歌姫セイレーン
カランとドアのベルが鳴って入ってきてのはマール。
「おはようマール!あら今日はちゃんと髪を整えてきたのね?女の子だから当然か。」
フフッと笑いながら店舗の女主人カシミアは軽い掃除をしながら彼女に挨拶をした。
ペコッペコと腰をおり挨拶を返し恥ずかしそうに髪を触る。
ここは【歌姫セイレーン】彼女達が働く店舗だ。まだまだ発展途上である為娯楽が少ない世界で歌を提供しており民衆にはこれが癒しとして抜群の人気を誇っていた。
店は夜からの営業だがここ【歌姫セイレーン】では朝から昼にかけて掃除と録音石といって綺麗な色をした数面体の魔石に歌を録音する作業をし販売していた。
「今日は先日発売した新曲がすっごく好調だから追加で録音するそうよ!マールはいつも通り機器の準備をお願い」
この店では昼夜多くのスタッフが働くが一番仲の良いメルビンが奥から出てきた。親指を立てグッと合図をするとマールはせっせと準備を始める。
マールは声を幼少の頃失い以降十六歳の現在まで僅かに声帯を震わせる事すら一度もなかった。そんな彼女がこの歌を生業にしているお店で働けるのはメルビンのお陰でもある。
ある日面接に来たマールを女主人のカシミアは内心断ろうとしていた。歌酒場で働く以上歌は、声は必須であったからだ。しかしそこをメルビンが頼み込み雇う事になったのだ。
「声の調子はどう?」
メルビンがマールに声をかける。ゴホンとジェスチャーしマールが歌う。もちろん声は出ていない。
「クスッ今日も絶好調ね!」
フフンと言わんばかりに腰に手を当ていた。これはいつもの二人のやり取りだ。
「さて準備はいいかしら?あーあー。それじゃマール!合図を。」
この街一番の歌姫カシミアの歌は世界を変えるとも言われる程の実力。曲に歌詞に歌声に心がこもる。歌姫と呼ばれるその女性をマールは目標としていた。いつか私もと思いつつ言われた通りに合図をおくった。
曲が始まる。。。録音中である為誰一人動かず物音など絶対たてないが歌い出したカシミアの声一つで世界が停止する瞬間を目の当たりにする。
まさに歌姫セイレーン。
セイレーンとは声に魔力をのせて歌う事で人々を魅了したとされる伝説の人魚。もちろんカシミアが魅了しようと歌っている訳ではないのだがその歌声は万人を魅了している。
「ふぅ。はい!お疲れ様。みんなどうだった?」
「さいっこーでした!」「泣けちゃう!!」「今日も頑張れます!」
皆各々の感想を興奮しながら伝える。それはマールも同じだった。フンスフンスと鼻息荒く最高だったと両手を握っていた。
「フフッみんなありがとう。録音石から販売用にダビングして終わったら卸しにいきましょう!ついでに昼食食べて夜営業の仕出しして一時解散ね」
録音がある日は殆どがこの流れだった。
この日も雑貨屋に録音石を卸し、食材などついでに買い込んで夕方まで休憩。夜営業し日付が変わる前に閉店片付けとなっていた。
クタクタになった身体で部屋に戻って来たマール。月明かりに照らされた窓を開けて今日のカシミアの歌声を思い出す。あたかも自分が歌っているかの様にマールは出ない歌声で歌うのだった。




