ちょっとだけ先の未来②
あの式典から三か月くらい経った頃。
騎士団仕事の休日に合わせて日帰りで迷宮都市まで足を延ばしたシモンとライムは、長年に渡って目指し続けていた大きな目標を達成することとなりました。
「やった、とうとう勝てたぞ!」
「ん!」
元々は先日生まれた赤ん坊の顔を魔王宅まで拝みに行くのが目的だったのですけれど(顔合わせ自体は生まれて間もない時期に済ませていましたが)、出産からそれなりに時間も経って妊娠前と同じくらい動けるようになったアリスとリサから久しぶりの試合に誘われたのです。
周囲に迷惑をかけぬよう宇宙空間にまで足を運んで三十分ほど戦ってきたのですが、その結果はなんと二人揃って念願の師匠超え。それも優勢ゆえの判定勝ちなどではない完全勝利。
「ふふ、二人ともお見事です」
「うん、すっごく強くなってたからビックリしちゃった」
師匠コンビ対弟子コンビの二対二でも。
アリスとリサそれぞれを相手にしての一対一でも。
流石に楽勝とまではいかなかったものの、シモンとライムはそのパワーとスピード、磨き抜かれたテクニックでもって、偉大な師匠達を終始圧倒するほどに成長していたのです。
大きな要因としては例の夢の中での戦闘経験およびイメージトレーニング。
更には、真なる神となって一時的に大きな差を付けられてしまったウル達に追いつけるよう、この三か月で積んだ修行のおかげに違いありません。
神でもなんでもない普通の人間が当然のように神々の成長ペースに追いついているわけですが、それについては今更です。忙しい神様業の合間に組手に付き合ってくれた迷宮達も、シモン達についてはもうそういうモノだと認識しているのか、再び並ばれても誰一人として驚きすらしていませんでした。
試合の最中にシモンやリサがうっかり近くの惑星を両断してしまったりもしましたが、それについても得意の概念斬りをなんかこう良い感じに使って元通り。なんの問題もありません。
斬ってこそいませんがライムやアリスも似たようなことはしていましたし、まあ皆で仲良く口裏を合わせて黙っていれば大丈夫な気がしなくなくもありません。少なくとも物証はどこにも残していません。これなら、たまたま望遠鏡で夜空を眺めていた天文学者が驚くくらいで済むでしょう。
さて、話を戻します。
「十五……いや、十四年ほどか。追いつくまでに随分かかったものだ」
「うん。すごく大変だった」
たったそれだけの年月で現役時より遥かに強い元勇者や元魔王に追いつけたこと自体が驚異的なのですが、弟子の身としては長いこと自らの未熟をもどかしく思っていたのです。もしかしたら一生かけても師の足下にも及ばないのではないか。そんな不安を覚えたのも一度や二度ではありません。
ですが、そんな風に自らの未熟を嘆く日々はもう終わり。
もちろん慢心して鍛錬を止めるつもりなど微塵もありませんが、とうとう二人は念願の師匠超えを果たしたのです。この自信はシモンとライムを、より一層の高みへと押し上げてくれることでしょう。
「ふふふ、教えた相手が自分を超えるというのは嬉しくも寂しいものですね」
「うんうん、分かる分かる。ところで、アリス?」
「ええ、リサ。言わずとも分かっていますよ」
が、それはそれとして。
シモンもライムも、自分達の師匠がどれほど大人げない負けず嫌いなのかということを、まだまだ理解しきれていなかったのです。
◆◆◆
そして更に三か月後。
「ま、負けた……」
「……ん」
前回の試合とは正反対の結果に、シモンとライムは大いに悔しがることになりました。無論、修行大好きな彼らが慢心して鍛錬をサボったせいで腕が落ちたなどということはあり得ません。前に比べて少なからず成長して、それでもなおこの結果。
「弟子が自分を超えるというのは存外に嬉しいものでしたが、それはそうと負けっぱなしというのは面白くないですからね」
「えへへ、実はアリスと二人でちょっと頑張ってたんだ」
ですが、師匠二人の成長幅はそれ以上。
シモンもライムも思いっきりコテンパンにされてしまいました。仕事や育児も忙しいでしょうに、ちょっとのヒマを見つけては二人で頑張っていたようです。
その修行や試合の過程でお隣の銀河系が真っ二つになったりもしましたが、事前に生命の存在する星がないことはちゃんと確認していましたし、たぶん問題ありません。例のように天文学者が死ぬほど驚くくらいで済むでしょう。
「ううむ、俺達も更に精進せねば」
「うん。次は勝つ」
負けて悔しい気持ちはあれど、師匠達がまだまだ目標であり続けてくれるのが嬉しくもあり。この師弟二組はこれからも抜きつ抜かれつを繰り返しつつ、異常なペースで強くなり続けていくのでしょう。




