第一話 秋空
九月。それは、長ったらしくも学校に行かなくていい至福のひと時を終え、適度な休息と気だるさを終始感じさせる月である。
あの夏の暑い日は何処へ行ったのやら、と思わせる程の涼しげな昼間に、まだ冬は来ないと訴える暮れる日の遅さ。
旬の食べ物が毎度毎度紹介され、紅に染まる山肌や落ちる木の葉が壮大に映し出される。
秋は論理的に言うと人間が一番暮らしやすい季節なのではないだろうか。と、言いつつも好き嫌いも有れば、他の季節にもそれぞれの特色やら美点があるので一概にコレとは言えないが、私の中ではまぁ一番好きと言える季節だろう。
ーー
遠くに見える紅に染まった山を見ながら、私はボーッと授業を受ける。別段、今日は二学期の始業式の日。授業と言えどただのホームルームだ。少しぐらい秋について頭の中で語っていても構わないだろう。
「夏休み、どうだったー?」
「部活ばっかだったわ。マジおもんなかった」
「それな。早く引退してぇ」
ホームルームの最中でも、コショコショと小さな声で話し声が聞こえる。赤の他人の夏休みでの生活を聞いたところで何が楽しいんだろうか。返ってくるのはどうせ『海に行った』『夏祭り行った』『部活だった』の三択ぐらいだ。答えのわかっている質問なんて、クイズの答えを持ちながらクイズゲームに参加するに等しい。
「……アイツまた寝てる。大神!お前の夏休みはどうだった?」
そんな中、朝倉先生が意地悪に大神君を当てた。先生が望んでいる答えは多分『部活のみんなと遊びましたー』ぐらいだろうが、その答えを彼が言うとは到底思えない。と、言うより無いに等しい。
ならば答えは『ゲームしてました』か、『寝てた』のどっちかだと私は予想する。当たっていたら今日の帰りにコンビニでジュースを買おう。
「…………あぁ。夏休みっスか?えーっと、借金取りに追われてました」
「「は?」」
呆気に取られた、と言うより世界が軽く一分ぐらい止まったかと思われた。長いこと貯めるので、とうとう遊びに行った事を喋るのかと思わせながら、最後は借金取りでフィニッシュ。いや、先ずなんで追われてる。
「そ、それはお前が借りた金か?」
「あ、すみません。逆です。借金タカリに行ってました」
「「・・・・・・・・」」
動揺の後に更なる追い討ち。一体、彼はこの夏休み何をしていたのだろうか。確かにあの夏休みでの遊びに彼は行っていたハズなんだが、本当に来ていたのは彼だったんだろうか。そんな疑問が私の頭の中をコーヒーカップのようにグルングルンと周り始める。
「え、えっと。そうか!それは良い夏休みだったな!!二学期もダラけず頑張れよ」
もうフォローにすらなっていない。彼の意図的な誘爆に等しい。先生も何を言ったらいいのかわからなくて、困惑している。本当の話なのか、嘘なのか、誰一人としてわからない上に、言った後はまた寝てるから問い返しのしようがないと来た。
「さ!もうホームルームはここまでだ!みんな、気いつけて帰れよ。私はもう帰る!」
チャイムの『キ』の音が鳴った瞬間、朝倉先生は瞬時に逃げるを選択し、早口に言葉を残して去って行った。一同はポカーンとした顔をしながらも、すぐに授業が終わったと理解し、帰る準備に取り掛かった。
まだ秋が始まったばっかりだが、今日の空は一段と高く感じた。まだら模様にある雲を見ながら、ふとそう思う。この景色はすぐに変わってしまうだろう。まるで人の心のように。だから、朝倉先生。彼の言った事をあまり思い詰めないで頂きたい。彼の言葉も、彼の心もこの秋空と同じだから。
コソッと第二章になってます。お気づきになられたでしょうか。
ま、そんな事より。次回は木曜の夜九時です!お楽しみにー!




