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ランドマイン  作者: 淡月 涙
39/50

『友だちだから・・・』

随分と遠くまで来たらしい。リンは乱れた呼吸を整えながら歩くペースを保っていた。

「彼処に宿が見えます」

少女は前方に見える茅葺き屋根の宿を指した。

「其所で休みましょう」

青年の指示に従い、少女はリンの手を離し、先に宿へと向かった。

「おいで」

戸惑うリンに優しく微笑みながら青年はゆっくりと進んでいった。リンも後に続く。

「一部屋だけ空いていました」

予約を取った少女が青年に伝える。仲居の案内で部屋へ通され、漸く落ち着く事が出来た。青年に降ろされた神流は片足を抑え踞る。

「見せて下さい」

神流は素直に脚を出した。青年は少し触れただけで終わらせた。

「軽い捻挫ですね。冷やしてテーピングしながら安静にしていれば治りますよ」

「本当?」

「えぇ。今、テーピングしますね」

青年は持ち物から取り出し、手際よく処置した。

「・・・ありがとうございます」

「どういたしまして」

処置が終わると痛みは引き、身体も軽くなった。

「神流ちゃん・・・」

リンが静かに寄り添う。

「・・・何で逃げなかったの?」

「だって・・・神流ちゃんを見捨てるなんて出来ない」

「そんな優しさ、通用する訳ない・・・。二人捕まったら今度こそ逃げ場なんて無かったかも知れない」

「其でも」

リンは神流の手を強く握りしめた。

「あたしだけ助かるなんて嫌だと思った。神流ちゃんが犠牲になる必要なんて無い!」

「リンちゃん・・・」

神流は今まで堪えていた涙を溢れさせ、リンの胸で泣いた。

「辛い思いをしたのですね」

「――当然の仕打ちじゃないかなぁ!」

その場の空気を乱すように少女が大きな声で言った。

「ねぇ――?神流」

「・・・・・・愛理衣」

以前とは雰囲気の違う少女に神流は気付いていた。彼女には恨まれても仕方がない。

「あんたは仲間を殺した。その罪は償って貰うよ」

「でもあれは、久住がやった事で・・・」

リンが話に割って入った。

「黙って見てたんだから同罪でしょ。あたしはあんたを許さない」

少女は殺意のある眼で神流を睨んだ。

「・・・・・・」

「刹那。罪人を処刑する許可を」

「やめて!!」

リンは神流を強く抱きしめながら泣きそうな表情を見せた。

「退きなさい。貴方だって神流に裏切られたでしょ」

「そうかも知れない・・・。でも、神流ちゃんはあたしを助けてくれた!だから、あたしはこの子を守る」

「・・・どうしてそこまで庇うの?」

「だって、友だちだから。神流ちゃんは、あたしの歌を好きだって言ってくれた!あたしを連れて逃げてくれた。だから、裏切るような真似はしない」

強い視線の奥には揺らぎのない決心が映っていた。

「・・・・・・そうか」

少女から殺意が消えた。

「ごめんなさい、神流。」

「愛理衣・・・」

「バカだね、私。仲間を殺せる筈ないのに」

「えっ・・・」

「ずっと一緒にいたんだもん。また逢えて嬉しいよ」

彼女は変わらぬ笑みを見せた。

「・・・あたしもごめん。酷い事した」

「久住の手前、しょうがないよ」

「愛理衣・・・」

「疲れたでしょ。ゆっくり休んで。」

「ありがとう・・・」

「あ!紹介がまだだったね」

思い出した様に彼女は青年の隣に移動した。

「神流、リンちゃん。この人は、刹那。あたしを救ってくれた大切な人。審判なんだ」

「えっ・・・」

リンは「審判」と言う言葉を聞いて驚いた。

「初めまして、お嬢様方。刹那と申します」

彼はにこやかに物腰柔らかく自己紹介した。

「審判って、ホントにいたんだ・・・」

「――あぁ。噂だと思っていましたか?」

「聞いた事はあったけど、でも凄く以前に全滅したって・・・」

「えぇ。私の仲間は20年前に殺されました。たった一人の少女にね」

「えっ・・・」

「私の話はまた後にしましょう。其より、お名前を教えて頂けますか?」

刹那は巧く話を逸らし、リンに振った。

「あ・・・。あたしは、リンと言います・・・」

「・・・神流・・・です」

「リンちゃんと神流ちゃんですね。」

神流は少しだけ久住に雰囲気が似ている彼を避けるようにリンの後ろに移動した。

「――仲間同士で話したい事もお有りでしょう。私は少し席を外します」

場の空気を悟って、刹那は部屋から出ていった。神流は不安が収まり安堵する。

「――大丈夫?」

「・・・うん。ごめん、気を遣わせて」

「気にする事無い。神流がどう感じたかは解らないけど、刹那は味方だよ」

愛理衣はまっすぐな瞳で言った。

「其は・・・解ってる。でも・・・信じてまた裏切られるのは嫌だから・・・」

「・・・久住の事?」

「優しい人には気を付けろって言われてたんだ・・・」

「そうだね。本当に用心しなきゃいけないのは、怖い人じゃなくて優しい人だって彩弓も言ってた」

「警戒心が強くなってるんだと思う・・・。だから、初対面の人には気を許せない」

「それで良いんじゃないかな?」

リンの発言に二人は同時に聞き返した。

「うん。だから、初めから気を許せる人なんて早々いないんだよ。少しずつ相手を知っていって初めて大丈夫だって思えるんじゃない?」

「・・・そう・・・かな?」

「まぁ、あたしの個人的な考えなんだけどね」

リンは照れながら笑みを溢した。

「――愛理衣は、あの人と旅をしてるの?」

急に話題を変え、神流が聞いた。

「うん・・・。また、皆に会いたいから」

「そっか・・・」

神流は俯く。自分は仲間を裏切ってしまった。今更、どんな顔で会えば良いのか・・・。

「神流とリンちゃんも一緒に行こう?」

「えっ・・・」

「折角会えたんだし。ね?」

リンは神流の表情を窺った。まだ悩んでいる様子だ。

「――今すぐ頷かなくてもいいんだ。気持ちの整理ついたら教えて。――ちょっと刹那の所に行ってくるね」

愛理衣は笑みを浮かべたまま部屋から出ていった。

「・・・どうしたらいいのかな・・・」

神流は不安そうに呟いた。

「リンちゃん、言ってくれたよね?愛理衣達は良い人達だから解ってくれるって」

「うん」

「愛理衣は優しいからまた誘ってくれたけど、皆に会った時、どんな表情するかな・・・。あたしは、裏切り者として扱われちゃうんじゃないかって・・・」

「――そんな薄っぺらいものだったの?」

「えっ・・・」

リンを見た神流の表情が固まった。

「いつまで独りぼっち演じてるの?神流ちゃんにとって仲間って何?裏切ったらもう縁が切れたって思ってるの? 今までずっと一緒に過ごしてきたんでしょ・・・?だったら、戻り方だって知ってる。そんな簡単に崩れる関係だったら、皆怒らない。神流ちゃんが皆を裏切った時、哀しい表情してなかった?貴方の事を仲間だって思ってたからでしょ?愛理衣だって普通に接してくれたじゃない。だから・・・」

リンは神流を引き寄せ、抱き締めた。

「大丈夫だよ。きっとまた、一緒に笑えるよ。あたしもいるから。大丈夫」

その強い想いに神流は静かに涙を流した――

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