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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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彼女が夢見た世界にて


「……オーケー、私は冷静だ。まず状況を整理しよう」


 最後の最後で勝ち逃げされたのは、もうこの際受け入れるしかありません。

 多大なる敗北感と徒労感についても、もはや苦情を入れる相手はどこにも見当たらないのです。本当に冷静な人はあまり言わなさそうなセリフを呟きながらも、レンリはどうにか前向きな方向に思考を働かせようと努めました。



「ええと、まずは現状確認だね。ウル君、悪いんだけど」


『うん、他の皆に聞けばいいのね?』


「そういうこと。特に神様のメンタルがどうなってるかは最優先でね」



 今のところ今日ならぬ『今日』についての認識を共有していると確認できたのは、同じ部屋で暮らしているレンリとウルのみ。可能性は極めて低いものの、二人だけがそっくり同じ夢を見た可能性も完全には否定しきれません。その場合は夢オチならぬ普通の夢だったということになりますが、果たしてどちらがマシなのかは判断に迷うところです。



『ふむふむ……やっぱり、他の皆も覚えてるみたいなの』


「じゃあ、やっぱり夢オチで正解か。それよりも神様は?」



 二人だけなら偶然似た夢を見ることも絶対あり得ないとまで言い切れないかもしれませんが、これが十人近くとなれば否定する材料としては十分すぎるほどでしょう。


 あのワケの分からない『今日』は実際にあったことだというのは確実として、まず第一に確認すべきは女神の精神状態についてでしょう。


 詳しい確認はこれからですが、夢オチで様々な物事がなかったことになりました。

 壊れた建物を修理したり怪我人を治療する手間が省けたのはラッキーくらいのものですが、それ以外の何がどのくらい元通りになっているかは不明瞭。


 特に女神が溜め込んだストレスがまたも満タンになっていたら最悪です。

 『今日』の苦労が完全に水の泡となってしまいます。レンリや迷宮達が近くで警戒していれば簡単にはできないでしょうが、下手をすればいつまた自殺を計画するかも分かりません。



『あ、それは全然大丈夫っぽいの。夢オチのせいで頭を抱えてはいるみたいだけど』


「それについては他の皆も同じだもんね。その程度なら、また死にたがる心配はしなくて大丈夫か」



 元々、女神の抱えていた問題は内面的なモノ。

 レンリや迷宮達を見れば分かる通り、記憶や精神状態については『今日』からそのまま持ち越しているようです。様々な事象が元通りになったとはいえ、女神のメンタル面が改善された点さえそのままならば同じ『今日』を何度も繰り返すようなことにはならないでしょう。



「そういえば。今気付いたけど、アイ君がやったあのテレパシーっぽいの。アレは消えてるみたいだね。便利だったから少し残念だけど」



 起きた直後から混乱していて気付くのが遅れていましたが、アイが『夢現』で全人類プラスαに目覚めさせた超感覚は綺麗さっぱり消えているようです。

 まあ、これに関しては諦めるほかないでしょう。

 利便性については大したものでしたが、あの感覚がそのままずっと残り続けたら、いずれは悪用される可能性や思考の風通しがよくなりすぎることの弊害も出てきたはずです。惜しむ気持ちはあれど仕方がない。むしろ、これについては夢オチと同時に消えてなくなったのがラッキーだったかもしれません。



『そうそう、アイで思い出したんだけど、あの子ってばまた赤ちゃんに戻ってるみたいなの』


「へえ、そうなの? アイ君とはゆっくり話すヒマがなかったから、それはちょっと残念かな。まあ、それについては普通に成長した彼女とお喋りできるのを楽しみに待つとしようか」



 アイについては元通りの赤ん坊になってしまったようです。

 とはいえ、迷宮達はまだまだ育ち盛り。

 やがては大きく成長して、立派なレディになってくれることでしょう。

 あの未来から来た運命剣も、その点についてはバッチリ保証していました。



「そっか。ラメンティア君だけじゃなくて、剣の私ともあれっきりお別れってことになっちゃうのかな? 神様が死ななくなったのなら、もう私がそんな風になって歴史を変える必要なんてないだろうし。いや、私のことだから今度こそは純粋な好奇心や面白半分で歴史の改竄を企む可能性も……?」


『こらこら、そんなことさせねぇの』


「ははは、軽い冗談さ。ただ、ちゃんと挨拶できなかったのは正直心残りかな」



 レンリ達が最後に見た運命剣はラメンティアの胸に刺さった姿。

 唐突な思いつきでいきなり全部を夢オチにされたせいで心構えも何もできていなかったとはいえ、別れの挨拶すらもできなかったのは少々残念に思えました。



「……ま、仕方ないさ」



 とはいえ、運命剣がこの時代に来る必要などなくなった今この今日こそが、彼女が長年に渡って願ってやまなかった本懐でもあったはず。当初考えていたのとは違う形だとしても、未来のレンリの夢は叶った。その頑張りは間違いなく報われたのです。その喜びを共に分かち合えないのは、やはり少しばかり寂しいものがありますが。



「とりあえず、今すぐに確認できるのはこんなところかな? あとは迷宮以外の皆とか、一般の人達とかにも同じ記憶が残ってるかの聞き取りと。この世界だけじゃなくて地球や魔界にも夢オチの影響があるか調べるのと……あ、そうだ。今日の式典ってちゃんと時間通りやるのかな?」



 一抹の寂しさを振り払うかのように、レンリは別の話題を振りました。

 もし全人類が同じように『今日』の記憶を残しているなら、多少なりとも混乱が生じることでしょう。元々は本日正午に予定されていた式典にしても、そのまま『今日』と同じく決行されるかどうか。

 そのあたりは女神や各国のお偉いさんが話し合って決めるのでしょうが、もし予定時間等に変更がないなら着替えやら何やらの準備にそれなりの時間が要るでしょう。



「ま、別に今日中に何もかも全部調べて対処しないといけないわけじゃないしね。とりあえず、着替えてご飯でも食べようか」



 これから何をどうするにせよ、寝間着(パジャマ)のままで出歩くわけにはいきません。寝起きの混乱から時間が経ったことで、レンリにしては非常に珍しいことに今まで忘れていた空腹についても思い出しました。



「ふふ、たしか『今日』の朝ご飯はサンドイッチだったかな?」



 いわば、今日限定の予知能力のようなものでしょうか。

 『今日』体験した物事の多くが変わるのはまず確実ですし、それこそ朝食のメニューを当てるくらいしか使い道のない未来予知ではありますが。


 着替えを済ませたレンリはウルと一緒に階段を下り、一階の食堂に用意されているであろう朝食にありつこうと扉を開けて……。













『くかかっ、やっと起きてきおったか寝坊助共め。あんまり遅いものだから、そなたらの分の朝食を勝手に食い始めておったところだ。ご馳走さま!』


『やあ、おはよう私。ははは、この家でご飯食べるのも久しぶりだね』



 ラメンティアと運命剣。

 消えたはずの連中が、なんか普通にメシ食ってました。



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