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バレた!


「え?」


「あれ?」


 ルカを送り届けにきて、そのまま部屋で待っていたルグ。

 無事にラックが逮捕され、当面の身の安全が保証されたのを見届けたリン。


 双方共に完全に気の緩んだ状態で顔を見合わせ、そのまま一秒、二秒、三秒が経過し……。



「え? ……あ!」


「あっ!? あの時の強盗……っ!」



 列車の事件の際に顔を合わせた二人ですが、この時、お互いのことを思い出すまでには僅かな時間差がありました。


 リンは元々の予備知識として、ルカが事件の時に邪魔をした少年少女と迷宮探索をしているということを知っていました。

 それに偶然ではありますが、現在はカジノで浮かないような余所行きの格好をしていたので、列車で会った時の風貌とは瞬時に結びつかなかったのでしょう。


 更に二人の現在の体勢も明暗を分ける原因になりました。

 ルカをベッドに寝かせてから床に座った状態でうつらうつらと舟を漕いでいたルグと、扉を開いた直後の体勢、すなわち最初から立ち上がって即座に動ける姿勢だったリン。

 

 先に相手のことを思い出した有利と、体勢の違いからくる優位が勝敗を決しました。



「う、動かないでっ!」


「……ぐっ!?」



 ルグが手元に置いていた愛剣の柄に手をかけた時には、リンは太腿に巻いたホルダーからナイフを抜き、彼の喉元に突きつけていたのです。




「な、なんでルカの部屋にお前が?」


「喋らないで、刺すわよ……ルカ、起きて」



 リンは疑問には答えず油断無く右手でナイフを突きつけ、空いている左手でルカの身体を揺さぶって起こそうとしました。すると、気絶してから時間が経って幾分落ち着いたせいもあってか、それほど間を空けずに目を覚まします。



「ふぁ……? あ……おはよ、う……お姉ちゃん……」



 まさか寝ているすぐ隣で、身内と友人が刺すか刺されるかの修羅場を繰り広げられているなど思っていなかったルカは、呑気にも目覚めの挨拶をしていましたが、



「あれ……ルグ君……? な、なんで……っ!?」



 目をこしこしと擦って寝ぼけていた意識が明瞭になってくると、遅まきながらルグが自分たちのアジトにいるという異常事態に気付いたようです。

 そして、仕方のないことではありますが、この時点でルカは取り返しの付かないミスを犯していました。



「……姉ちゃん? ルカ、どういうことだ?」


「え、あの……その……」



 そう、強盗犯との関係を自ら口にしてしまったのです。

 かなり苦しい言い訳にはなりますが、そこさえ誤魔化せていれば、まだ「列車の時の強盗が、偶然にもこのタイミングでルカの部屋に侵入した」と言うことも出来たのですが、これでは流石に弁明できません。

 もっとも、その失言がなくとも、現在の動揺しているルカに理路整然とした釈明など望めなかった可能性が高いですが。


 まあ、バレたものは仕方ありません。

 やるべきことは色々とありますが、とりあえず優先すべきはルグの拘束です。



「……とりあえず、その子縛っとかないと。あ、叫ばれたら困るから猿轡さるぐつわになりそうなモノ……兄さんの靴下でいいか」


「や、やめろ!? おとなしくするから、それはやめろ!」


「お姉ちゃん……そ、それは、流石にかわいそう……あ、このタオル……ちゃんと洗濯してる、から……これで。ご、ごめん……ね」



 リンがナイフを首に突きつけたまま、ルカが適当なタオルを噛ませて猿轡にし、大声を出せないようにしました。

 加えて後ろ手にした腕を洗濯紐で結び、両足も足首のあたりを結んで動けないようにします。これならば、ちょっとやそっとでは逃げられないでしょう。魔力が回復しても、ルグの未熟な肉体強化では、何重にも縛った丈夫な紐を引き千切るのはまず不可能です。



「ただいま~。魚釣ってきたよ」



 そうやってルグを拘束すべくドタバタしているうちに、アルバトロス一家の末弟であるレイルも帰ってきました。どうも学都アカデミア東側の河岸まで行って釣りをしていたらしく、魚の入ったバケツと釣竿を持っています。



「あれ、これどういう状況?」



 彼もすぐに異常事態が起こっていることには気付きましたが、それでも随分とのんびり落ち着いた様子。若干五歳のお子様ながら、特殊な家庭環境のおかげで、ちょっとやそっとでは動揺しない性分をしているのです。


「で、この兄ちゃん、誰?」







 ◆◆◆







「困ったわね。いっそ、口を封じて……」


「そ、それは……ダメ……っ!」


 ルグを拘束してから一時間が経過しましたが、その処遇に関しては一向に決まる様子がありません。特に、ずっと正体を隠して騙していた負い目もあってか、ルカは相当の罪悪感を覚えているようです。

 殺して口を封じるのは論外。

 他所で喋ろうという気をなくすまで痛めつけるのもダメ。

 そんなことをしようとすれば、独断でルグを逃がそうとしかねません。



「そりゃ、アタシだってイヤよ」


「うん、そういう血生臭いのはちょっとね」


「でも、このまま帰すわけにもいかないし、何か手を考えないと。ああもう、やっぱルカが冒険者やるの止めとくべきだったわねー……」



 リンやレイルにしても、積極的に人を傷付けたいワケではありません。

 アルバトロス一家の面々は間違いなく悪人ですが、自称「割とマシな種類の悪党」なのです。

 必要に応じて強盗や盗みはやりますが、なるべく穏当に済ませたいと考える程度の良識はあります。その半端さのせいで一時は一家離散寸前にまでなったとも言えますが、それについては心の底にまで染み付いた性分なのでもう仕方ありません。


 ルグがこの場にいる経緯についても、先程一時的に猿轡を解いて本人から聞いています。ある意味ではルカの恩人とも言える相手に危害を加えたくはありません。まあ、それについては現時点ですでに手遅れな感もありますが。


 ちなみに、そのルグは最初のうちは抗議のつもりなのかモゴモゴと呻き声を出していましたが、今は静かにジッとしています……というか、床に座ったままぐっすり寝ています。

 リンと出くわすまでも舟を漕いでいましたし、疲れていて眠かったのでしょう。

 肝が太いと言うべきか、あるいは危機感に欠けると評すべきか、微妙なところです。



「……とりあえず、逃がしても大丈夫って確信できるまではこのままかしらね」


「う、うん……じゃあ、それで……」



 そんなルグの姿を見て気を抜かれてしまったのでしょう。

 結局、議論を経ても処遇についての名案は思い浮かばず、なし崩し的にこのまま部屋で飼う……もとい、居候として面倒を見ることになったのです。



というワケでルグにはバレました。

囚われのお姫様ポジション(だが、男だ)

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