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ランドマイン  作者: 淡月 涙
40/50

『集結』

アスカ達は出発の準備をしていた。結局、遊音とアスカの決着は付かず、あれ以上やってしまうと被害が及ぶと判断した透韻によって朝からの賑かさは収まった。少年が車のエンジンをかけながら様子を見ている。創葉が最終確認して彼らは宿を出た。目指すは【ツヴァイ】という町。恐らく皆そこに集まるだろう。敵はただ一人。

「――その久住(・・)って奴が厄介なんだ?」

車を運転しながら少年が聞いた。

「厄介なんてもんじゃないよ。あいつは狂ってる。僕だって洗脳されそうになったから」

遊音が怒りを滲み出しながら答えた。

「子ども使って何やってんだって感じだよな。そもそもあんな研究がある事自体おかしいんだよ」

アスカは躊躇いもなく素直な意見を述べた。

「・・・・・・ごめん」

透韻が申し訳なさそうに謝罪した。

「透韻が悪い訳じゃない・・・・・・って言いたい所だけど、正直ちょっとムカついてる。あんな研究なんて始めなければ久住がああなる事もなかったのにって」

遊音は自分の気持ちをはっきりと伝えた。

「遊音・・・」

「ごめん・・・。我儘だ・・・こんなの」

起こってしまった事象に今更文句を言っても進まない。皆それぞれの決意は固まっている。

「――あ」

車がいきなり止まった。少年がいくらアクセルを踏んでも動かない。

「エンストしちゃった」

「えっ・・・」

「悪いけど、此処から先は歩きで宜しく。あんた達の目的地はもうすぐだから」

半ば強引に車から下ろされ、アスカ達は仕方なく徒歩で行く事にした。何もない平野がただ拡がっているだけの道を彼らは黙々と歩いていく。

「――見えたよ。あの町じゃない?」

創葉が前方を指して言った。遠目からでも荒廃しているのが解る。

「ホントにすぐだったね」

「彼処に皆いるのかな・・・」

その時、大きな轟音が響き渡り、地面が揺れた。イズと遊音は思わずバランスを崩し、尻餅を付いた。

「何事?」

町から煙が上がっている。全員、嫌な予感がした。

「――行こう」

透韻が先頭を切って彼らは再び町へと足を踏み入れた――。










「麗夢、やめろ!死んでしまう」

レアは必死で攻撃する彼を止めた。穏やかな空気を破ったのは町の住民達だった。いきなり周囲を囲われ、石を投げたり火の棒を放ったりと奇襲を仕掛けてきたのだ。その中心にいたのは、久住だった。

「あいつが避けるから・・・」

麗夢は久住を見つけた途端に落雷を放った。しかし、巧く避けられてしまい、住民達の側を掠めた。

「夜太と王貴は何してんだよ」

買い出しに出掛けた二人は何処まで行ったのか、なかなか戻って来る気配がなかった。お陰で戦う気など更々なかった佐月まで駆り出される羽目になってしまった。少年は冷静に事態を把握し、レアを守っている。

「危ないから中に・・・」

その時、住民の一人が放った火の棒が少年の足元に落下し彼は炎に包まれた。

「紅!」

炎は容赦なく少年を襲った。熱さと息苦しさで頭がおかしくなりそうだ。

「ある意味好都合だ・・・」

麗夢は助ける前に様子を計る事にした。記憶を取り戻せるかもしれない。








リンと神流は愛理衣達と共に行くと決めた。愛理衣と刹那は快く受け入れ、宿を出た。聞くところによると【ツヴァイ】という町は此処から近いらしい。道を聞いた刹那の案内によって4人は進み出していた――。

