三度目の正直
なんにせよ、『慈愛の呪い』の正体も判明しました。
ただひたすらレンリが恥ずかしいだけ。これといった実害がないのであれば、わざわざ神々が大きな神力を費やして無理に解呪することもないだろうという方向で皆の意見も一致。呪われた本人だけは、その決定に異を唱えていましたが。
それに、逃げ道がないわけではありません。
「ええと、申し訳ありません。私には皆さんが何を仰っておられているのか理解が及ばず。それと、レンリさんはお若いながら非常に優秀な方だとは思いますが、失礼ながらそれ以上思うことは特に……」
「そうそう、そういう評価こそが私には相応しいのだよ!」
あまりにレンリを追い詰めすぎて、心を病んだりしてもつまらないとでも思ったのでしょう。ラメンティアの『慈愛の呪い』には、その効力が及ばない例外が存在することも分かりました。
「その呪い以外のほうの、ええと……夢オチでしたか? 私共と同じく日本や地球の他国から来ている皆さんの多くも同じようなことを仰っていたので、この世界流のジョークというわけではないのでしょうが。何故だか、ここにいる我々数名だけにはそういった覚えがまるでないもので」
「ふむ、出身世界が条件じゃないとすると、ラメンティア君が『夢現』の能力を発動した時に、この世界にいたかどうかが記憶の有無を左右するのかな? 多分、私にかけられた呪いに関しても同判定で。外村さんと、あとそれ以外の私を正しく評価している見る目のある人達は、たしか全員が『今日』の途中で日本側への連絡要員として離れてた顔だったはずだしね」
「私には皆さんが仰る夢の記憶はないので、正直まるでピンと来ませんが。なんだかキツネかタヌキに化かされたかのような気分ですねぇ」
本人達に記憶はないのですが、『今日』の途中で日本側への連絡要員として席を外した外務官の外村氏と他数名はけったいな夢の記憶もないし、レンリを不自然に褒め称えるようなこともありません。
『今日』の途中までこちらの世界にいた部分の記憶もなく、また日本側に移動してから苦労させられたであろう関係者への対応に関する記憶もなし。彼らの認識においては、間違いなく現在は一回目の今日だということです。
そのせいで仲間外れにされたような疎外感はあるようですが、あの徒労感を味わわずに済んだのなら、むしろ数少ない幸運なケースと考えるべきでしょう。
その条件を左右するのは、恐らく『今日』の最後にラメンティアが行使する『夢現』の影響を受けたか否か。仮説を確信に変えるには、ややサンプル数が少ないのが不安でしたが……。
「戻ったぞ。魔王やコスモスにも聞いてみたが、二人とも『今日』のことは覚えていない様子であった。話に興味を持ったコスモスが食いついてきて、逃げてくるのが大変だったが」
「ご苦労さま、シモン君。それじゃ、やっぱり居場所で変わる説で確定か。まあコスモスさんはともかく、魔王さんの記憶は消えてて良かったんじゃない? 自分がどんな風に挑発されて本気激怒したかなんて、思い出すたび嫌な気分になりそうだし」
「うむ、俺も同意見だ。あの男はとぼけた顔で呑気に親バカをやっているのがお似合いだ。ははは、それにしても隙あらば他人の気遣いとは、レンリはやはり優しいな」
「こ、こらぁ!? だから、そういうイジり禁止って言っただろう!」
『今日』が終わる寸前でしたが、魔王とコスモスの二人は『夢現』が使われる少し前に地球へと戻っていました。その二人に『今日』の記憶がないならば、レンリの仮説で正解でしょう。シモンから身に覚えのない『今日』について尋ねられたコスモスは忘れたのを残念がっていたようですが、こればかりは仕方ありません。
どうやって呪いと付き合っていくかは今後の課題として、今すぐに調べられるのはこんなところでしょうか。そろそろ予定時刻も近付いて、周囲の人々も動き始めているようです。
「おっと、皆そろそろ着席し始めた頃合いか。俺も警備に戻るとしよう」
「はいはい。それじゃ、お仕事頑張ってね」
現在時刻は正午より少し前。
レンリ達にとっては『今日』に続いて二回目の、運命剣がいた歴史を含めるなら三回目になる、世界の道筋を変える式典がもう間もなく始まります。
◆◆◆
壇上に上がった女神は集まった人々に向けて言いました。
『この世界は、本日をもって新たなる形へと生まれ変わります。八柱の神々が統べる理想の世界へと』




