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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第参章
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ユビキリ ノ伍拾漆


くすり、と笑いが漏れてしまった。

白いベールを被った少女は、大人びた表情で不思議そうに問いかける。


 「どうかした?」

 「相棒が押し切られて、頻繁に顔見せしなくてはいけなくなった時の事を思いだしていた」

 「ああ、記憶が無くなってた時の話? 娘さんが私と同い年っていう人よね。私、なんだかんだ言って白梅さんとか、その周りの人たちに会ったこともないのに、昔から知っているような気がする」

 「俺の話の手持ちの中で、面白いのはあいつの話くらいだからな」

 「……もう。眉間にしわ寄ってるくせに嬉しそうって、相変わらず器用な表情するわね」


指摘されて、露草はますます何とも言えない顔になった。非常に自分が薄っぺらい人生を送ってきたような気がする。

それでも、その中で出会えた人の人生で、こんなに喜ばしい時に立ち会えるとは思いもよらなかった。


 「めでたい日に、あいつの話はもういいだろう」

 「自分がし始めたのに。まあいいわ、今日は来てくれてありがとう……」


早くも潤み始めた瞳を見て、こらと軽く声をあげる。


 「嬉し泣きは、せめて入場した後にしろ。花嫁は最高に美しい姿で、花婿のもとに行ってやらなければ」

 「ふふ。お父さんなら、もっと不細工な顔になって行ってしまえって言うかも」

 「言いそうだ」


ここに来る前で立ち寄ってきた親族の待合室では、早くもボロボロと泣いていた。

むさくるしい髭を切っているから、何とか父親らしく見えるもの、いつもの風貌で式に参列していれば、目が血走った不審者として会場から連れ出されるかも分からない。


 「昨日ね、入籍した後で一人。両親の前で挨拶したの。気恥ずかしかったけれどね。でも、露草が言ってくれなきゃ、やっぱり後で後悔したのかもね」


思ったとおり号泣していた父親と、優しく抱きしめてくれた母親の姿を思い出して、また桔梗は涙ぐむ。


 「だから後悔しないために、もう一人の父親にも言っておくことにする。露草……じゃない、父さん。今までありがとう、長い間お世話になりました」

 「――ッ!」


まさか、自分が言われるとは思っていなかった言葉だ。

じわじわと灯っていく明かりのように、脳内にしみ込んでいき、それを長く留めておくように、ゆっくり目を閉じる。


 「俺は父親らしいことは、何一つしてやれなかった。クマの養子になってからはまだしも、アイツが結婚してからは特に、顔を出してやれなかったし」

 「ううん。短かったけど旅をしようって言ってくれて、嬉しかった。そう言ってくれたからリハビリを頑張れたし、旅する中でまた世界は楽しくなった」


――大好きな、もう一人の父親だよ。ありがとう。


一年を過ぎる旅の道中、外国にも一緒に渡った。

桔梗はその時の事を鮮明に覚えていて、今となっては露草としか話さない異国の言葉で、感謝の言葉を口にする。

挨拶の口づけと抱擁は、露草と松平家の一員にしかできなかったが、これからはまた一人。

大切にしたい、と思える家族が増えたことの喜びをかみしめながら、桔梗は腕に力を込めた。


 「絶対、また会いに来てね。今度は白梅さんも連れて。約束よ?」


散々話したせいか、自分とも約束、と小指を差し出される。

こんな事しなくても忘れないと思いながらも、指をからめ、子どもじみた約束の儀式を交わす。


 「おめでとう。幸せになれよ」

 「ありがとう!」


これまでにない、とびきりの笑顔を浮かべた娘は、とても誇らしく見えた。



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