「やっと皆に会えるね」

「うん・・・」

まだ元気のない神流をリンは心配そうに見守っている。愛理衣はもう何も気にせずに以前のように接していた。気を遣ったり躊躇う様子も見られない。

「そうだ!リンちゃんて、歌上手なんだよね?」

思い出したように話題を変えながら愛理衣は満面の笑みで聞いた。

「上手というか・・・歌う事は好き」

「今度聴かせて欲しいな」

「うん!」

リンは嬉しそうに笑みを溢しながら約束した。

「先に気付いたのは神流なんだよね?」

「気づいた?」

「収容所にいる時、よく笑ってたから。遊音から聞いたよ。会いたい人がいたって」

「うん。リンちゃんはあたしを見つけてくれたから」

微笑ましそうに神流はリンの方を向きながら言った。

「あのまま歌が聴こえなかったら、今のあたしはいないかな。あの時はもう頼れるものが無かったから・・・」

今までの話を聞いていれば神流がどれだけリンの歌を支えにしていたかが良く解る。

「――ずっと一緒だよ」

リンは神流の手を握りながら囁いた。








熱い・・・苦しい・・・。

炎は容赦なく少年を追い込んだ。

『麗夢は何でも知ってるんだね』

気を失いそうになった時、不意に記憶が鮮明に浮かんできた。あの時はまだ無知だった。能力を持っていても使い方を知らなければ意味がない。

『お前の方がカッコ良いじゃん』

あどけない笑みで側にいてくれたのは――

「・・・ら・・・む・・・」

少年はふらつきながら立ち上がる。記憶が駆け巡っていた。辛かった事の方が多く嫌な思いでまでも親切に甦ってきた。この炎も今はもう熱くない。

「思い・・・出した・・・」

少年が腕を振り上げると、炎は渦を巻きながら天へと昇り始めた。その変化に麗夢がいち早く気づいた。

「戻ったのか・・・?」

少年がパチンッと指を鳴らした瞬間、炎は音もなく消え、懐かしい少年の姿だけが其所にあった。




「――彩弓」




あの時地雷を踏んだ瞬間、彼は咄嗟に焔で身を包み致命傷を逃れた。だが焔の制御が利かず、火傷を負い記憶を失ってしまった。

「彩弓」

麗夢が駆け寄り、彼は微笑みを浮かべた。

「――思い出したよ。何もかも」

「そうか・・・。良かった」

安堵したのも束の間、二人は住民達に囲まれてしまった。麗夢と彩弓は背中合わせになり、体勢を構える。

「殺しちゃ駄目だよ」

「解ってるっての!」

住民達も武器を出し、向かっていった。

「久住に何吹き込まれたか知らねぇが、先に手ぇ出したのはお前らだからな!」

麗夢は相手の動きを読みながら攻撃を交わし、軽くダメージを与えていった。

「やりづらい・・・」

彩弓も戦い難そうに攻撃を避けながら打撃を与えていった。其でも一瞬怯む位で人数は減らない。

「切りがねぇ!」

「麗夢。一旦退いた方が良いんじゃない?このままじゃ埒が明かないよ」

「退いてどーすんだよ!レアだっているんだ」

「でも能力使えないんじゃ無意味だよ」

「気絶させる位なら大丈夫だって」

「その考えが甘いんじゃない!無闇に能力使ったら駄目だって麗夢が言ったんだろ?」

「時と場合によるだろうが!いいから此処は・・・」

「危ない!」

口論になっている二人にレアが叫んだ。油断していた二人の隙を狙って数人の住民達が武器を振り上げながら襲いかかってきた。






「――ナイスタイミング」






麗夢の背中は遊音が、彩弓の背中はアスカが守り、住民達を払い除けた。

「なに手間取ってんだよ、麗夢」

アスカが些か楽しげな口調で言った。

「うるさいな。」

「彩弓・・・?」

遊音は、生きていた彼に驚いていた。

「――久々だね、会うの」

「生き・・・て・・・」

感情が高まり、遊音は涙を流しながら彩弓に抱きついた。彩弓も優しく抱き締める。

「良かった・・・。また会えて・・・」

「おれもだよ、遊音」

二人が感動の再会をしている中、創葉と透韻も駆け付けた。イズは疲れてしまい、レアの家に避難した。

「どういう状況?」

創葉は佐月に聞いた。

「いきなりこいつらが襲って来たんだよ。大方、久住に巧く言いくるめられたんだろうけど」

「久住・・・」

「とりあえず、こいつらには観戦してて貰おうか」

アスカが住民達を風で取り囲み、宙に浮かせた。

「遊音」

指名された遊音は宙に浮いた彼らを水の珠で包んだ。

「あれなら弾力あるし、攻撃も届かないよね」

「やっと落ち着いたか」

皆の視線は久住へと向けられた。彼は平然としており、何の武器も持ってはいない。

「あとはお前だけだぜ?――久住」

「――随分と結束の固い人達ですね」

「お前にはいないみたいだな。仲間」

「必要ない。戯れていても裏切られるのがオチだ」

「そうとは限らないだろ」

「じゃあ、証明してみせよう」

久住は意味深な笑みを浮かべた。

「私を攻撃してみなさい」

「――えっ?」

唐突な発言に麗夢達は戸惑った。

「何してるの?好きに殺れば良い」

久住は両手を広げて晒けだしている。

「・・・どうするよ」

麗夢は皆に聞いた。

「良い機会じゃない。あいつが無防備なんて滅多にないよ」

創葉はやる気なし満々な様子で促した。

「じゃあ――遠慮なく!」

皆は一斉に攻撃した。麗夢の雷とアスカの風が混ざり威力を増大させながら久住へと向かっていった。遊音は久住の足元を水の珠で包み、逃げる術を塞いだ。



フッ――と、攻撃が無効化され、久住は余裕の笑みで立っている。

創葉は彼の油断を図り、ナイフを取り出し一気に久住へと突き刺した――。






「・・・な・・・んで・・・」






感触は確かにあった。けれど、創葉が刺したナイフは久住ではなく透韻に突き刺さっていた。

「あいつ、何で・・・!」

アスカや遊音も訳が解らない。久住を庇う者などもう誰もいないと確信していたからだ。

「・・・父さん・・・?」

「――これが、“証明”だよ」

久住はにやけながら困惑する彼らに言った。

「・・・・・・ごめんね、創葉」

透韻は哀しげに微笑みながらそっとナイフを抜いた。傷口はその瞬間に綺麗に治ってしまった。




「そんな奴、庇う意味なんて無い!」




叫んだのは、やっと辿り着いた愛理衣だった。

神流とリンも冷たい視線を透韻に向けている。

「――随分と嫌われたものだね、久住」

「構わない。私には君がいる」

「でもまさか、自分の子どもまで裏切る事になるとはね。あんたを選んだのは不正解だったらしい」

「解っていた事だろう?あの子達にはどこまで話している?」

「全部。もう話す事もないくらいに」

「完全に信用された訳か」

「騙すのも大変なんだからね」

透韻は親しげに話していた。昔の付き合いもあってか、今までにあった確執さえ感じさせぬ程、無邪気な笑みを見せていた。

「透韻・・・」

「さぁ、久住。君の望みを叶えようか」

彼は麗夢達を見据えながら、言った。

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