第18話
☆☆☆ダークエルフの本村
ダークエルフの本村では、中央の巨木の前に、村人、数十人が騎士達に囲まれている。
全員、縄で縛られており、今、生き残っているのは、女性と、長老達のみである。
子供達の姿はない。
部族の危機が生じた時は、大人達が犠牲になり、子供達を隠れ里に逃がす。
そうやって、部族の血脈を保って来たのだが、
子供達がいないことは、襲撃者は予想していた。
「あ~皆様、静かになるまで、30分かかりました。いいですか?これからは、質問と抗議は文書ですること。
いいですね。子供達はどこに隠しました。銀髪の子です」
「「「「・・・・・・・」」」
つまり、回答以外は黙れということかと長老は、水晶の目の男の言い回しに、不気味さを感じる。
勿論、子供達の行き先を話さない。
「ダンマリですか?いいですか?私たちは、貴方方を幸せにするために来たのです。王都に、ダークエルフ園を建設しました。そこで、貴方たちは幸せに暮らせます。王都市民の人気者になれますよ。若い方は、発情薬を飲んで、繁殖してもらいます。良い子を産んだ方は、待遇が良くなりますから頑張って下さい」
あまりの処遇に、思わず長老が言葉を発する。
「わ、私たちを見世物にする気か?」
「質問と抗議は文書でと言ったはずなんですがね。モンスターペアレントですね。いや、モンスターダークエルフですかね。少々イラッとしました」
「お、先生!ボコっていい?レベル上げしたいぜ」
「山形君、勉強熱心でいいですね。日本でもそうであれば、言っても仕方ありません。でも、こいつが一番の長老です。これを中間管理職にします。他の男をなぶり殺して、見せしめにしなさい!」
「そ、そんな」
思わず長老がつぶやく。
・・・何故、私が一番、年寄りだと分かったのか?耳短族に、ダークエルフの外見で年齢がわかるはずがない。
もしや、
「ハハハ、いい表情ですね。最高ですね。飯ウマ案件です。智子君は、鑑定士ですよ!」
「はい、皆さんの年齢はわかりますよ」
「貴方の代わりに処罰を受けるダークエルフを選ばせてあげます!さあ、選びなさい」
・・・ここはいいです。フロンティアですよ!ここには校長も、学級主任も、PTAもありません。
大学院に行きたかったが、お金が無かったから、教員になったのです。
日本にいたときと違って、生徒達も言うことを聞くし。魔法も楽しかった。
私のレベルは150を超えてます。
勇者の源君は120くらいですね。超えてますね。実際に、私が序列一位です!
「・・・・・」
自分の死の覚悟は出来ていたが、仲間の死は受け入れがたい。長老は沈黙をする。
「また、沈黙ですか?質問に答えられないなんて、ダメですね。分かりました。3番目に年寄りを、見せしめにしましょう。智子君、誰ですか?」
「はい・・・この人です」
・・・仕方ないのよ。仕方ない。最近、ずっと、こんな調子よ。指輪のせい?皆、洗脳されている?絶対に、日本ではやらないことを平気でしている。
文句を言ったら、委員長みたいに、オリに入れられ、糞尿垂れ流し状態になるのは嫌だ。
佐々木さんがいなくなったのは・・
考えるのは、やめよう。
「さあ、ボコるぜ。俺の拳闘士、スキル一撃必倒を、一撃必殺まで、レベルあげてやんよ」
正に、山形が、拳をあげようとしたところ。
騎士から、報告が上がる。
「勇者殿、地竜荷馬車が、やって来ました。別働隊、勇者パーティが、捕獲成功した模様ですぞ!」
「何だって、じゃあ、俺、その中から一人もらって良い?」
「ええ、ヤマガタ殿、どうぞ」
「山形君、いけませんよ。先生が選びます。銀髪以外、次に容姿の良い子をもらう約束ですよ。先生が先に頂きます」
「「「ハハハハハハ」」」
「ハハハ、賢者殿は、欲張りだな」
一方、ダークエルフたちは、
「・・・そんな。馬鹿な・・」
「まさか、まさか」
各々がつぶやく、もはや、部族の命運が潰えた。
彼らが、時間稼ぎをして子供達を逃がしたのは、ひとえに、自分たちが犠牲になって、子供達に部族の存続を託すためだ。
希望が消えた。
地竜に引かれた荷馬車は、村の入り口で、ピタッと止まった。
御者台には、勇者グループの佐山が座って、手綱を握っている。
荷馬車の中には・・・
「・・着いたね。この位置で止まれ。振り返ったら、撃つよ」
「なあ、佐々木、それ向けるのは止めろよ。また、クラスに戻れるように、ブリトニー王女殿下に口をきいてやるからさ」
「無理」
・・・
対勇者戦闘団と、サーラが乗っていた。
・・・佐山君は助からない。バックから、魔族の角や、オーガの牙が素材として入っていた。
捕虜として連れ帰っても、復讐に燃えた魔族の戦士に、決闘を申し込まれて、死ぬだろう。
「お~い。佐山君、もっと、こっちに来なさい。良い子はいましたか?」
と先生が大声で叫び手を振るが、地竜に引かれた荷車は前に出てこない。
「あれ、おかしいですね」
佐山は前を向きながら、佐々木を説得していた。
「なあ、佐々木・・・ブリトニー殿下に謝罪しようぜ。俺が一緒に行ってやる。俺が話をつけてやる。なあ、だから、それを向けないでくれ!!」
「そう・・私、源君殺したよ?いいの?」
カチャと切替え軸を安全装置の「ア」から、単発の「タ」の位置に変えた音が、後方からする。
「いいいーーー全然大丈夫!だから、パンやめて、パン止めて下さい!」
「そ、じゃあ、パンパンパンね」
「ヤダーーーーー!!もっと、ダメじゃねえか!!」
パンパンパン!
