第1話 勇者災害
「ほら、幸子ちゃん。やってみよう。ワンツー、ジャブ!ジャブ!まずはフォームなんて気にしないでいいから」
ペチン、ペチン
佐伯幸子、元委員長は見よう見まねで、ジャブを聖女セイコ手作りのミットに叩きつけている。
「良いわね!一緒に、聖女拳闘倶楽部つくっちゃおうか?」
「・・・・」
「考えておいてね」
・・・私は聖女セイコ、転生前は、家は柔道の道場、親に反発して、空手をやったわ。OLになってから、ストレス解消に仕事帰りに、ボクシングエクササイズをやったわね。あの部長め!とストレス発散させたわ。
この子・・・精霊王国で、酷い扱いを受けた。城で沢山の男たちから陵辱を受けたらしい。数回の堕胎の痕跡が見られた。
「聖女様!緊急です!」
「分かったわ。会議ね」
「では、皆様、この子、お願いしますわね」
「「畏まりました」」
☆会議室
「というワケでな。ヤマダ王国に、クズ勇者が現われたのだ。突発的な事故の転移だと思われます。セイコ様・・・行ってくれませんか?」
「あの、私、聖女ですけど!後方職種ですけど!」
「ヒィ、怒らないで下さい」
聖王国の重臣達は聖女セイコを怖れるようになった。魔王を蹴りで撃退。魔王を『喝!』で撃退の噂が広がっている。
これは、誤解もあることなのだが、何よりも、
「言いにくいのですが、勇者カズキと賢者タロウを、一撃で・・倒したと聞いていますが・・」
バン!
と聖女は机を叩いた。
「あれは、頭に来て、後ろから、延髄に蹴りを入れて、魔法でぶった切ったのよ!村娘さんを陵辱していたからね。あの娘さんに、トラウマを更に受け付けたわ・・・」
「いや、でも、それでも、相当な実力です・・・」
「それよりも、法王様は?私、転生してから、一度も会ってないのだけども!」
「今は、旅に出ておられます。法王様にも、お知らせしている状態です」
「だから、今は筆頭聖女、筆頭行政官の貴女が・・・トップです」
「フン!ジ・・・いえ。法王様はどこで何をしているのかしらね」
((ジジって言おうとした!))
一方、法王はヤクーツ領に到達していた。
☆魔族領ヤクーツ城
「「「誰か!」」」
城門に老人と、30代の夫人と、その連れ、男2人が、アズサに面会に求めに来ていた。
異世界アカデミーのスタイリンとモンブラン夫人と私服姿の護衛騎士2名である。
「ワシは怪しい者ではない。この金貨で、この城の主に面会を取り次いでくれんか?」
「ご老人、軍法だと、三回『誰か』と誰何して、答えなければ、刺殺ですぞ」
「「誰か!」」
・・・ほお、賄賂に屈しない門番、大国並だ。
「ワシは異世界研究アカデミーのスタイリン、こちらが、モンブラン夫人に、ワシらの護衛騎士です」
「しばし、待たれよ」
☆城内応接室
「お初にお目にかかります。私は異世界アカデミーのスタイリンです」
「ヤクーツ領の魔王軍総督のアズサです」
「この若さで総督とは、優秀なのですね」
「フッ、魔王様が、ほっつき歩く・・・いえ、巡行をされていますから、任されているだけです。偉い人が長期不在だと、残った部下が役を引受けなくてはなりません」
グサッ!とスタイリンの胸に突き刺さった。
何故なら、
「もう一つの、役職名がございませんか?法王様ではありませんか?こちらには、ヨザエモンの忍びがおります。こちらに来る途中で、顔の確認済みです」
過去、タネガシマの研究で、18代ヨザエモンと面会をしていたのだ。
「こちらの女性の方は分かりませんが、お孫さんではありませんね」
「恐れ入りました・・・実は」
・・・・
まさか、ここに、法王様が来られるとはね。
魔王様は、サキュウバス族のマキナさんとデートをしてやがる。
私が負傷したときに、魔王様に食って掛かって庇ってくれたお姉さんだ。
その時に、惚れた?まあ、良い人だから分かるけど、
魔王様にお妃は必要だ。魔王妃というよりは、女将さんみたいな感じになるかも。
魔王様不在だけど、
ここで、交易の青写真を作る。
「近いうちに、ラクーアで、博覧会を開く予定です。是非、法王様もお越し頂きたい」
「今、資本を入れているそうだが」
「はい、モデル都市を造っています。防衛も兼ねています」
この世界はインフラ整備が遅れている。電気、ガスが無いのは仕方ないのだが、上下水道は必要。魔石ボイラーの開発にも成功した。上下水道と風呂、清潔なトイレは実現は可能。
文明は中世、しかし、都市サービスは近代の日本並み。このシステムも輸出したい。
非公式の交渉は続き、大まかな合意は出来た。
「ところで、アズサ殿、ヤマダ王国で、勇者災害が発生しました」
「私たちにどうしろと」
「討伐して頂きたい」
と法王だが、提案した。この発言は重要な意味を持つ。
女神教は、構造的な問題がある。
魔族がこの大陸を支配していたときに、人族を守る為に出来た宗教だ。
だから、教義の基幹は、魔族を排除するとなっている。
魔族との共存を許さない。むしろ、カス王家の精霊王国の方が利害で共存できた。
今の時代にはそぐわない。
魔族討伐の先兵、勇者を崇拝する女神教のトップが、
勇者討伐を魔王軍人族のアズサに依頼したのだ。
「勿論、無料で出兵はしません」
「何でしょう?」
・・・私はここで取り決めをした。これが吉か凶になるか分からない。
☆ヤマダ王国王城
「王女殿下、ダンスのお時間でございます」
「・・・でも、似非勇者占領下で、気付かれたら・・」
「いいえ。こうした状況の時こそ、淑女教育をおろそかにしてはいけません。私が小声でリズムをいいますから、気付かないでしょう」
「はい、マダム!」
・・・
「ターン、タタターン。はい、ここでステップ・・」
ダンスの途中、ドアを開けて、金髪に黒髪混じりの10代半ばの男がノックもしないで入ってきた。
護衛騎士、侍従は、勇者の行動を阻害しないように王命を受けている。
ガチャ!
