さよならはとつぜんに?
夕食を済ませた遼一たちは静かに家を出る。その後姿はどこか寂しげだ。そして、青い木々に囲まれた神社にやってくる。
「なんだか……終わってみると、あっという間だったな」
「だな」
「いやー、ダブルブッキングしちゃった時はどうなることかと思ったけどさ、先生がやって来てくれて助かっちゃった」
「ほうか」
鈴虫の音色が聞こえてくる。いや、初めから耳に届いていたのだろうが、それに気が付いていなかっただけか。天然モノは風情があって素晴らしいな。
「いつまでかけてんの」
「何を」
師匠は指で作った輪を目の辺りにもってくる。
「あー、忘れてた」
「いや、忘れねーだろ」
「それがさ、ずっとかけてると気にならなくなんだよ」
「ホントかよ」
「マジだって」
「ふーん」
木々がざわざわと音を立て、程よく冷えた風が僕の体を撫でていく。天然モノは風情があ……いやいや、どうしたお二人さん。いつもの元気はどこいった。
「その服はやっからさ」
「え、素っ裸で行かせる気だったの」
「違うって。お前が着てた服は別にあんじゃん」
「そう……だったね。そういえば」
「だからさ、今、俺のクローゼットには同じのが二着あるのがあるんだよ」
「TARUTOとかさ、いっつも同じ服着てるじゃん」
師匠は目を細めて顔を軽く傾ける。
「でもさ、さすがに毎日同じ服着るのは汚いだろ」
師匠の表情は変わらない。
「つまりだよ、彼らのクローゼットには同じ服が何着も入っているのだよ」
「意味分かんねーよ」
僕が思ったことを師匠はそのまま代弁してくれた。
「それで俺は、また同じ服着てるねって笑われるわけだな」
「そんなことないって」
先生は笑いながら言った。そして、その笑い声を遮るように師匠が口を開く。
「忘れ物はないか」
先生は上がっていた頬を戻して答える。
「ない。そもそも何も持ってきてない。携帯は壊れちゃってるし」
「こっちに来た時にはもう壊れてたんだっけ」
先生は黙って頷く。
「新しいの買ってもらえ」
「大丈夫かなー。生意気なこと言いまくってしまった」
「何を言っておる。それはこっちの母さんにだろ。お前の世界の母さんには関係ないじゃん」
「あ、そうだよね」
「色々とありがとな。楽しい一週間だったぜ」
「それは俺の台詞だ」
「この一週間のことは忘れないから」
「おうよ、俺もだ」
二人は右手を軽く上げて見つめ合う。
「それじゃ」
「またな」
二人の体勢はしばらくそのままだった。
「どうした」
師匠は痺れを切らしたようだ。
「いや、どうしたもこうしたもさ」
「寂しいのは俺も同じだけどさ、早く帰った方が良くねーか」
「俺も早く帰りてーよ」
先生は辺りをうろうろと歩き始める。
「おいおい、どうしたんだよ」
「だからさ、俺はどうやって帰るんだよ」
先生の口調は荒い。
「こっちに来た時と同じように帰れば良いんじゃねーのか」
「お前、簡単に言うけどさ。俺は穴か何かに落っこちてきたんだよ」
「その穴とやらにまた落ち」
「だーかーら、その穴がどこにもないんだよ」
「そしたらお前、どうやって帰るんだよ」
「分かんねーよ」
「先生はさ、今日のデートをなんとかするためにやってきたんでしょ」
そんなわけあるか。
「先生はその目的を果たしたわけじゃん。だから、もう帰れるんじゃねーの」
「俺だって帰れるなら早く帰りてーよ」
先生は泣きべそをかいている。だらしない奴だ。
「どうすんだよー」
師匠の間抜けな声が辺りに響き渡る。
お気楽な奴らだな。まさかとは思ったけど、自分たちの都合が済んだら、勝手に先生は元の世界に帰れると思ってたのか。そしたら僕の仕事は必要ないじゃないか。まあ、良い。とりあえず、これまでのことをレポートしておくかな。あいつはこうしてドッペルゲンガーと生活することになりました――と。
ごめんなさい。大分遅くなりました。
中途半端なところで終わってますが初期の構想通りです。
続きの構想もあるので需要があると良いのですが……。




