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第20話

「聖女殿、治療を・・・昨晩から下痢が止まらない」

「ワシも・・・」


「フッ」

 空爆を軽く見ていたツケよ。

 と聖女セイコはため息を付く。

 ここ数日、聖女の元には、将軍達が訪れ、顔を青くして治療を懇願している。


 魔王軍が投下する魔物の死体や糞尿が原因で疫病が蔓延し始めたのだ。

 しかも、罹患者は高級軍人が多い。


 狙ってやっていたとしたら、たいしたものね。


「聖女様、お客様が来られました・・」

「分かったわ・・誰かしら」



 ☆


 魔王が、空爆のためにワイバーン部隊とともに、女神信仰圏本陣の300メートル上空に到達した。しかし、今日は、いつもと様子が違う。


「魔王様、地面にマークがあります!天幕類がありません」

「分かった。魔王!千里眼!・・・あれ、何あれ、赤十字!?真ん中に聖女ちゃんが仁王立ちしている。他に二名いるな。俺、降りるから旋回して待っていてね」


「「御意」」

 当初は、汚物を運ぶことに難色を示したワイバーン部隊であるが、弓や魔法の射程外からの攻撃方法に感心し、今では爆撃用の底が抜ける桶まで開発するほど協力的になっていた。


 ・・・


「よお、聖女ちゃん。赤十字は転生者しか分からないよ!」

「将軍達は病気よ!後方に下がらせたわ!本部は浄化途中だからね。話合いはダメでもお話はダメだとは言われていないわ。お客様が来たから、皆さんでお話をしますわ。この二人は・・」


 30代半ばの女性と、ヒゲの生えた老齢の男性が、

 各自、魔王に自己紹介をする。


「ノース王国外務卿が妻、モンブラン夫人ですわ」

「初めまして、聖王国異世界アカデミー教授スタイリンです」

「どうも、魔王アキラです」


 三人は、用意されたテーブルにつき、とりとめも無い日常会話を始めた。


 ・・・


「魔王殿の提示された武器は、約500年前の転生者、ヨザエモンが持って来たタネガシマの発展型ですか?」


「ええ、まあ」


 ・・・何か、研究はズレてるとアキラは思う。

 相手は、山羊のような白いヒゲのご老人なので、ツッコミはしない。

 根は善い人そうだ。

 しかし、とりとめも無い会話から言質を取られ、情報を抜き取られてもかなわない。

 早々に会話を切り上げようと判断した。


「あ、何か分かった。次は、前線の指揮所を空爆してくるわ」


 と飛び立とうとしたが、


 モンブラン夫人が止める。


「・・私、数週間前まで、精霊王国の社交界にいましたの。あちらの王女に突っかかったら、出禁になりましたわ。女神信仰圏の情報部は、精霊王国方面の魔王軍は敗色濃厚との見方が支配的ですわ。ですが、私は、そうは思いません。戦果報告の割には、戦利品が全く入ってきませんわ」


「ああ、その情報が欲しいなら、話してもらおう。何故、女神圏の勇者が出てこない?理由は?いつもは、大軍でけん制して、そこの聖女ちゃんや、賢者、剣聖と伴に、魔王の命を取りに来るだろう?俺は楽しみに待っているんだぜ!」


 モンブラン夫人は戸惑いながらも答える。


「剣聖勇者のアルバート殿は、どこかの娘さんにお熱で、彼女に相応しいおとこになるために修行中です。元々、アルバート殿は・・」


 アルバートは、小国の平民出身、転生者でないので、待遇が悪く。生活のために冒険者として流浪して金を稼いでいたが、ある日、急に、あのひとに相応しい漢になるとの発言を最後に消息不明になった。


 と説明をした。


 あのひととはアズサのことである。



「・・・転生者の勇者カズキは・・・その賢者にそそのかされて行状が悪くなり・・」

 と口を濁す。


「私が殺しましたわ」

 と聖女セイコが会話に割り込みこともなげに言った。


「クズ化したのですわ。無理も無いですわ。高校生ぐらいの年齢で、国を挙げての大歓迎、勘違いして、修行中に、賢者と一緒になって、村娘さんたちを襲ったから、私が殺しましたわ」