荷馬車の御者台の後ろから、銃声が響き。佐山は、地面に崩れ落ち。
そのまま、起きてこなかった。
幌の隙間から、村の様子を確認したアズサは命令を発する。
「命令下達!敵、賢者1,眼鏡、拳闘士1.手甲、タンク1.盾所持、支援職1,女、騎士、10以上、我、私が勇者を狙撃、エミリア、ドローン偵察。セトル、リアスキー、地竜殿とサーラ殿の護衛、下車後、後方へ下げろ。他、対騎士戦闘!下車後、無声式、発言は最小限、質問!」
「「「「質問なし!」」」」
「「ドローン偵察、了解」」
「「地竜殿とサーラ殿の護衛、了解」」
「「対騎士戦闘、了解」」
「下車よ~~~~い、【下車】」
☆☆☆
アズサ達が、荷馬車を降りた姿を確認した先生パーティは、その姿から、自衛隊と判断した。
「先生!じ、自衛隊だ!自衛隊が救援に来てくれたよ!・・・あっ、佐山君を殺した・・」
「智子君、安心したまえ。私たちの行いは正当防衛行為だ。むしろ、救援が遅かった自衛隊が悪い。私に任せなさい。一応、鈴木君、盾を出して私たちを・・・山形君!前に出るのは止めなさい!」
「佐山を殺したんだ。俺のスキル、アウトボクサーステップで、翻弄・・ウグッ」
パン!
と前に出た瞬間に地面に倒れた。
アズサは、およそ、400メートルで狙撃するために座り込み、膝撃ちで、狙撃した。
この距離なら、立ち撃ちでは精密な狙撃は出来ない。
二番目に当たりやすいとされる膝撃ちで狙撃を実行したのだ。
(何で、戦う前に、技名を言うのかな。あっ、私も召喚するときに、『召喚!』と言うわよね・・)
戦争は錯誤の連続と表現する人もいるぐらい勘違いが連続で襲ってくるものだ。
佐々木達の装備を見て、先生パーティに混乱が生じた。
「何故?!自衛隊が日本人を撃つ。私たちを救援に来たのではないのか?ええい」
【拡声魔法!】
「誤解しているようだが、私たちは、遭難したのだ!とにかく、長の者は、ここに、来なさい!
マスコミには話しません!
SNSにも公開しませんよ!
だから、話会いをしましょう!」
先生は叫ぶ。
佐々木の耳にまで、届いたが、
(何故、今になって、話合い?)
・・・話合いは、少しも平和的では無い。強者が弱者に妥協を強いる場。弱者が妥協を強いられる場。
抑止力、経済力・・諸々の条件で、話合いの前に既に勝負が決していて、
話合いは、タダの確認作業だ。
英雄パーティとの戦闘で思い知った。
少し、前だったら、話合いに応じていたわね。
「先生!あの自衛隊はおかしいよ!」
「智子君、私に任せなさい!」
・・・私は、魔法杖無しに、ファイヤーボールを一度に、10個出せます。
さあ、近寄りなさい。
貴方たちは魔法を知らない。
火だるまにしてあげますよ・・・
しかし、佐々木は呼びかけに応じない。
「・・・???何故?前に出てこない!これでは、魔法の射程外ではないか?」
「勇者殿、如何された?」
「良いから、長の方、皆さん、こっちに、来なさい!話会いましょう!私は丸腰ですよ!」
先生は魔法杖を捨て、前に出たが、その瞬間、銃声が2発、響いた。
パン!パン!
「グハ!」「エッ」
先生と聖騎士鈴木の胸に穴が空き、血しぶきが飛ぶ。
・・・貴方たちは、自動小銃の怖さを知らない・・もっとも、私も平和な日本にいたときは知らなかったけどね。
佐々木は、心の中で独り言ちる。
(戦闘団長殿、ますます、狙撃に磨きがかかっておりますわ。あの単連射、ほぼ、2発同時に聞こえましたわ!)
エミリアは、腕の方は、相棒の佐々木は独りで大丈夫だと確信するが、
・・・心の方は、どうなのかしら。元平民学校のクラスメイトと教師・・
と心配をする。
(帰ったら、お菓子パーティに招待して差し上げますわ。今は、任務、ドローン偵察!)
と決意を胸に秘めた。
最後までお読み頂き有難うございました。