第三十話 永遠に続けばいい日
コツコツと音を立てながら、真っ暗闇の通路を歩く。小さな明かりだけを頼りに進んで行くと、中に店員さんと思わしき女性が立っていた。だが、不自然な事にその女性は後ろを向いて立っており、私達が通った事に気づいていない様子だった。が、どこからか声が聞こえてき、
「あ、はい。四名様ですね。この先、お化けが沢山出てきます。どうか離れ離れにならない。手を繋いでおく事をお勧めしますよ」
「……?」
普通の女の人の声が聞こえ、私達に注意とお勧めを語られた。別に彼氏彼女ではないので、手は繋がないのでこのままスルーの方向でと柊木君が合図するので、ガクガク震えている坂口さんの背中押してその店員さんらしき女の人の横を通ろうとした瞬間、
「━━━━━━━行ってらっしゃい」
「ッ………!?!」
「あっ……あっ……!」
店員さん、もとい女性のゾンビが急に振り返ってその血と傷でドロドロになった顔をこちらに向けた。怪しいとは思っていたが、まさか本当だったとは。いや、そこだけではない。彼女のメイクの完成度があまりにも高過ぎる。一瞬本物かと思うような出来だった。これは少しハードルが高いかもしれない。
「キヤァァァァぁぁあああああああ!!!」
そんな物思いに耽っている瞬間も僅かな物で、坂口さんの今まで聞いたことのないほど大音量の発狂で我に帰らされた。彼女はその音に耳を塞ぐ私達の手を取り、一気に全力ダッシュで駆け出す。私達はされるがままに彼女に引っ張られながら一直線の廊下を走らされた。
ーー
「ハァ……ハァ……」
「大丈夫か、お前。しんどいなら無理すんなよ?」
「心配されるほどでもないわよ。そんな事より柊木君と坂口さんは?」
「知らん」
「えっ?」
「だから知らねぇって。途中で柊木の真横にお化けが現れて、ビビったアイツは顔を真っ青に変えながら坂口持って走って行ったぞ。まぁ、ここのお化け屋敷の一番の見所は『迷路』だから、あんな気が動転している様じゃ万に一つで抜けれねぇだろうよ」
と、淡々と語る大神君には冷や汗どころかさっきの疾走の汗一つ見せていない。一体どんな胆力を持っていればこうなるのか知りたいものである。と言うか、彼に感情は存在するのか否かから話題を始めなければならない。
「怖いの平気なの?」
「いーや。そっちの耐性は髪ほどしかねぇよ。ま、それはガチの方の話だが。相手が人間なら怖くも痒くもないね」
「あなたってホント『アンチ人間』よね。特攻でも付いてるの?」
「人間特攻とかどこで使えんだよ」
「こう言う所」
「一人じゃ行かねぇな」
相変わらずの悪態を吐きながら、彼は私に手を差し伸べた。さっき私は彼を『アンチ人間』と言ったが、それはこの一瞬、今手を差し伸べている彼ではないだろう。本心では人間と言う生物を嫌っていたとしても、その嫌いの度合いは今までとは少し違う気がする。根拠はないし、真偽も不明だ。けど、それでも私は彼を信じる事ができる気がする。
「……笑ってないで、サッサと手を取れよ。恥ずかしいから」
「ごめんなさい。その優しさが、君の成長ぶりだと感じると、ね?」
「成長、か。そう言うことにしておくよ」
「そ。じゃあ早くこんな場所から出ましょうか」
「はぁ……誰のせいでこんなに時間食ってんだか」
「予定通りに行かないのも、旅の面白さよ?」
「これ旅じゃなくてただの遊びなんだよなぁ」
私は彼の手を借り、サッと立つ。坂口さん達の捜索もしないといけないんだが、それはもう放っておいてもいいだろう。出口で会えるはずだし。私と彼はとりあえず分岐点の始めまで戻り、もう一度このお化け屋敷からの脱出を開始した。
ーー
「ごわがっだよぉぉぉ〜〜〜!!」
「はいはい。泣かない泣かない」
「大泣きって……。小学生かよ」
「うるさい!!ライライはおかしいんだよ!」
「何がおかしいんだか」
私と彼が出てくるや否や、大号泣の坂口さんを慰める柊木君の姿を発見してしまった。それを見た大神君に至っては途端に回れ右して逃げようとしたが、流石にそれはズルいので首根っこを掴んで二人の下まで連れて来た。
こうして私が宥めるのも疲れたので、そろそろ大神君に交代して欲しいのだが、彼は口笛を吹きながらすぐに遠く離れた。面倒ごとにはもう懲り懲りだ。今日でこの野外活動は最終日。とりあえずの思い出は十分に作る事ができたであろう。多分こう言う思いは口にして方が良いのかもしれない。けれど、私にはそんな勇気がないのでボソッと心の中で呟くことにする。
━━━━━━━━この二日間の様な日々がこれからずっと続けばいいのに。
次回は火曜日の夜九時です!お楽しみにー!




