』
「ああ。俺は人形を斬ったのはそれぞれ一回ずつだよ」
『でも、斬られた人形は細切れになってたよね?もしかして叢雲の能力って……』
「そう。日向が考えている通り、これが“神刀 叢雲”の能力の一つだ」
簡単に言うと、“神刀 叢雲”は一振りで八回斬ることができる刀ってこと。昔、ゲームで見た一回の攻撃で二回斬れる剣ってのからヒントをもらったわけだ。八回になったのは八岐大蛇の魂が入ったからだろう。俺が創った叢雲は凄まじい斬れ味と連続攻撃を可能にするっていうことだけをイメージしてたんだけど、八岐大蛇の魂が入ったことで他にも能力がついたらしい。これも気絶している間に教えてもらったことだ。他の能力については追々な。
『うん。とりあえず、八雲…………やり過ぎ』
「ですよね〜」
日向の呆れ顔に乾いた笑いを返すしかない俺だった。
書き直す前は銃のみでしたが、今回は刀もセットにしてみました。銃の機能は書き直す前と変えてません。
今日もなんとか更新できた……。これからも頑張ります。




