新米女神の神様稼業:ヒナ編
幼い神々を祀る神殿には、それぞれ個性豊かな形態があります。
方向性が違うために一概にどれが一番良いとは決められませんが、そのユニークさを論じるならばヒナ神殿が頭ひとつ抜けているのではないでしょうか。
とはいえ、姉妹の中でも特に真面目なヒナが無闇に奇をてらうはずもなし。
こうなったも彼女なりに真面目に考えた結果であるわけです。
学都や迷宮都市がある大陸の遥か南。
大海原の真ん中にて。大海原を行き交う商船や漁船の乗組員が、忙しい作業の手を止めて一斉に手を合わせました。
「おっ、ありゃあヒナ様の神殿船じゃねぇか?」
「本当だ。こいつは縁起が良い」
神殿船。
そう、ヒナの神殿は水上を移動する機能を有した船なのです。
既存の大型船にもちょっとした祭壇が設けられることはありましたが、神を祀ることを主目的とした船は、流石にヒナが神様デビューするまで世界のどこにも存在しませんでした。
神殿船の数は現時点ですでに六十隻ほど。
そうした船の数々が世界中の海や河川を動き回り、時には航路上の街や村に停泊する。水場の少ない内陸国においてすら、偉大なるヒナ神の御力によって都度新たな川や湖が創られるので移動に支障はありません。水場が増えて生活が楽になった人々も大助かり。水が豊富な国々ばかりでなく、渇いた砂漠のような土地でもなかなか人気がある神様なのです。
「こうやって見かけた時に拝んでおけば、それだけで嵐に遭わずに済むってんだからな」
「海の魔物からも守ってくれるし、まさにヒナ様さまさまだな」
と、このように信者からの評判は非常に良好。
今や世界中の海洋における主要な航路は常に絶対的な安全が保証されていますし、過度の悪天候や日照りなどからも守ってくれる。七柱の姉妹神の中でも、人々からの人気という点では間違いなく上位に入るでしょう。
もっとも、当の神様が悩みとは無縁で心穏やかにいられるかというと、それはまた別の話になってしまうのですけれども。
◆◆◆
『ねえ、みんな本当に大丈夫?』
世界中のあちこちを航行している神殿船。
そのうち一つで、ヒナは何やら心配そうに乗組員に声をかけていました。
「だ、だいじょうぶで……オロロロロ」
「ぐぇぇ……」
「ひぃ……ひぃ……」
この神殿船の乗組員は、ちょっと前まで女神を祀る神殿に勤めていた神官ばかり。
つまりは不動の大地の上で生活していた陸の住人だったわけで、海の生活に慣れない彼ら彼女らが急に船に乗せられたら当然船酔いの一つや二つはするでしょう。信仰心の強さで肉体の不調を我慢するのにも限度というものがあるのです。
『とりあえず、出したモノは海に捨てておくわね……』
「も、申し訳ござい、ま……うっぷ」
『いいから! ほら、部屋で横になってらっしゃい!』
そんなわけで祀られるべき神様が、神官達のお世話のためにてんてこ舞い。
吐瀉物の始末については手を触れずとも能力で片付けられるので人間が同じことをするより気楽ですが、その気になれば飲まず食わずでも問題ないヒナと違って人間の神官達は食事をしなければ死んでしまいます。
『ええっと、今日もお粥が無難かしらね。それだけじゃ栄養が偏るから、魚の干物を焼いて解したのをトッピングして。そうだ、果物も切っておかないと……』
なので、神たるヒナ自身の手で神官達のご飯を作るのも仕方がないことなのです。
元々、まだ迷宮の化身だった頃から自分の迷宮内で獲れた魚や貝を適当に焼くくらいはしていましたが、ヒナの料理の腕は別にプロ級というわけではありません。自分で食べる分だけを作るならともかく、胃腸が弱っているであろう普通人に食べさせることを考えると適当に勘で済ませるわけにもいかないでしょう。
ちなみに、姉妹神の中で一番の料理上手は意外にもモモ。
面倒くさがって滅多に腕を振るおうとはしませんが、この状況に陥ってから念話で無理に頼み込んで色々とコツを聞いたりもしました。辛うじてヒナが神官達のお世話を続けられているのも、そうしたアドバイスのおかげです。
『うん、まあ不味くはないはず。みんな、ご飯できたわよ!』
とはいえ、こうした苦労が続いたのも最初の数か月までのこと。
神官達も次第に屈強な海の男や海の女へと成長を遂げ、以降はヒナもようやく神様らしい仕事に専念できるようになりました。




