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結局彼は孤高に立つ  作者: ◾️
第一章 一学期
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第十話 決心と悲劇

「リストカット、か」


「長いことやってるみたいね。傷の数が多すぎる」


「ち、違う!!コレは……!!」



彼女がリストカットをする理由、そんなモノは聞かなくてもわかる。私達が見ただけでも、奴隷のような扱いを受けていた彼女だ。ストレスが溜まるのはわかるし、それを吐き出す場所が無いのもわかる。学校ではその子と親友のように親しく接するが、帰り道や二人きりになった所では奴隷のような扱いを受ける。友達はもちろん、親にも言えるわけがなく自分の中に溜め込んで行く。



「そうだな。ここまで来たら自殺した方が早いかもしんねぇな」


「何言ってるのよ、あなた!?」



ひとしきり見終えた後、彼はとんでもない事を口走った。唖然とする私と彼女を蚊帳の外に彼はひどく冷たく語り始める。



「そう怒んなって。現にそうだろ?リスカなんて自殺未遂みたいなもんだ。助けて欲しいサインだ、とか人は言うけどな、ンなもんサッサと死にゃあ関係ねぇ」


「ッ………!!」


「あなたよくそんな事が言えるわね!」


「あ?じゃあなんだ?リスカしたら誰かが助けてくれんのか?笑わせんな。ネット上であの子リスカしてるらしいよ、って笑われんのがオチだろ。それを見るか聞いたお前はまた始めるんだ。楽しいイタチごっこだなぁおい」


「あなた坂口さんの気持ちわかってる?それなのに死ねばいいって割り切る気?」


「つまんねぇ冗談はよせよ、天宮。じゃあ聞くが、坂口は今何を考えてる?」



私の質問への彼の答えが意味するのはつまり、彼には彼女の気持ちがわからない。本心から彼が言っているのか不明だ。だが、一切の迷いも躊躇いもなく彼はそう語る。私がそのまま答えを拒んでいると、彼は一息吐いてからまた口を開いた。



「答えは至極まともで単純明快。『早く腕を切りたい』だ」


「ッ!!」


「その反応からすると図星みてぇだな。そうか、お前の気持ちはよーくわかった。ならお前にコレを渡そう。半年早いクリスマスって事で貰ってくれ」



彼はそう言い終わると、ポケットから一つの小さなチャック袋を取り出して中央に置いた。そのチャック袋の中には白い錠剤が二つ入っており、何が入っているかは彼は語らない。



「中身はなんでしょゲームを今からしてやってもいいんだが、俺も忙しいからそれは一人でやってくれ。俺がお前に半年早いクリスマスで渡すのは二つ。この白い薬と先生との相談券だ。だがまぁ、普通に渡しても面白くないから条件をつけよう。持って帰れるのは片方一つだけ。どっちを取るかは自分で決めろ」


「なんでこんな事するの?」


「仕事。あとはあの本庄って奴が嫌いだからだな、生理的に」


「り、りえちゃんはいい人だから!」


「これは滑稽だな!イジメてくる人をいい人呼ばわりか、素晴らしい教育だ。調教師に向いてるかもな」



彼はドス黒い笑みを浮かべながら、今にも号泣しそうな彼女を攻めたてる。彼が提示した二つのプレゼント。一つは目に見え、触れる事ができるが中身が何かはわからい。二つ目は目にも見えないし、触る事もできないが気が楽になるのは確かだ。



「まぁ、これだけじゃ決めれねぇか。そうだな……先生との相談券、コレの内容をもっと良くしてやろう。先生はウチの担任である朝倉先生、その辺の教師よりはマトモに取り合ってくれるだろうな。そんでもってお前の意見は絶対尊重、でどうだ?広めたくないってんならそう言えば配慮はされるし、逆に本庄を退学にさせたかったらそう言えばいい。━━━━━━もう追加は無しだ。お前はどっちを選ぶ?死か、生か」



