ユビキリ ノ弐拾壱
「まあ、清ちゃんたちのお客さま? お侍さんと、やっぱりそちらもお武家さん?」
町人にしては鋭い雰囲気を持ち、商人にしてはのほほんとした雰囲気を持っている二人が珍しいのか、繁々と観察していたが、やがてはっとしたようにすいませんと囁いた。
「お良ちゃん?」
「じろじろ見てしまって・・・またはしたないなんて怒られちゃう。お武家様方、あいすみません」
「お気になさらず」
「散切り頭に総髪の二人組なんて珍しかろう。気のすむまで見て構わんよ」
見た目以上に真面目で寛容な二人にますます興味を弾かれたのか、お良は目を輝かせる。
「お武家様はどこの出でいらっしゃるんです? 私はここから出たことがないから、なんだか新鮮だわ」
「そうじゃねえ。色んなとこをまわっておったから、もうどこの言葉かよう分からんくなってしもて」
「へえ! じゃあ、港町なんかも行ったことが? 海の向こうの人を見たこともあるの?」
「見たことも喋ったこともあるなあ。他の国に行ったこともあるし」
「すごいすごい! もしかして、お武家様じゃなくて先生なの? ややわぁ、頭悪いのがばれてしまうし。あ、でも清ちゃんおるからちょっと安心や」
どういう意味や、と顔をしかめて見せた清治郎に、そういう意味やと返すお良の掛け合いには、年季を感じる親しみが見え隠れしていた。
「けどこんな凄い人たちと知り合いなんて全然知らなかったわ。清兄さんも清ちゃんも教えてくれんかったし。出し惜しみしとったん?」
じろりと横目で睨みながら、拗ねてみせたお良に慌てた清治郎とは反対に、清一郎は困ったように笑みを返した。
「昨日知りあったんよ。つぶれたせーじを送ってくださってね、昨夜からうちに泊まって・・・」
「せーち!」
遮るように叫んだ清治郎を少し目を丸くしながら見つめると、お良は大人びた笑みを浮かべた。
「なあに、またお酒でひっくり返ったの?」
僅かに頬を赤くしながら俯いた男の顔から正解を読み取ったらしく、ほどほどにしなさいね、と窘めるように釘をさすのを忘れない。
「清ちゃん相手にしてる場合じゃなかったわ、そういえば。これね、兄さんがそろそろ花見する頃だろうから、こっそり持っていけって」
「これはすまんねえ。お客人もいるし、なんやええ酒買ってこよう思てたんやけど」
「丁度よかったみたいね。・・・ええと、名乗るのを忘れてまして失礼いたしました。わたくし、栗町良と申します」
「どうもご丁寧に。私は河野露草と申します」
「私は河野白梅いいます」
にこりと白梅が笑うと、お良も笑いかえす。しかし、頬を染めてはいなかった。
ちらりと清治郎を見た後で、また清ちゃんがひっくり返らないように見てあげてくださいね、と悪戯めいた笑みを浮かべたお良は、清治郎に噛みつかれる前に「ほんとの事やないの」とぴしりと黙らせた。
「えらいしっかりして、可愛い娘さんやねえ。清治郎さんが惚れるのも分からんでもないわ」
「・・・・・・ッ!」
爆発しそうな勢いで顔を真っ赤にさせた男女を見た後、ぴったり同じ仕草で顔を青くした兄と弟を見ていた露草は、同じく隣でその様子を眺め、爆弾を落としてくれた白梅を蹴飛ばしてやりたくなった。