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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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もうちょっとだけ先の未来⑤


 あれから何年くらい経ったでしょうか。

 大国の王子様と深い森の中で暮らすエルフがヘンテコなレストランで奇跡のような出会いを果たし、長い時間をかけて輝くような絆を育み、時に本気でぶつかり合って……比喩表現ではない物理的な衝突が多すぎるのはご愛敬ということで。ともあれ、シモンとライムが夫婦となる時は、いよいよ明日にまで迫っていました。



「ほら、シモン君。ライムさんも座った座った! 主役抜きで先に始めちゃってたけど、料理もお酒もまだまだ来るからね」


「はは、では遠慮なく。あまり飲み過ぎて明日の本番に響かぬようにせねばな」


「うん」



 シモンは現在二十五歳。

 騎士団長に就任した十代の頃にはまだ残っていた少年らしさも次第に薄れ、地位に相応しい貫禄が備わってきたようです。異世界の玄関口となった学都における騎士団の仕事は大変なものですが、それでも以前と同じく精力的に活躍しています。


 ライムは一つ上の二十六歳。

 相変わらず自由に修行や試合に明け暮れる彼女ですが、それでも身体的成長への影響を鑑みて、ほんのちょっぴりだけトレーニングを加減したのが良かったのでしょう。

 五年前に比べたら少しだけ背も伸びて、たったの一センチ強ではありますが師匠であるアリスの背丈を追い越すこともできました。ここ二年ほどはまったく伸びず、どうやらヒト種に比べて遅めの成長期も完全に終わってしまったようですが。



 とはいえ、それも悪いばかりではありません。



「ちょっと残念。でも、これでもう待たなくていい」



 婚約そのものはずいぶん前に済ませた二人が未だに結婚していなかったのは、同年代のエルフと比べてもかなり小柄なライムの成長期が終わるのを待つためでした。


 結婚すれば、遅かれ早かれ子供をどうするかという話が出てくるのは想像に難くありません。将来的な出産リスクを少しでも減らすために、ライムの身体的な成長が完了するまで待とうということが婚約時点で決まっていたのです。両人の実家もその件については承服済み。


 ライムとしては主に打撃攻撃の射程(リーチ)の問題で成長が止まったことを惜しむ気持ちもあったのですが、これでもう結婚を先延ばしにする必要がないのは喜ぶべきこと。戦闘力の向上については別の方策を考えればいいでしょう。

 念の為、ここから更なる体格の伸びがないかとしばらく様子を見ても変わらなかったのを確認し、いよいよこの度の結婚が決定したというわけです。



「俺としては不安もあるが、それについては似たような体格のアリスがあれだけ子沢山になったのを近くで見ているしな。あの一家を見ていると真面目に心配しているのが馬鹿らしくなってくるというか」


「ん。すぐ追い越す」


「う、うむ、お手柔らかに頼む……」



 まあ長々と待っておいてなんですが、ライムの精神力と肉体の強度であればなんの心配もなさそうです。どちらかというと、今のうちから夫となるシモンの心配をしておくべきでしょうか。あえて何についての心配なのかは言いませんが。




 ◆◆◆




 明日は結婚式本番。

 より厳密には、親しい友人だけを集めた一回目の結婚式ということになります。



「シモン君達は明日の式を終えたら、そのまま首都行きだっけ?」


「うむ、城から送迎の馬車を回してもらっておる。首都の神殿でもう一度改めて式を挙げて、その後は親戚への挨拶回りだな。義父(ちち)上や義母(はは)上まであちこち連れ回すのは気が引けるが」


「ああ、ライムさんのご家族ね。もうこっちに来てるのかい?」


「うむ、昼間のうちに魔王の一家と一緒に来て、今は俺の屋敷に滞在してもらっておる。もちろん義姉上(タイム)殿や義弟(セージ)もな。どうもタイム殿以外は慣れぬ旅に疲れて、こちらに着いてすぐに眠ってしまったようだが」



 何度も式を挙げ直すのは面倒ですが、シモンの身分を考えればそれも仕方ありません。

 首都での式は国内外の王侯貴族が大勢やって来て、まず間違いなく堅苦しいものになるでしょう。それよりも前に気楽に付き合える仲間だけを招いた結婚式ができるのは、シモンとライムにとっては大変に嬉しいことのようです。



「それ以外に子供の頃から付き合いのある迷宮都市の友人達にも声はかけたし、あとは騎士団の部下達や領主殿もだな。流石に全員が全員とはいかなんだが」



 一応、権力サイドの有力者であるエスメラルダ伯爵ですが、かの人物なら堅苦しさの欠片もない身内ノリに嫌な顔をしたりはしないでしょう。なんとも楽しげな式になるのが今から目に見えるかのようです。



「ライム」


「なに、シモン?」


「これだけ祝ってもらえるとは、俺達は幸せ者だな」


「……ん。本当にそう」



 嬉しさのあまり涙が出てきてしまいそうな心地です。

 本番は明日だというのに、なんとも気の早いことですが。



「絶対に幸せになろう。皆が呆れ返るほどにな」


「うん。絶対に」



 この日の宴は夜遅くまで続き、そして。

 当事者、関係者の誰もが待ちに待った結婚式当日が訪れました。



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