第19話
「え、もしかして・・・死んだのか?」
騎士たちは信じられない。山形が倒れてから、1分も経過していない。
「こいつら、3人で、ダークエルフの戦士団を壊滅した戦力だぞ・・・」
カン!と隊長を表わす羽根飾りのある兜に音がしたと思った次の瞬間、隊長の頭から、血を吹き出し、バタン!と倒れた。
「ヒィ、これは、魔女の呪いだ!奴は死んだのじゃなかったのか?」
「深緑の魔女だ!生きていたのか?な~に、グア!」
バタン!と次々に倒れて行く。
「ヒィ、不退転の誓約魔法をかけているから逃げられねえよ!」
「何、慌てるな。対策はあります。私の分析では、あれは音響魔法だ。『パン!』と音を聞いた者の中から1人殺す呪いよ。私が、魔法で音を消します。その間に、貴方たちが倒して手柄にして下さい!」
「「「おお、さすがだぜ!」」」
騎士付きの魔導師が提案をする。
【サイレント!音よ。消えろ!】
・・・フフフ、これで、得意の音響魔法を使えまい。お前の敗因は、頭脳明晰な私がこの隊にいたということだ。このようなヤカラは対策を立てれば何と言うことはない・・・あれ、騎士達が、倒れて行く・・・何故だ!!!
戦闘団員が突撃をし、数分後、魔導師と騎士達は全滅をした。
・・・
「無声式解除!エミリア報告!」
「近隣に、騎士達の姿は確認できませんわ!」
「捕虜尋問の結果、魔道通信機を確保!」
「魔法袋確保、中身は食料と武具!」
次に、団員達とサーラは長老達の縄を解く。
「有難う・・ございます。魔王軍殿」
「「「有難うございます!」」」
「いいえ。礼には及びません。子供達は、3つ先の森で、今、アリーシャさんが守っていますよ」
アズサは捕虜智子を無視していたが、智子は気が付く。
「佐々木さん!自衛隊に入ったの?何故、先生を殺したの?話合いをしようと言っていたのに!」
「・・・当方には、話合いをしない権利があるからよ。それ以上は、捕虜の榊原さんから聞いてね」
「ヒドイ、だからって殺すことないじゃない!日本に帰ったら絶対にツブヤイタで、言ってやるわ!ヒィ」
智子は、ダークエルフたちの殺気に気が付く。
「わしらには、『話合い』とやらの機会を与えなかったくせに・・・」
「・・・仕方なかったのよ。仕方ない。私は鑑定士よ。止められないじゃない!」
「そう、私は対勇者戦闘団の団長よ。先生達を殺したのは仕方ない・・・で良いかしら」
(佐々木さん。変わった?お城ではおちゃらけていたのに)
突然
ガー、ガー、ガー
と魔道通信機の音が鳴り響く。
「!捕虜の口をふさいで、遠くに連れて行け。絶対に話させるな!」
「ダークエルフさんたちも、沈黙をお願いします!」
「「了解」」
「「魔女殿、分かりました!」」
「あ~、こちら、宮廷魔道師団、ダークエルフの森攻略、どうなった?」
「はい、今、子供達を捜索中です。英雄パーティと勇者パーティ、先生パーティが追跡、騎士たちはお楽しみ中です・・・」
☆☆☆精霊王国王宮魔道通信室
「あ~、なるほど、勇者パーティは通信機を雨で濡らして壊した。それで、合流して回復術士の君が残ったのか。うん。分かった。王女殿下に良い報告が出来る。礼を言うぜ」
「一時期、勇者どもが敗北するから、どうなることやらと思ったが」
「これで、王女殿下の機嫌が良くなる」
「ああ、全くだぜ」
ここ数週間、魔道通信機の会話は、榊原になりすましたアズサが行っていた。
彼らは、聞き心地の良い報告に狂喜乱舞し、競って、ブリトニーに報告したがった。
この欲望が、ここ数週間、榊原の声しか聞かないとの不審の声をかき消している。
さらに、アズサは、裏組織に依頼して、情報が流れているか確認する徹底ぶり。
「魔道士官殿、何か情報はございましたかな?」
ローブをまとったいかにも怪しい者が、金貨の入った小袋を渡しながらたずねる。
「おお、ダークエルフの若い者が、手に入った。100名以上、今月には入荷する予定だ。一時期、インフレが酷かったが、最近、外国からの投資で持ち直したよ」
「はい、どうも、毎度あり。これで、投資で儲けられます」
☆☆☆精霊王国王宮、ブリトニー執務室
「ほお、なら、せんせいパーティと勇者パーティ、英雄パーティは、魔都に向かわせなさい。魔王を討ち取るように伝達よ」
「御意」
「これで、女神圏に先駆けて、魔王討伐が出来る。魔王を討伐したら、勇者どもは、契約魔法を発動させて、おさらばじゃのう。いいんちょうだけは、回復術士として、残してやるかのう・・さて、魔族園を開園して、観光客を呼び込み、ダークエルフとサキュバス族を繁殖させれば、我国は潤う・・」
ブリトニーは、ここ数週間の大本営発表を信じ、取らぬ狸の皮算用を始めていた。
更に、この情報は、社交界を通して各国に流された。
☆☆☆自由都市ラクーア
中央商業ギルドでは、ダークエルフ大量捕獲の報で、問い合わせが殺到していた。
投資家、商人たちが、儲け話に過敏に反応している。
「ダークエルフ債がオークションで高騰している!追加の発行はありませんか?」