「ああ、そうかい・・・今度、日本の化粧品もらってきてやるから、あ、俺のアズサがな。来週には、精霊王国の王城に行く予定だ。じゃあな!」


 魔王アキラは、精霊王国が来週までに陥落すると匂わせて、飛び立った。



「姪っ子とは、魔王殿は単体で転生されたと聞いたが・・」

「来週まで、信じられませんわ。聖女様はどう思われますか?」


「・・・日本の化粧品・・」

「聖女様!」

「ハッ、〇―ラは止めてねと伝えてないわ!」


 魔王は、


「空爆場所変更、前線の指揮所だ。奴ら、旗で指揮所を現しているからな。簡単に分かる。あそこだ。投下準備!」


「「「御意!」」」


 ☆前線の指揮所


「ウワワーーーー、腐った何かが堕ちてくる!魔王軍め。今度は、こっちに来やがった!」

「しかも、炊事場を狙ってやがる!」


 前線の指揮所を空爆して帰って行った。




 一方、同じ日、精霊王国方面で大規模な会戦が行われようとしていた。




 ☆☆☆精霊王国方面戦線ヤリツ平原



 精霊王国は、時機良好と判断し、辺境伯に国軍を傘下につけ。8万からなる大軍を魔族領に侵攻させた。ほぼ常備軍の全軍である。

 この地を西進すると、旧ヤクーツ王国、北進すると魔都にも行ける要衝の地である。

 平原の真ん中には山未満の丘がある。この地を取ることが作戦の要でもあるが、現在は魔王軍が占拠している。



 ☆精霊王国本陣


「ウハハハハ、魔王軍もたいしたことないな。このまま、重装歩兵を前に

 押し出せ。騎兵は重装歩兵の側面を守れ、あの丘に陣取る敵本陣を占拠すれば、ヤクーツにいくも、北方の魔族領に攻め込むにも、どちらにもいけるわ」


 魔族領侵攻を命じられた辺境伯デービットは、魔族の戦意が乏しいので、奥地に撤退をしていると判断した。

 事実、会戦を仕掛けたが、魔王軍は、ゆっくりと退却をしていると報告が来た。


 平地での戦いは人族の得意とするところである。

 重装歩兵の槍襖でけん制し、魔王軍の地竜部隊や大狼部隊の接近を許さない。

 そして、重装歩兵の側面や後方を騎兵で守る。


「ふ~う。ファランクスはできなかったなり。これで充分なりよ」

 順位15番まであげたヤマナは、軍師として参加していた。


 ・・・これで、勝てるなり。精霊王国軍の本陣の周りには弩弓隊が配備されているなり。

 突破されても、敵は弩弓の攻撃を受けるなり!


「辺境伯殿、勝ったら、姫と結婚なり!」

「おお、分かった。要望通り、金髪のツインテール?という髪型の令嬢を用意しよう」

「そうなり!」


 ・・・異世界人、便利な奴らだが、魔王を討ち取ったら、全員、処刑だって知らないのだな。魔王亡き後、強大な力を持っている奴らは危険だ。凱旋門をくぐるのは、私たちだけで良い。

 だが、まずは目先の勝利だ。


「追撃の太鼓をならせ!」

「「「御意」」」


 ドンドンドン!




 ☆☆☆ヤリツ平原、丘の上、魔王軍本陣


 魔王軍本陣にも、ドンドンドン!とわずかに聞こえてくる。


「敵は、面積密度から、計算して、10万人はいる・・・対して、こちらは1万人、おお、殿のムサビ君の大狼部隊が、帰って来る。ムザビ君たちが丘の後ろに下がったら、皆は、待避壕に避難!」


「「「了解」」」


「皆、耳栓は持ったね。合図をしたら、耳栓をして、口を大きく開ける。いいね」


「「「了解!」」」


 口を大きく開けると、耳管が開き。空気圧の変化に対応出来るとされている。

 魔王軍精霊王国方面軍1万は、会戦をせずに、規則正しく下がり、丘の後方、3キロ付近で、新たな陣を構成している。


 丘は精霊王国軍から見て、丘の後方に出入り口を持つトンネルを掘り、いわゆる反斜面陣地を構成した。

 この中に、対勇者戦闘団の人員と車両を隠している。


 丘の上には、簡易トーチカが本陣兼観測台として設置されている。

 そこにいるのはアズサだ。



 ・・・72式対地竜地雷をこの平原に500個、有効間隔〇mごとに埋設しておいた。

 地雷に安全弁を付けたままだ。踏んでも起爆しない。

 地雷の信管部にC4爆薬を設置して、有線でこちらの意思で起爆できるようにした。


 予備で、指向性散弾10個設置してある。

 これだけでも、計算上は余裕あるけど・・・

 最後まで気を抜けない。あれ、エミリアが待避壕に下がらない。


「・・・エミリア、お前も下がれ!」

「嫌ですわ。団長一人で、簡易トーチカに残って、起爆なんて」

「命令違反だよ」

「ええ、罰は後で受けますわ!」

「・・・じゃあ、罰として、エミリア、ケーキパーティに招待して」

「了解です!」


 本陣に迫る精霊王国軍は、違和感に気が付く。


「敵が一人もいない?」

「おお、敵は更に下がったぞ!」

「本部に伝令!丘は占拠容易なりと」

「ええい、ワナがあるかもしれない。ゆっくり進め!」


 一方、アズサとエミリアは、起爆前の点検を行っていた。


「1~5の起爆機、通電ヨシ」

「キーよし、充電ヨシ」


 ・・・私が指示を出して、爆破をするのよ。


「あ、あー、符号12・・・全軍に通達、後3分後に、72(ナナニ)を起爆する。耳栓をつけ。口を開けろ!」


「エミリア、敵は死地に入った。号令で、1番から逐次5番まで、回せ」

「1番から、回せ!了解」


【爆破!】



 ☆☆☆精霊王国軍本陣


 ズドーーーーーン!


 ガタガタとフィールドデスクが揺れるまで、振動が本陣まで届いた。


「どうした。前線から、黒い雲が上がっているぞ!斥候を出せ!」


 ・・・まさか、伝説のエリア級の爆裂魔法・・・古代魔法文明でしかあり得なかったものが。

 魔王軍が放ったのか?

 いや、まだ、そうと決まったわけではないが・・・

 全滅はないだろう。

 いや、奴らの爆裂魔法が誤爆して、魔王軍が半壊しているかも。


 デービットは楽観視せざるを得なかった。


 本陣に残っているのは、精鋭とはいえ。3000人しか配備されていない。




最後までお読み頂き有難うございました。


爆破の時に、口を大きく開けると書きましたが、元ネタは、発破士の方から聞きました。

又聞き情報です。ご了承下さい。


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