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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第参章
50/66

ユビキリ ノ肆拾漆


甲高い連続音が辺りに響いていた。

排気ガスと食べ物の匂いが混在する横では一人の男が佇み、寒い冬の日だというのに薄手の服にロングコートを羽織っただけの格好でぼんやりと空を見上げている。


こんな場所で食べ物を売ろうとするなんて、店主はよほどの物好きか、それとも気が触れているのかもしれない。


けれどそんな意見が正当性を主張するには些か分が悪かった。

何しろ売る状況の適正云々を論議するより先に、売れる場所と予算を検討したらこの地所が合致したのだから。第一、今の時代にそんなことを気にするほど繊細な人間がいるはずもなかった。



 「ほれ、温かいよ」

 「・・・ありがとう」


さりげなく言ったつもりだったが、目の前にいる男はにやりと笑った。気恥ずかしいのでそっぽを向きながら、差し出された包みを奪い取る。


 「甘いな」

 「餡子は苦手じゃなかろ?」

 「まあな・・・・・・それより、白梅」

 「うん?」

 「いい加減、その口調を止めたらどうだ」

 「まだ言っとるん、それ」


つい先日、彼らは日本へと到着したばかりだった。パスポートなどは長年培ってきた人脈の中でどうにかしたが、最近の欧米事情には詳しくとも、日本のこまごまとした地形にはまだ慣れない。

目的もなくぐるぐると歩き回って、ようやく食べ物屋を見つけて甘い菓子を購入する。そのように辺りを散策している時には、やはり時代が変わっても白梅のような銀髪は珍しいらしく、好奇の視線を集めてしまう。その視線は外国でも見受けられるので、本人たちは全く意に関せずといった様子だが、事情を知らない者たちからすればその場慣れしている感じがモデルか俳優か――、有名人ではないかと期待をかけたくなる。


けれどどこに行っても故郷、という感じなのですっかりいつもの調子を取り戻し、最早おなじみとなったやりとりを繰り返すも、白梅に口調を改める気はさらさらないらしかった。



 「お前の容姿に加えて、さらにその口調が目立つんだ」

時代を考えろ、時代をと恨めしげに繰り返される小言も、白梅はどこ吹く風だ。

 「といっても。癖になっとるけえ、今更変えられんよ」

 「気持ちは分かるんだがな・・・」


やろうと思えばやれるくせに、と露草は愚痴るのを忘れなかった。

威圧感を出そうとしたり、高位の人物に対する時だったり、所謂標準語や格式ばった物言いを苦もなくやってのける。使い分けることが、彼には可能なのだ。それを長年一緒にいる露草は知っていた。以前はてっきりどこかの方言が身についてしまって、それ以外話せないのだとばかり思い込んでいたが。


 「いろんなものに慣れておくゆうんは、損にはならへん」

 「・・・・・・俺が、慣れないんだ。お前の中では整理が出来ているのかもしれないが」

 「ええやん、方言いうてもいずれ混ざると思うよ」

 「そうやって俺はいつまでも言いくるめられるんだよな」

こうやって諦めるのがいつもの調子で、やはり今回も同じだった。それは予想していたので、しつこく掘り下げる事でもない。



以前は散切り頭が目立っていたが、今では日本人男子のほとんどが散切りなため、総髪姿の方が目立つ。髪がかなりのびた白梅と露草、二人とも今は髪を結った総髪姿だった。いずれどこかで切ってもらわなければと思いながら、面倒で結局このままでいる。

それに、髪が長いとそれなりに利点もある。寒いときに髪を下ろせば少しは温かい。とはいえ、その利点を挙げているのは白梅だけだったが。


髪を垂らしておくなどという髪型は女子のようだと、露草は頑として受け入れようとしなかった。白梅の髪形については既に諦めたようだが、この調子ではたとえ北の大地で雪に埋れようと髪を垂らすなど考えもしないだろう。

けれども本当に命の危険性が感じられる場合には、自分がきちんと説得せねばなどと、かなり的外れな助力の仕方を決意していたのはもちろん白梅である。


最近では、相棒という言葉で二人を括ってもいいほどになってきていた。

露草は家族と決別し、未練がないとは言えないだろうが本人の言うとおり後悔はしてないようだったし、目の前と横をしっかり見るようになった。それは人間的な意味でもだ。


ちょっとずつだが白梅という存在が認められて、頼られているようにも感じる。それは世界での身の振り方という白梅が持つ主導権だけの話ではない。少しだけだが精神的な弱さを一方的に感じ取るだけでなく、本人自身が晒しているように思えるときもある。そんな僅かな変化が、まるで何十年、何百年と持っていなかった家族の繋がりのようにも思えて、嬉しいことこの上ない。

彼の天邪鬼な性格は分かっているので、わざわざそれを言う事はないだろうけど。


そんな白梅に心を許し始めているのを露草自身も自覚しているようで、それに反発したい気持ちを抑えているようだった。というか、どこか諦めて開き直っている節さえあった。



 「今度は肉まんが食べたいねえ。甘いものばっかりやと、どうにも飽きてしまう」

 「お前が率先して甘いものを買ってくるんだろうが」


甘党の明良につられたのか、露草は案外甘いものが嫌いではない。それを知っているからこそ白梅がわざわざ買い求めている、なんていう裏話もあったのだが、そんなことを知る由もないのだから露草が口を引き垂れても仕方がない。


かくいう白梅にもやり過ぎた感は否めなかったので、毎度の食事に栄養のつくものをきちんととれる環境を早々に整えなければ、と半ば主婦じみた思考をめぐらしながら、白梅はまた甘い匂いのする菓子を頬張った。



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