「・・・・・・・」




答えは沈黙。どちらを選んでも結果はわからない。それならいっそ死んだ方が楽なのかもしれないとも思うだろう。だが、もし彼女が、坂口恵美が生きたいと願うのならば答えは自ずと変わってくる。



「……生きたい」


「OK、ならもう話はできている。今日の夜にお前ん家に朝倉先生が訪ねてくるから、親御さんと一緒に今後の話をしろ。あぁ、もちろん親にも効力は効いている。最後に誰にも言うなって付けたら隠し通せるから心配はいらねぇよ」



彼はそう言いながら薬をポケットの中にしまった。交渉成立、と言いたそうな顔で彼女を見るその姿を見て私はどこか悪魔的に感じた。あの野外活動の時に感じた畏怖とはまた違う何かだった。



「……時間も時間だな。ここはお開きにしよう」


「わかった。大神君も天宮さんもありがとう!私、生きようと思う!」


「………えぇ」


「頑張れ頑張れ、そのうち何とかなる」


「適当!!酷いよ!」


「気にすんな。酷いなんか思ってねぇから」


「それを言ったらダメでしょ!」



段々と元気が良くなってきた彼女に、彼も合わせて軽口を交えるが私はそんな気になれず愛想の無い返事で間を繋いでしまう。どうしても彼が何をしたいのかがわからない。



「それじゃあ先に帰るね、バイバイ!」


「……あ、うん」


「ちゃんと話せよー」



彼女は手を大きく振って、席から去って行った。カランカランっと音が店内に鳴り終わると、彼はレシートを持って立ち上がり最後にこっちを向いた。



「……な?上手く行っただろ?」


「結果オーライでしょ?それにあなたが初めに言った言葉、私は許さないわよ」


「死にたいって言ってる奴に死ぬなって言う方がおかしいだろ。望みを叶えてやるのは『良いこと』だってみんな言ってんじゃん」


「やっぱりあなたの事、嫌いだわ」


「好かれる方が困る。あぁ、ツケは部費に回しとくから構わねぇ」



彼はそれだけ言うとレジへと向かい、清算をサッサと済ませて扉を開けて外へと出て行った。残ったのは厨房で鳴る皿が擦れる音と、どこかの席で世間話をする老婆の声が静かに聞こえて消え去っていくだけだった。














ーー



もう冬のような寒い夜は終わり、防寒具を身につけなくても歩けるようになった夜の街で本庄りえは愚痴を零しながら帰路を歩く。



「ホントッ!なんで恵美は帰ったのよ!使えない使えない使えない!私の了承もなく帰るなんてありえない!明日は今までで一番酷い仕打ちにしてやる!!」



道端に転がる石を勢いよく蹴りながら、彼女は怒声とともに歩き続ける。部活を終え、電車で友達と別れたらあとはいつものように買い物ができたハズだった。だが坂口りえは家事都合の為と嘘を吐いて部活をサボった上に、本庄への連絡をせず帰った。その事に対し無性に腹がたつ。


コツコツと音を立てながら、前から人が歩いて来る。彼女は今までの怒りを理性で抑え、いつもの可憐で澄ました少女に成り代わってそのまま道を歩いた。ここで人に会うのは珍しいな、などと気を紛らわして右横を通り過ぎ去った瞬間、左手を強く握られ後ろへ引っ張られた。



「キッ……!!!?」



ゴム手袋で口を塞がれ、壁に背中を押し付けられた。助けを求めたくとも声が出ない上に首を絞められて振り払う力も出せない。恐怖と自らの死を悟って両目から涙が溢れ、嗚咽の声がただただ漏れる。それを見た『人』は狂気の笑みを浮かべて自分の顔を耳元へ近づけた。そして、甘い香りと共に小さな声が囁かれる。



「━━━━━━━りえちゃん」



瞬間、手足の感覚が無くなり始めてそれが体の方へと登って行く。そして脳までそれが登り詰めると、本庄りえの意識はどこかへと飛んで行った。

はい!どうも!■です!


雷かとんでもない事を言ってましたが、お許し下さい。m(_ _)m


次回は火曜日の夜九時です!お楽しみに!

では!また!

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