「もう、売れきれだよ。それよりも、ダークエルフの奴隷の子、赤ちゃんだ。数年後、販売開始予定、奴隷の子、予約券買いませんか?」
「いや、長寿種は、中々、子供生まれないだろ?」
「・・・それが、ここだけの話、発情薬の開発に成功したんだってさ」
「おお、それなら、買わせてもらおう!」
「次は、サキュバス債が高騰するよ。さあ、さあ、買いませんか?」
「おい、おい、転売かよ。でも、買っとくか」
自由都市を通して、資金が、精霊王国に流れ始めた。
精霊王国は多額の借金を背負う形になるが、魔族領を征服すれば、お釣りが返って来る。
一方、この情報は、魔族領よりも西方、いわゆる。女神信仰圏にも流れ、攻勢を強めようとするが、頓挫していた。
☆☆☆女神信仰圏対魔族戦線
聖王国女神教会本陣では、今日も、不毛な会話が続いていた。
「ですから、聖女にもズボンをはかせて下さい!」
「聖女セイコ様、それは、貴女のいた世界では良くても・・教会の伝統がありますから、無理ですな。筆頭聖女である貴女が履けば、他の聖女も真似をする。服装の乱れは生活の乱れ・・何故、ズボンを履くことにこだわるのですか?」
「ですから、空を飛んだときに、下履きが見えてしまいますわ!」
「何を仰っているのかわかりません!」
・・・この~魔王は空を飛んで我が軍を翻弄している。私は風魔法を応用して、ホバークラフトのように、空を飛ぶことが出来る。
ズボンさえ認めてもらえれば、戦えるのに・・・老害め!
「空襲警報!魔王と、ワイパーン部隊の・・空襲です!・・・待避壕に行きますか?」
「クソ、こちらの怪鳥部隊が、壊滅させられてから、空を牛耳られたわ。それ以来、奴ら、好き放題だ!やつら、やつら、本陣に、ウンコを投下して行きやがる!おちょくられている!」
将軍たちは悔しがる。
・・・おちょくりではないわ。制空権を取ったということは、石や焼夷弾を落すことも出来る。
いつでも、本部を壊滅させられるぞというパフォーマンス!
「ええ、もう、いいですわ。下履きが見えても!」
聖女は飛び立とうとしたが、
「魔王が、単騎で降りてきた!」
「今日は、ウンコを投下しないのか?くみ取り魔王が、臭いぞ!」
本陣の護衛騎士たちは、魔王を取り囲み罵倒するが、
魔王アキラは余裕だ。
「オッス、オラ、魔王アキラ、もう、いい加減に、この空襲の意味を理解しないから、疲れたよ。こっちが、有利なのに、話合いに応じない。だから、お前ら死ねよ。黒炎の~、え、と何だっけ。球よ、出ろ!」
魔王アキラの手の平から、黒炎のファイヤーボールが出現する。
ファイヤーボールを頭上に掲げたその時、
「下ががら空きよ!」
バキ!
聖女セイコは魔王にローキックを放った。
彼女は転生前、打撃制の空手を習っていたOLであった。
「うお。無茶するなよ!パンツ見えるぞ!見たくねえけどよ!」
「それ、しまいなさい!話合いをしてあげるのだからね。フン!」
「それしまえとか、俺は変質者かよ!」
そう言いながらも、魔王アキラは素直に、ファイヤーボールを消す。
「ハハ、この状態では話合いはしない。この技、ローキックだろ?お前、転生者だな。これ、やるから、頭の固い将軍達を説得してみろよ。お試しに、弾丸も数発あるぞ」
ポンと地面に、銃を置く。
「これは、鉄砲・・・」
「ああ、そうだ。これを魔王軍は装備している。長篠合戦になるぞ。武田軍はお前らだ。魔王軍は銃を1万丁持っている!意味が分かったら、話合いに応じてやるぞ」
魔王は、アズサに召喚させたライフルを置いて、飛び立った。
・・・
「聖女殿、何を勝手なことを!」
【黙りなさい!】
「ヒィ」
・・・1万丁はハッタリとしても、これを作った?いや、召喚した。
著しく、我が方が不利な状態は確かね。
魔王が、渡したボトルアクションのライフル銃は、競技用、標的50メートル先を狙うものであるが、転生前に、銃と無縁であった聖女セイコには、自動小銃との違いが分からない。
しかし、充分に脅威であると認識出来た。
セイコは聖王国の筆頭聖女であるが、転生してから1年も経っていない。
しかし、魔王を蹴り、撃退したと武勇が広まった。
以後、女神信仰圏連合軍の中で発言力が増していく。
「ええ、平和条約は無理?だったら、精霊王国が攻勢に出てから、こちらも攻勢に出るべきです!本部が空襲されて、会議もままならない状態、これは我が軍が不利な状況にあると考えられます!」
「空襲!本陣に、今度は、魔物の死体を投下してやがります!皆様、待避壕に!」
「またか!」
・・・あれからも律儀に空襲するのね。
魔王は、嫌がらせの天才、いえ、戦いの達人かも、
しかし、何故、さっさと本部を壊滅させない。
もしかして、リアルな思考が出来る平和主義者・・
「ギャハハハハ、次は、腐った残飯を投下するぞ!ヤーイ、ヤーイ、悔しいだろ?!」
空から、魔王の罵声が、拡声魔法で響く。
「・・・それは、無い。無いわね・・」
最後までお読み頂き有難うございました。