「(ヒィ)勇者様!」
と王女は小声で悲鳴をあげた。
「あ~、お姫様!いないと思ったら、こんなところで、ダンスしている!僕のダンスを見てよ!」
「ほら、このダンス、チックトッピングで、大人気のダンスだよ!」
勇者は、横にピョンピョン跳びはねながら、王女に見せる。
「ほら、こうして!手を挙げて!」
「・・・はい」
「もっと、飛び跳ねてよ!まるで、お婆ちゃんの盆踊りみたい!」
・・・ウウッ、彼らには話が通じないわ。一方的に、向こうの世界の価値観を押しつけてくる。
この城が似非勇者に占領されてから・・・冒険者が何人か来たけど、皆、一撃でやられたわ。
ならず者のくせに用心深い。宰相まで戦死をしたわ。
「姫様、サクッと飛び跳ねてよ。じゃないと、僕らのチームに入れないよ」
・・・入りたくないわ。今は我慢、真の勇者様が来て下さる。
それまで、我慢。
「はい・・・」
ピョン、ピョン
「そのスカート邪魔じゃん?!ドレス脱いじゃおうか?どうせ、結婚するんだし」
「ヒィ」
その時、侍従が呼びに来た。
「勇者様、陛下がお呼びです」
「ええ、今、いいところなのに、本当に空気読まない。姫様、サクッと終わらすから、待っていてね?!」
☆城謁見室
「勇者守殿、旅立ちの時だ。冒険者ギルドから選りすぐりのパーティーメンバーを集めた。さあ、魔王討伐に旅立たれよ。ここに3000ゴールドある」
顔合わせに来たのは、3人の女性。
「よろしくダス。魔導師のドム」
「熊獣人のプー子です」
「わ、私は、女剣士のリサなんだからね!」
「えーーーっ、何?皆、BBAじゃん!僕言ったよね!獣人は猫で・・・十代の子限定だよ。サクッと集めてよ。もう、一月経っているじゃん!」
「・・・しかし、勇者殿、パーティーメンバーが女性限定で実力者、彼女らはそれぞれ、B級冒険者、年齢は勘弁してもらいたい。これ以上の人材は我国の冒険者ギルドでは・・」
ダン!ダン!
と勇者は足踏みをした。
「僕が宰相をやっつけてあげたのだから、じゃないと、王様死んでいたよ!サクッと集めてよ!」
「分かった。善処しよう」
「もお、そればっかり、仕事出来ないって言われない!姫様のところに行ってくる!」
・・・作戦が上手くいかない。この冒険者3人には、似非勇者を魔族領に誘導し、一人で魔王軍と戦わせる手はずだった。食指が動かないように、ワザと年かさの女性を選抜したのだ。
宰相は、打倒勇者で立ち上がってくれた忠臣、全ての罪を被って余の代りに死んだ。
真の勇者様が来られるまで、勇者討伐したら、宰相の名誉回復を図ろうぞ。遺族は取り立てるぞ!
似非勇者め。
真の勇者殿・・早く。
謁見室にいた者は、王を筆頭に、心の中で真の勇者と唱える。
(((真の勇者様、真の勇者様、真の勇者様、真の勇者様、真の勇者様、早く来て下さい!)))
その時、アズサは、
「クション!」
「戦闘団長殿、お風邪ですか?」
「ロゼ回復術士、大丈夫よ。誰か噂をしていたのかしら」
「それは、城下の男達でしょう。戦闘団長、人気ありますから」
「フフフフ、まあ、お上手ね。さあ、ここが攻撃発揮位置よ。戦車と装甲車を魔法袋から出します」
・・・
「エンジンガス!」
ブロロロロロ~
「初めての戦車の実戦の運用になるかも。オルト伍長、頼むわよ」
「任せて下さい!」
「オルトはすごいど、百発百中だど」
「へへへッ、ドス軍曹の運転があってこそ」
「おい、装填手の俺も忘れるなよ」
「「アハハハ」」
「皆で勇者を倒すぞ!」
・・・徴税人の息子だったオルト伍長は短期間ながら、射手として腕を上げた。レーダー測距儀を使いこなし、今では2キロ先の机に初弾で着弾する腕前だ。
74式戦車の車長はアズサが兼ねている。戦車の後ろに、装甲車が2両と高機動車1両が続く。人員はアズサと戦車の人員を入れて、25名、構成は、猫獣人ミーシャ一人と人族24名である。
全力でない理由は、対勇者戦闘団は、人員補充の為に、新規隊員一個小隊分40名の教育をしている。
ゴーリキとエミリアと、他の団員は、班付き要員として、ヤクーツ領に残している。
☆ヤマダ城
「姫様、いつ?結婚する。魔王をやっつける前に、結婚しちゃおうか?」
「(ヒィ)・・・そうですね。やっぱり、魔王を倒してからがいいですわね」
・・・婚約すら結んでいないのに、何故?
「おい、守。俺らもう少し、城で暮らすわ」
「ウケる~早く、結婚しちゃいなよ。守、童貞だよ」
「飛翔馬先輩、鬼羅羅さん!」
勇者は3人いた。
最後までお読み頂き有難うございました。




