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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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二度目の今朝と呪いの謎


 夢オチの影響はやはり仲間内だけでは収まらなかったのでしょう。

 レンリとウルが街中を歩いて観察した範囲だけでも、道行く誰も彼もが妙に疲れた顔をしています。いえ、別に肉体的な疲労や夢の中で負った怪我のダメージが残っているわけではないのでしょうが。



『なんだか、皆疲れてるみたいなの』


「同じ日を二度繰り返すのって思ったより心に来るよね」



 例えば、終わらせたはずの仕事がそのまま手付かずで残っている。

 やり終えたはずの宿題が真っ白なまま。

 稼いだはずのお金が財布のどこにも見当たらない。


 決して取り返しが付かないわけではないものの、一度した苦労をもう一度しないといけない徒労感。それが人々の表情を曇らせているのでしょう。我慢しようと思えば我慢できなくはないくらいの塩梅なのが、また絶妙に心に来ます。


 もしかしたら前回の『今日』にギャンブルで大負けしたのがチャラになったような幸運なケースもあるかもしれませんが、そんな数は全世界ひっくるめても知れているでしょう。



「あ、いたいた」



 現在レンリ達はルグやルカに会うべく待ち合わせ場所に向かっていたところ。自身の一部を小鳥に変えたウルが彼らの自宅に飛んで行き、一旦集まって話し合おうと学都中央の広場まで呼び出した形です。



「やあ、おはよう二人とも。良い朝だね……とは、言い難いかもだけど」


「ああ、やっぱり夢じゃなかったのか。いや、夢なんだけど……」


「う、うん……すごく、疲れた感じ……」



 やはり、彼らにも『今日』の記憶はあるのでしょう。

 諸々の後始末に関しては大幅に手間が省けた面もあるとはいえ、それで素直に喜ぶにはあまりにも徒労感が大きすぎる。痛くも痒くもありませんが、ただひたすらに心が重い。先程旅立ったばかりのラメンティアが高笑いする姿が目に浮かぶかのようです。



「あ、そうだ。キミ達にも言っておかないと」



 女神と他の迷宮達にはウル越しに伝達済みですが、便利な念話が使えない仲間達はまだラメンティアおよび運命剣の無事を知りません。

 知らなかったから今すぐどうこうなるわけではありませんが、これから先、この世界にはある意味で大津波や隕石の落下よりも危険な災害が気紛れでそこらをうろつくことが決まってしまったのです。


 知ったから対処できるというものでもありませんが、そういう存在がいると知っておくだけでも多少は気構えも違ってきます。単に諦めが付きやすくなるだけとも言いますが。



「そうか。いや、聞いたところで因果がどうとか意味分からなかったけど」


「わたしも……でも、生きてたのは……良かった、かも」


「安心したまえ、ルー君。私にも全然分かってないから。あとルカ君は優しいね。これからも、そのままのキミでいてくれたまえ」



 先程のマールス邸での一連の流れを説明すると、ルグもルカも余計に困惑を深めるばかり。彼らが知ったところで何か一つとして問題が解決するわけではありませんが、まあ同じ苦労を分かち合って少数で抱え込むよりマシな気分になれるのが友達という存在の利点です。



「そういや、レン。その呪いっていうのは大丈夫なのか?」


「ああ、アレね。もしかしたら時間経過で効果が表に出てくるのかとも思ったけど、少なくとも今のところ自覚できるモノは何もなさそうかな。もしかしたら、剣の私とグルになって私をビビらせて遊んでただけって線かもしれないね」



 例の『慈愛の呪い』についても進展はなし。

 ウルによると、あのタイミングで神力が行使されたのは確かなようですが、彼女が見ても詳細はよく分かりませんでした。どうやら件の呪いには、その正体を見破られにくいようにする効果も盛り込まれていたようです。


 ウルや他の神々がそれ以上の神力を費やした『奇跡』を使って見極めれば判明するのでしょうが、わざわざその為だけに神力を消費するには二の足を踏むほど大きなチカラが込められているのだそうで。



「今すぐ死ぬようなものじゃなさそうだし、呪いに関しては一旦保留でいいか……それよりも、なんだか周囲の視線を感じるね。お喋りの声が大きかったかな?」


「いや、あの空に映ってたのとかアイのアレとかで、レンの顔を見た人が多かったせいじゃないか? 俺達も映ってたみたいだけど、お前ほど目立ってはなかったと思うし」


「なるほど、そのせいで顔が売れちゃったのかもね」



 『今日』の騒動の中心、すなわちラメンティアの近くで会話や戦闘をした面々の姿は、その注目度合いに程度の差こそあれ全世界の皆様に余さずお送りされてしまったはず。


 元々レンリについては学問分野の功績や奇行多めの変人として学都内ではそれなりに顔が知られていましたが、夢の中の事件が更なる知名度アップに繋がったと解釈すれば一応の筋は通るでしょうか。



『ねえねえ、お姉さん。お話が一段落したなら早くご飯食べに行くのよ』


「ああ、そうだったね。いやさ、朝食の半分を例の彼女達に奪われてしまったものだから物足りなくてね。これから外で何か食べようかってウル君と話してたんだ。そうそう、財布がカラッポだから先に銀行にお金下ろしにいかないと。ちゃんと営業してるかな?」



 朝食を横取りされなかった『今日』においてもレンリ達は朝食のハシゴをしていたので、ここの判断については前回とあまり変わりません。

 全世界の人々が精神的に疲弊した状況では臨時に商売を休むお店があっても不思議がないため、飲食店や銀行がキチンと開いているかが心配ですが。まあ全部が全部残らず閉まっているはずもなし。『今日』とは店の選択を変えるなり友人達の財布を頼るなどすれば、朝食ツアーに大きな問題はないでしょう。



「おや? なんだか、さっきより更に周りの視線を感じるような……ま、深く気にすることもないか。一時的に有名人になったとしても、ほとんどの人は知り合いでもない相手の顔なんてすぐ忘れちゃうだろうし。さあ、それより早くご飯食べに行こうよ」



 レンリは気付いていませんでした。

 恐るべき『慈愛の呪い』は、早くもその効果を及ぼしつつあったのです。


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