第3話 次期魔王
☆ヤマダ王国国境、聖王国軍本陣
「まさか、1日?いえ、討伐記録は初日不算入だから、0日?で3人の勇者を・・・対勇者戦闘団の佐々木は相当な手練れね。魔道水晶で記録は取れなかったと?」
「聖女様、御意にございます。記録は取れませんでした。あの馬無し車に追いつきませんでした」
ここは、ヤマダ王国の国境付近、聖王国軍と魔王軍が対峙していた。
ヤマダ王国から帰ってきた斥候の報告で、聖王国軍本陣に衝撃が走った。
「お~い、聖女ちゃん」
魔王アキラが聖王国軍の斥候が帰ってきたのを確認して、飛んできた。
騎士達に、緊張が走る。本陣の上空30メートルに魔王は滞空する。
「お~い。約定だ。うちのお姫様が、やったぞ。兵を引けや!」
「ええ、そうね」
(監視が名目で出兵したけど、本当は対勇者戦闘団の戦闘を映像で記録するために来たのだけどね。失敗したからさっさと撤退するわよ)
「どうせ、隠し撮りする気だったのだろう?」
「そんなことはないわ。皆・・・帰るわよ」
「待ちな。これ、お姫様からだ、ほれ」
魔王は、黒い箱を聖女に投げた。
「聖女様、危険です!」
護衛騎士が止めようとしたが、
聖女は自らキャッチする。
「!これは、ドランホランの無料お試しセット?!」
「ああ、前に約束しただろう?だから、渡すわ」
前に魔王アキラは、聖女に日本の化粧品を渡すと約束していた。約1年経過して、やっと、渡すことが出来たのだ。
・・・〇―ラは、止めてと言って、ドランホラン?これも高齢女性向け。
もしや、佐々木は、『BBAにはこれで充分よ!』という嫌みのメーセージ?
いえ、勇者を初日で倒す人よ。
そんな嫌みをするわけはない。
私は四捨五入をすれば、まだ、まだ、20代前半・・・若いのは周知の事実。
「おーい、聖女ちゃん!」
もしかして、若いうちから、肌の保湿をしっかりしなさいというわけね。
若い時から、ゲートボールをやれば、老人になったときには、プロになれる道理・・・
「おーい、聖女ちゃんいらないなら、返してよ。マキナちゃんにプレゼントするからよ!」
「い、いらないとは言ってないからね。もらうわよ!フン!」
こうして、聖女は、念願の化粧品を手に入れることが出来た。
一方、アズサは
☆ヤマダ城
「「「真の勇者様!!」」」
大歓迎を受けていた。
対勇者戦闘団のメンバー10名が、アズサと共に入場し、その他の者は城外で待機である。
「さあ、クランの皆様もワインをどうぞ!」
「いえ、勤務中ですので・・」
「「「さすが!真の勇者様の眷属殿」」
勇者が始祖の国、初代、国王、タロウ・ヤマダは黒髪に黒目。アズサも黒髪に黒目である。
ヤマダ王国の国民の感情はマックスになる。
王座に座さられて、ヤマダ王自ら、接待する勢いである。
「さあ、勇者様!ワインをどうぞ!」
「・・・いえ、まだ、未成年・・」
「これは失敬!侍従よ。果実汁を持って来い!」
「はい、季節ではありませんが、必ず見つけて参ります!」
「・・・水でいい・・煮沸して冷やした水が欲しいです」
「「なんて、質素な!似非勇者とは大違いだ!」」
・・・何を言っても曲解されるわね。さて、いつ、話を切り出すか・・私が魔王軍の一員であることと、法王殿との取り決め。
ヤマダ王国を魔族の経済圏に組み込むこと。
教義上、女神教徒は、魔族と条約は結べない。
だから、人族の私個人と結ぶことになる。
歪んでいるけど、これしかない。
しかし、凶報がもたらされた。ヤマダ王国の者にとってはだ。
「魔王が城、上空に来ております!」
「「「何!」」」
「真の勇者殿はお疲れだ!我等がやるぞ!」
「「「おう!!!」」」
「いや、いいです」
☆城の中庭
「あれ、アズサ、どったの?」
「魔王様、助けて下さい・・・何を言っても、真の勇者・・と言われます・・」
魔王アキラは、瞬時に、状況を理解した。そして、計画を実行に移す時が来たと決断した。
ヤマダ王国の王、重臣の皆が城から隠れ見ているのを確認し、
腰を落し、右腕を差し出し、手の平の内を上に向けて、
「姫勇者様、ご苦労様です!」
とあたかも臣下のような態度をした。
「????魔王様」
「しっ、口裏を合わせろ」
魔王の計画とは、アズサを次期魔王にすることである。
「「「うおおおおおお、真の勇者殿は、魔王を従えているぞ!」」」
・・・ああ、何か、取り返しの行かないところまで来てしまったようだ・・・
結局、勇者討伐の次の日に、帰国することにした。
後日、イワンさんの行政官を派遣して、交易の条約を結ぶ。
そして、この国をモデルケースにして、交易の不具合を洗い出し、魔族領と女神圏で本条約を結ぶ流れだ。
魔族との交易は、闇商人が行っていたが、国レベルではこの世界では史上初になるであろう。
問題が山積みだ。
魔王様から、次の魔王になれと言われたけども、
「魔王様は・・・どうするのですか?引退するには早いですが・・・・」
「新婚旅行するさ。魔族長になって、お前を支えるぞ!」
「いや・・・他の部族の方々は?」
「皆、大賛成さ。アズサが総督をしていたときに、根回しをしていた。マキナちゃんと一緒にな!」
「うわ、私には無理」
「いや、魔王機関説だ。これからは武力では無く、統治能力のある奴が治めるのが丁度いい。それに、どっかの国の憲法みたいに、解釈や運用で誤魔化すのはあまり良くない。前例が出来て、結局、憲法の意味が無くなるからな」
・・・人族の私が、魔王になれば、女神圏とも交易や友好条約も、教義上も可能。
一度、可能になれば、私の次の魔王が、魔族でも条約は有効であると、法王が声明を出すと云う。
うん?
「まさか、魔王様、法王殿と会ったのですか?」
「アハハハハハ、アズサと会う前にな」
「やられた!」
その後、魔王は城に入らず去って行った。
☆ヤクーツ城
ブロブロブロ~
城では、夜、発電機の音が響いている。
アズサが召喚したゲームステーション5を大型モニターで、魔王アキラと、骸骨博士が興じている。
一応、大きさを確認するために、アズサが召喚したのだ。
「アキラ君!骸骨博士、げーむは1日、2時間の約束だよ!」
「え~、二人だから、4時間、お願い!マキナちゃん!」
「アズサ魔王様!強制的に止めて下さい」
「はい」
アズサは、プチン!とコンセントを抜いた。
「アキラ君!アズサ様を助けないと!明日は朝、早いのよね!」
「母ちゃんが二人いるみたいだ!」
「後生じゃ、もう少し頼むのじゃ」
「・・・骸骨博士さん。1000歳は越えているわよね」
マキナさんが、女将さんみたいに、アキラ様を尻に敷いている。
これから、忙しくなるのと、対勇者戦闘団の皆とは疎遠になるかも。
最後までお読み頂き有難うございました。




