22 少女、と私
めっちゃ久々です…
ーーーあたしはシーナ・スカルヒー。
そう名乗るがその姿は見えない。
視線は確かに感じるのに、変な感じだ。
しかも、聞こえるその声すらすごく不安定だ。その声は、大人の女性の声にも聞こえれば時々、まだ幼い少女の声にも聞こえた。
すごく聞きに取りにくい。
椎菜がそれでも聞く姿勢を崩さなかったのは、その声がとても真剣に、とても真摯に話しかけてくれたからだと思う。そして何より、椎菜自身がその声と話したいと強く思ったからだ。
でも。だとしてもこれはすごく不便だと思うんだけど。
(・・・無視、か?)
何故だ。意思疎通が出来ない。
最初はそう思った。けれど、よくよく聞けば違うらしい。
その声が言うには、椎菜の声はまるで届いてないようで。
『ご、ごめんね椎菜ちゃんが・・・その、何言ってるかまでは分かんなくて』
・・・じゃあどこまでは分かっているのか疑問である。
しかし、そんなに焦りながら申し訳なさそうに言われては何だか言い返しにくい。
ふうっと自分を落ち着ける意味で溜息を吐いた。
・・・そもそも此処はどこだろうか?
視線を動かしてみるが人の姿はもちろん建物も見えない、これでは自分が今どこにいるのか、まるで分からない。ついでに耳を澄ましても、聞こえてくるのはその姿の見えないシーナと名乗る声のみ。
・・・自分がどこにいるか分からないのはこんなに不安になるものなのか。
ぞわりと体が震えた。
身体の冷え込みではなく、心身の不安によるものだろう。
”知らない場所でむやみに動き回るのはとっても危険よ”
椎菜の故郷では大人たちが幼い子によく言う言葉だ。
好奇心旺盛なのは昔からで、よく一人で出歩く椎菜を心配していたからだろう。椎菜自身も耳にタコができるほどよく言われていた。ちょっとばかし煩く思っていたその言葉を少し感謝する。何故なら、混乱に陥らなかったのはその言葉が、椎菜のどこか冷静な部分を引き戻したからだ。
しかし、冷静になったからといって何も好転はしなそうである。
ここは何処か分からないし、聞こえるのは一方的に喋る声のみ。
(・・・ああ。また混乱してきた。)
そんな、椎菜の焦り、恐怖が感じ取れたのか、些か慌てたようにシーナと名乗る声は言い出した。
『・・・あのごめんね?混乱してるよね。でも安心して、現実の貴方はここにいないから』
まったくもって安心できないことをまた言い出した。
反論しようにも相手には何も聞こえないというのは何て分が悪いのだろうか。
悔しいので上を向いて睨んでみる。・・・視線の先に相手がいるかは定かではないが。
『・・・あはは。椎奈ちゃん、気を失って倒れたでしょう?だからその、・・・貴方はそのまま眠っているの。だから、ここは、えっとそう、・・・例えるなら夢の中かな。』
夢。・・・夢の中で「夢だから」と教えられたよ。
でももし、それが本当なら。
きっとすごく心配してる。
未だに倒れて眠っているのなら、・・・・・・どれだけ心配をかけているのだろうか。
心配されるのは嫌だ。ーーー嫌いだ。
昔からとてもとても嫌だ。心配するときに浮かべる不安そうな悲しそうな顔がとにかく嫌だった。
好きな人などそういないと思うけれど、椎菜は特にその顔がどこまでも苦手だった。
だからその顔を見ないために、いつも自分は大丈夫だと心配なんて不要だと、そのせいで嫌いな子供扱いをされてるのいるのかもしれないが、とにかく頑固なまでに気丈に振舞う子だった。
でも、心配するのは、その人が大切だから。
単純に、大切にされて好かれて、嬉しくないわけはないし、椎菜自身彼等のことが大好きで大切だ。
『大丈夫。・・・皆、心配してるけど眠っているだけだと分かってはいるだろうから。』
声は、シーナはそう言った。
心配はしてるけれどーーー大丈夫。
静かにふわりと、とてもとても優しくそれは耳に残る声で。
椎菜の不安を最初から知っていたように、分かっていたように。
『ねぇ、椎菜ちゃん』
問いかけるように聞こえたシーナの声に顔を上げる。
『・・・椎菜ちゃん、人に好かれるのを怖がっては駄目だよ。その好意はいつしか絆になって貴方の力になる』
どういう意味だろう。
『---私が、そうだったように』
・・・どういうこと?
ーーーでも、それは聞いたことがある。
違う、言ったことがある?何だろう。・・・でも聞き覚えがあるなぁ。
え?でもどこでだろう。
どこでだろう。
確か続きが・・・
「ーーーっし椎菜ぁぁぁッ!!!」
「・・・え」
あ、アカシア?
この声ってアカシアの声?
「椎菜ちゃんッ!!」
・・・アリス?
この声はあの猫たちだ。それは叫んでいるようで、まるで悲鳴みたいに聞こえる。
聞いてるだけで苦しい、何も見えないのがまた苦しい。
私を呼んでいるのに。
「・・・え?」
何も見えない風景が少し斑になっていく。
その様は水面に水を一滴垂らした時のよう。
多分すごく心配をしてる。
・・・行かなきゃ。
なにも見えない風景の中を歩きだす。恐怖は感じない。
おそらくあの辺だろうと声のする方に目星をつけて。
『・・・ふふ、やっぱり敵わないなぁ。』
シーナの声がBGMみたい。
さっきはあんなにはっきりと聞こえたのにと少し立ち止まると、どこか焦ったような声が降ってきた。
『ああ、ごめんね。止まっちゃだめだよ。・・・前が見えたのなら進まないと。』
だから早く、と急かすその声に今度は振り向かず立ち止まらずに椎菜は歩きだした。
読んで頂き感謝しております( ゜ー゜)泣